5類へ「コロナ対策」大きな前進も 基礎疾患を持つ高齢者対策が課題
食の信頼向上をめざす会代表 健康食品試験法研究会代表 東京大学名誉教授 唐木 英明 氏
岸田首相は、1月20日、新型コロナの感染症法の位置付けを2類相当から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げる方針を示して対応を指示した。そもそも5類に変更する方針が示されたのは約2年半前の2020年8月、安倍晋三首相の突然の辞任会見だった。
メディアは一斉に2類と5類の違いを解説して、見直しがすぐにも行われるような報道が続いた。しかし後継の菅義偉首相は、就任直後に感染力が強いデルタ株による3波、そして夏のオリンピックはさらに大きな5波に見舞われて、見直しを実現することがないままに退陣した。そして今回、ようやくそれが実現しそうであり、ウィズコロナに向けた大きな前進と評価できる。
コロナ対策3つの課題
しかし、これで問題は終わったわけではない。ここではコロナ対策のもう1つの大きな問題点を、3つの状況から考えてみたい。
第1の状況は新型コロナによる死者である。昨年10月に始まった8波はピークを過ぎようとしているが、死者数はこれまでの最大になる見通しである。現在流行しているオミクロン株の致死率を見ると、60歳未満の感染者については0.01%で季節性インフルエンザと同じだが、60歳以上では1.99%と季節性インフルエンザの3、4倍になる。そして死者の9割超が70歳以上であり、そのほとんどが基礎疾患を持っていた。健康な若者にとってコロナは季節性インフルエンザと同じだが、基礎疾患を持つ高齢者が感染すると体力が弱り、持病が悪化して死亡することが多いのだ。
第2の状況は、高齢者施設でのクラスターの発生だ。第8波では第7波を超える数の施設でクラスターが発生している。高齢者施設の入居者の大部分が基礎疾患を持つため、死亡する確率は極めて高い。
第3の状況は、2021年11月に厚労省が公表した医療経済実態調査だ。新型コロナ流行に伴う受診控えのため、20年度には一般病院は6.9%の赤字となったが、コロナ関連の補助金のため、合計では0.4%の黒字を確保した。
補助金は診療所には70万円程度、一般病院には平均2.4億円支給され、コロナ専用病棟を持つ重点医療機関では約10億円だった。
また、会計検査院によれば、269医療機関の平均収支額はコロナ以前の19年度は約4億円の赤字だったが、感染拡大後の21年度は約7億円の黒字だった。そして、コロナ患者入院病床確保を条件に補助金を受けながら、受け入れを断っていた言語道断の例もある。
コロナ対策費の「不公正」な使途
これでお分かりのことと思うが、コロナ対策費の使い方は有効でもなければ公正でもない。高齢者施設でクラスターが発生して死者が増えることは流行の第1波から分かっていたのだから、対策費は高齢者施設での感染防止と感染者の治療を第一にすべきだった。ところが政治力が大きい医療関係者に高額の補助を行う一方で、政治力がない高齢者施設はほとんど無視され、施設で感染しても病院に入院できない例も少なくない。それが死者数を押し上げている。見直しが必要なのは2類か5類かだけではないことを改めて強調したい。
<筆者プロフィール>
1964(昭和39)年3月 東京大学農学部獣医学科卒業(農学士)
1964(昭和39)年7月 獣医師免許証(第6788号)
1965(昭和40)年1月 東京大学大学院生物系研究科中途退学・東京大学助手
1971(昭和46)年2月 農学博士(東京大学博乙第2370号)
1972(昭和47)年7月 東京大学助教授
1978(昭和53)年4月 テキサス大学ダラス医学研究所研究員
1987(昭和62)年4月 東京大学教授(農学部獣医薬理学講座担当)
1999(平成11)年4月 東京大学アイソトープ総合センター長
2000(平成12)年7月 日本学術会議会員(2006-2008生命科学系第2部部長、2008-2011国際担当副会長)
2003(平成15)年4月 東京大学名誉教授
2003(平成15)年10月 内閣府食品安全委員会 専門委員(2014-2021 専門参考人)
2008(平成20)年9月 食の信頼向上をめざす会代表
2011(平成23)年10月 倉敷芸術科学大学学長、学校法人加計学園理事(2014-学長顧問、2015-現在 学園相談役)
2012(平成24)年3月 財団法人(2014- 公益財団法人)食の安全・安心財団 理事長(2022.3退任)
2022(令和4)年11月 健康食品試験法研究会代表
<著 書>
「暮らしの中の死に至る毒物・毒虫」(講談社 2000)、「食品の安全・危険を考える」(食生活 2003.7-8)、「食の安全と安心を守る」、(学術会議叢書 2005)、「食品添加物の安全性と無添加食品」(食と健康 2005.9)、「食品のリスクとリスクコミュニケーション」(遺伝 2006.3)、「全頭検査神話史」(日本獣医師会誌 2007.6)、「無添加・無農薬」の幻想(月刊フードケミカル 2008.1)、「食の安全に対する消費者の不安をどう解くか」(食品トレンド2008-9 日本食糧新聞社)、「食品安全の事典」(朝倉書店 2009)、「食品安全ハンドブック」(丸善 2009)、「食の安全を求めて―食の安全と科学―」(学術会議叢書 2010)、「検証BSE問題の真実」(さきたま出版会 2018)ほか多数。