8年目に入った機能性表示食品制度 森下竜一氏、「これまでのところ順調に推移」
今年4月、機能性表示食品制度は施行から8年目を迎えた。制度創設の背景には、安倍晋三元首相が推進した「規制改革」がある。当時の規制改革会議委員として、食品の機能性表示制度の創設を強く提言するとともに、行政との議論を主導した森下竜一氏は今、制度の運用状況をどう見ているのか。今後の展望も含めて聞いた。
──8年目に入りました。これまでの制度運用をどう評価しますか。
森下 まだ道半ばであるにせよ、これまでのところ順調に推移してきたと思います。この流れを止めず、日本のヘルスケア産業のプレゼンスをさらに高められる方向に持っていけるといい。それに、規制改革のモデルケースになっているとも考えています。事業者が使いづらかったゆえに、機能性表示食品制度の創設のきっかけにもなったトクホ(特定保健用食品)の許可件数は数件(20年度8件、21年度16件)にとどまる一方で、機能性表示食品の届出件数は、毎年度増えている。累計で5,000件以上に上り、市場規模は、約4,500億円(21年度見込み、富士経済調べ)と推計されています。
機能性表示食品制度が創設されたことで、健康食品の存在感が大きく高まったのではありませんか。臨床試験を実施する事業者がもの凄く増え、一定のエビデンス(科学的な根拠)のある素材や商品も増えた。その上でこの制度は、ウェブサイト上でデータが全て開示されるから透明性も非常に高い。だから事業者も消費者も得をする。規制改革によって日本の健康食品産業が健全に活性化されたと評価しています。
──実際、広告宣伝される健康食品の多くが機能性表示食品になりました。
森下 ウェブサイト上では、機能性表示食品以外の健康食品は広告が非常にしづらくなっていると聞きます。以前からそうした状況にあったようですが、ここにきて加速しているようですね。あるEコマース支援企業の大手の社長は、「機能性表示食品にしてほしい。そうでないとサポートできない」と、クライアントに話しているとか。今はそういう時代で、それが正しい姿なのだと思う。逆に言えば、機能性表示食品制度が生まれる以前がどうであったのか、という話です。
──今後も機能性表示食品を届け出る企業が増えていくと思いますか?
森下 そうなるでしょうね。この制度は更なる発展が期待できる。大切なのは、制度を硬直化させないこと、そのためにも業界団体が「ワンボイス」になること。行政と業界団体の間で、消費者の視点も採り入れながら、常に制度の見直しを進め、そのようにして制度を柔軟に運用していくこと。それが出来れば、この制度は今後さらに大きく発展していくはずです。
民間での届出事前確認、大きな変化起こす可能性
──制度自体が見直されるわけではありませんが、近く、民間団体での届出事前確認の仕組みが制度化されそうです。この影響をどう見ますか。
森下 非常に大きな話です。一気に変化していくようなこともあるかもしれない。可能性としては、アッパーとダウナーの両方があると見ています。アッパーサイドは、消費者庁での届出確認期間が最終的に「ゼロ日」になることで、この制度が、事業者にとってより使い勝手の良い届出制に変わること。シーズンや商戦などに合わせた商品展開が速やかに、かつフレキシブルに行えるようになり、機能性表示食品そのものが、広告宣伝や商品ブランディングなど、各社の事業戦略により合わせやすい商材になっていく。
これまでの届出制では、届出資料を差し戻してきた消費者庁の意図がどこにあるのか分からず、結果、商戦を逃すようなことが起きていた。一方、今後の民間での事前確認を伴う届出制では、届出資料を確認する民間団体が事業者に対して直接、「ここはこう直したほうがいい」とアドバイスを出来るようになる。そうすると、ゾロ(届出実績のある機能性表示食品の届出)であるにもかかわらず届出までに1年を要すなどといった、これまでに実際に起こってきた事態を避けられるようになります。その意味で、スピーディでフレキシブルな商品投入が可能になる。民間での事前確認制は、機能性表示食品にそういう変化を及ぼす可能性があります。
──では、ダウナーサイドは?
森下 結局ほとんど何も変わらない、という可能性です・・・
続きは「Wellness Monthly Report」第48号(6月10日発刊)で。同号では、8年目に入った機能性表示食品制度を特集。第49号へと続く2号連続特集になっている。
【聞き手・文:石川太郎】
<森下氏プロフィール>
医学博士。内閣府の規制改革会議委員、健康医療戦略本部戦略参与、規制改革推進会議委員、大阪府・市の医療戦略会議特別参与などを歴任。現在は内閣府の健康・医療戦略推進事務局健康・医療戦略参与、大阪関西万博大阪府市パビリオン総合プロデューサーなどを務める。