AIFN学術セミナーに450人超が参加 睡眠不足の社会的損失と「腸活」の重要性にフォーカス
(一社)国際栄養食品協会(AIFN/天ヶ瀬晴信理事長)はきのう20日、AIFN学術セミナー「第2回最新研究で知る腸内革命の今(睡眠・ストレス編)」を都内会場(AIFNセミナールーム)とオンラインによるハイブリットで開催した。
会場はほぼ満席となり、オンライン参加者と合わせて450人超が参加した。セミナーは、腸と脳の関連性、特にストレスや睡眠に焦点を当て、3人の著名な研究者による講演と、協賛企業による最新の研究・技術紹介、パネルディスカッションで構成。現代社会におけるメンタルヘルスの重要性の高まりを背景に、食品開発の新たな可能性を探ることを目的として開催された。
天ヶ瀬氏「日本は腸内細菌研究で世界をリード」
AIFNの天ヶ瀬理事長は冒頭、AIFNがグローバルな視点で活動していることを強調し、腸活や腸内細菌叢に関するテーマを積極的に取り上げている背景を説明。天ヶ瀬氏が米国で活動していた1990年代当時、プロバイオティクスはまだ無名だったが、日本企業の協力も得て市場を広げ、現在ではトップ5に入る巨大市場に成長した経緯が語られた。発酵食品の伝統を持つ日本が、腸内細菌に関する研究で世界をリードするポテンシャルを持つと述べ、講演者による睡眠やストレスに関連した最新の研究成果への期待を表明した。
腸内環境の改善が睡眠・認知機能を維持
講演1として、京都府立医科大学大学院医学研究科、生体免疫栄養学講座教授の内藤裕二氏(=下の写真)が、「ガットフレイル」をテーマに講演した。内藤氏は、胃腸の虚弱状態を指す「ガットフレイル」という概念を提唱。パーキンソン病において脳の炎症と便秘が相関する「ガットファースト」の知見に基づき、腸内環境や食生活、環境要因が脳腸相関に及ぼす重要性を指摘した。

内藤氏らが行った3,000人を対象とした調査では、消化器症状を持つ群において、有意な睡眠の質の低下と労働生産性の損失(プレゼンティズム)が確認されたという。特にお腹の不調はQOL(生活の質)や幸福感を損なう要因となっており、ガットフレイル群では肉類や加工食品の摂取が多い一方、健康群ではヨーグルトや大豆製品の摂取が多かったとしている。
また京都府京丹後市のコホート研究では、食物繊維の摂取が睡眠の質を改善し、それを介して間接的に身体的フレイルを予防する因果関係が示された。また、認知機能が高い高齢者ほど腸内のビフィズス菌が多く、その背景には乳製品の摂取が関与していることが示唆された。腸内環境の改善は、睡眠・認知機能の維持に寄与する可能性があるとしている。
腸内環境が睡眠の質を左右する
続いて登壇したのは、大妻女子大学家政学部食物学科教授の青江誠一郎氏(=下の写真)。青江氏は、腸内環境と睡眠の深い関係について最新研究を解説した。

プロバイオティクス(乳酸菌等)は迷走神経を介してストレスホルモンのコルチゾール分泌を抑制し、睡眠の質を向上させる。一方、発酵性食物繊維などのプレバイオティクスは、腸の炎症を防ぎ、脳への悪影響を軽減すると解説。
青江氏は、睡眠への影響として、特に腸内細菌と体内時計の連動に着目。腸内細菌自体が日内変動を持ち、宿主の時計遺伝子と同期している。食物繊維から産生される短鎖脂肪酸は、この概日リズムを調節する能力を持つと話した。
臨床試験では、ラクトバチルス属やビフィドバクテリウム属の菌株が睡眠改善効果を示している。青江氏は、「良質な睡眠には、数週間かけて腸内フローラのリズムを整えることが重要。穀物、根菜、豆、海藻など多様な食物繊維の摂取が有効」と結論付けた。
日本人の深刻な睡眠不足と健康リスク――柳沢正史教授が警鐘
講演3として、筑波大学、国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長・教授の柳沢正史氏(=下の写真)が登壇。睡眠医学の第一人者として、睡眠の基礎科学から最新の研究まで、幅広く解説が行われた。

柳沢氏は、日本人の睡眠時間が先進国で最も短く、特に女性の睡眠不足が深刻だと指摘した。客観的データによれば、睡眠不足は徹夜明けが血中アルコール濃度0.1%に相当するほど脳機能を低下させ、認知症リスクを2〜3倍に高める。さらに、一晩の徹夜で脳内にアミロイドβが蓄積することも判明している。
柳沢氏は、睡眠の「量」だけでなく「規則性」の重要性を強調。週末の寝だめによる「社会的時差ボケ」は生産性を著しく低下させる。また、夢を見るレム睡眠が少ないと総死亡率や認知症リスクが上昇するというデータも紹介された。
柳沢氏が発見した覚醒物質「オレキシン」をブロックする新薬は、依存性のない自然な睡眠を促す画期的治療薬として実用化されている。一方、家庭用脳波計による研究では、不眠を訴える患者の3分の2が実際には十分眠れている「睡眠誤認」であることが判明し、安易な睡眠薬処方に警鐘を鳴らした。また、自覚症状のない睡眠時無呼吸症候群が検査者の6人に1人に見られ、放置すると死亡リスクが40%に達するため、客観的評価の重要性を訴えた。
協賛企業3社がプレゼン
森永乳業㈱研究本部バイオティクス研究所所長の小田巻俊孝氏は、ヒト常在性ビフィズス菌MCC1274による認知機能改善効果を発表した。軽度認知障害の高齢者を対象とした臨床試験で、16週間の摂取により記憶機能や視空間構成能力が有意に改善し、脳萎縮抑制の傾向も確認された。作用機序として、脳内アミロイドβ産生抑制やミクログリア活性化抑制による抗炎症作用が示唆されている。
名古屋大学発ベンチャーの㈱ヘルスケアシステムズは、エクオール産生能や塩分摂取量などを測定する郵送検査キットを提供している。取締役の細谷吉勝氏は、検査結果を基にパーソナライズされた情報提供や商品推奨を行い、消費者の健康行動変容を促す社会実装を目指すと話した。
受託製造の三生医薬㈱研究開発本部、製品開発部の野村聖也氏は、プロバイオティクス製造の高度技術を紹介。胃酸から菌を守る腸溶性コーティングや大腸到達技術、専用製造ラインなど「技術・環境・実績」の三本柱で高品質な生菌サプリメント製造を実現していることなどを紹介した。



(上の写真:左から森永乳業㈱研究本部バイオティクス研究所所長の小田巻俊孝氏、㈱ヘルスケアシステムズ取締役の細谷吉勝氏、三生医薬㈱研究開発本部、製品開発部の野村聖也氏)
食品による睡眠改善効果に課題
最後のトークセッションで、日経BP総研メディカル・ヘルスラボ 客員研究員、おいしい健康研究所所長の西沢邦浩氏がモデレーターを務め、内藤氏、青江氏、小田巻氏がパネルディスカッションを行い、食品による睡眠改善効果の科学的証明には多くの課題があることが明らかになった。意見を求められた柳沢氏は、現状の機能性表示食品が主観評価に依存している点を問題視。客観的な睡眠評価と詳細なメカニズム解明が不可欠だと強調した。内藤氏は、腸内細菌データと睡眠の直接的関連を示すエビデンス取得の困難さを指摘する一方、食物繊維が消化管受容体を介して作用する新たな可能性に言及。柳沢氏は、酪酸が睡眠制御に関わるHDACを制御する仮説を提示した。
食品業界では動物実験が困難なため、メカニズム研究が進まない現状も浮き彫りになった。今後は、「脳腸相関」という曖昧な表現を脱し、科学的根拠に基づいた製品開発が求められると締めくくった。

(上の写真=パネルディスカッションの様子)
【藤田 勇一】











