サプリメントは食品なのか 日本学術会議「サプリ提言」の内在的論理、取りまとめ責任者に聞く(後)
日本学術会議が今年2月末に公表した「サプリメント法」の制定を基軸とする提言「我が国の機能性食品制度に関わる課題とその対応」。その取りまとめ責任者の堀正敏・東京大学大学院農学生命科学研究科教授(獣医薬理学教室)がウェルネスデイリーニュースの取材に応じた。「サプリメントは食品なのか」。提言の出発点にあったのはそんな問いだったと明かす。前後編のうち後編。前編はこちら。
なぜ、制度の見直しが必要なのか
2024年3月29日。提言の審議がキックオフされた日だ。小林製薬が「紅麹サプリ」健康被害問題を公表した1週間後にちょうど当たるこの日、堀教授が委員長を務める食の安全分科会は、「『紅麹サプリ食品事故』から考える~サプリメント、機能性表示食品とは?~」と題した公開シンポジウムの開催を協議。翌月27日にオンライン開催することになる同シンポの企画書を作成するとともに、日本学術会議としての意思の表出について協議していた。審議を始めた経緯を堀教授が説明する。
「それ(健康被害問題)をきっかけに動き出したのは事実です。ただ、我々のコンセプトとしては、その食品事故そのものを表に出すのではなく、あくまでもそれを契機として機能性食品全体の制度を見直そうということでした。だから提言の中でも、紅麹については一切触れていません」
では、その「制度を見直す」というコンセプトの念頭にあったのは何か。やはり規制強化だったのだろうか。
「念頭にあったのは、サプリメントは食品なのか、という素朴な疑問です。これ(サプリメント)を本当に食品として扱っているままで良いのかと。そこがかなり大きなきっかけになっています」(堀教授)。
提言では、一般的な食品とサプリメントの違いを次のように指摘している。
・ 一般的な食品は天然の食用生物(動物、植物、微生物)から製造されるのに対し、サプリメントは、天然からの抽出物もあれば、栄養機能食品として認められたビタミン・ミネラル等のなかには一部合成化合物もある。
・ 含有成分の種類としては、一般的な食品には多数の成分が含まれるが、サプリメントでは通常は成分の種類は少なく、機能性成分(食品の三次機能を持つ成分)の含有率が高い。すなわち、それ以外の成分が除去され機能性成分が濃縮されていたり、合成あるいは抽出した機能性成分のみが入っていたりする。そして、濃縮段階で予期せぬ不純物も濃縮されてしまう可能性がある。
・ 一般的な食品は自由に摂取するが、サプリメントは通常摂取量の目安が事業者により独自に指定されている。
・ 一般的な食品は味、匂い等の食品の二次機能(嗜好性)を有しているが、サプリメントには嗜好性がない。
どのレベルの「サプリメント法」を求める?
こうした違いがサプリメントと一般食品にはある。そのため、サプリメントを「健康食品を含む食品と医薬品と法的に区別して扱う」ことを提案したのが今回の提言の肝だ。
「一般食品にはないリスクがサプリメントにはあるのですよ、ということを分かってもらうためにも、国民にはまず、サプリメントは食品であるという認識を変えてほしい。そうするためには、サプリメントを食品から法的に独立させる必要がある。今回の提言はそこが最も大事な点であって、その意味では非常にシンプルです」(堀教授)。
その上で、サプリメントを法的に独立させる手段として提言したのが「サプリメント法の制定」である。ただ、提言が主張する「法の制定」とは、独立した新法の制定を意味するのか、それとも既存法の改正による制度創設を含む趣旨なのかは、必ずしも明確ではない。この点について堀教授はこう語る。
「どのレベルの法なのかまでは述べていません。それを明示するのは我々の役割ではないと思います。私見では、ガラッと変えるのが一番良いと思っています。ですが、それをすると非常に多くの時間と労力がかかりますし、関係者に及ぼす影響も非常に大きい。この点は、我々も内部でずいぶん長く討議しました。『抜本的に変えるべきだ』という立場と、『今あるものを上手に使いながら国民に浸透させていくのがベターだ』という立場の両方がありました。
ただ、(法制定の仕方はどうあれ)一番大事なのは、国民が(健康食品に関する制度を)完全に理解できて、(市販商品の)安全性が担保されて、(個々の商品の)情報を正しく入手しながら、国民一人ひとりがそれぞれのニーズに則した健康食品を利用できるようにすること。我々が提言を出した目的には、この提言を基に話し合っていただくことが1つありますが、政府や関係行政、それに民間とも一緒になって、国民に分かりやすく解説したり、コミュニケーションを取ったりすることも目的です。
我々が一方的に伝えるのではなく、行政と企業とアカデミアが同じ場に立って、消費者と双方向でやり取りするような場を作っていきたい。(2026年10月に国の特別機関から独立した特殊法人に変わる)学術会議としては、そこまでやらないと意味がないと思うのです。科学について、国民が知りたいことを国民目線で分かりやすく解説する。それを我々の使命として、年1回なりのシリーズとして行っていくことを(提言の)フォローアップの1つとして計画しています。ぜひ実現させたいと思っています」

機能性に対する視点が薄くないか
健康食品について、「国民がいつでも正しい情報を入手できるような社会環境整備が大切である」。提言にはそうある。そうした環境整備を、行政や民間と手を携えながら、日本学術会議として率先して行っていきたい──堀教授はそう語る。
そうであれば、健康食品の機能性も伝えていかないと意味がないのではないか。それを利用する人々は、なにも安全性だけを求めているわけではないからだ。だが、提言の重心は安全性に大きく傾き、機能性に対する視点は薄いように思える。
「提言のイントロダクションでも説明していることですが、日本では食品の三次機能(生体調節機能)の研究が1990年代から始まり、新しい三次機能を次々に見つけていこうという研究を先行させてきました。食品の三次機能を研究する研究者は多いですから、それは今後も続いていくはずです。そうした中で、足りていないこと、不足していることに意識を向けたのが今回の提言であるということだと思います。
足りていないこと、不足していることというのは、三次機能を見つけた上で安全性や品質を担保することであったり、国民が健康食品や(健康食品に関する)制度を正しく理解できていないことであったり。また、健康食品が実際に国民の健康に寄与しているのかどうかという検証もそうです。健康食品がこれだけ世界中で売れているということは、消費者が効果を実感しているからでしょう。何も感じなければ誰も買わない。そこにはおそらく真実がある。
そうした健康食品の効果感を科学的に証明することは非常に難しいのが事実ですが、提言には、(市販後の長期的な)栄養学的調査によって健康への有用性の検証を行うことが重要であると書いてあります。この点は、パブリックヘルスの研究者たちから非常に強い提案がありました。海外には事例がありますから、日本でもそういう検証もやっていく必要があると思います」
一方で、事業者は、健康食品の安全性や機能性に対する行政による管理を強く求める提言をどう受け止めるだろうか。おそらく「規制強化」だ。堀教授はそれを認めた上でこう語る。
「非常に悩んだのは、規制を厳しくすれば産業が縮小していくということです。健康食品が日本経済の中で占める割合は一定のものがありますから、そこは意識しなければならない。ガチガチに縛ることは簡単ですが、それによって機能性食品の産業が縮小してしまうのは良くない。ですから、法制度を変える際には、最初の5年から10年くらいはサポートしながらボトムアップしていくしかないのではないかと考えています。
例えばGMP(適正製造規範)の遵守を義務づけるにしても、最初からすべての事業者が対応できるわけではありません。ですから、ある程度のサポートを国がしてあげる必要があるのではないかということは、提言にも書いてあります」
その上でこうも語った。
「一定のレベルのルールが守られていない状態では国民のセルフメディケーション(セルフケア)は成り立ちません。そこが足りていなかった以上、いったん厳しくするしかないということだと思います」
(了)
【石川太郎】
【プロフィール】堀 正敏(ほり・まさとし)=博士(獣医学)。2018年より東京大学大学院農学生命科学研究科教授。日本学術連携会員を経て2023年より日本学術会議第26期会員第二部副部長。全国大学獣医学関係代表者協議会会長、日本薬理学会理事、日本神経消化器病学会理事、日本平滑筋学会理事も務める。専門は薬理学。研究テーマは消化管免疫―運動連関、臓器線維症と間葉系幹細胞、平滑筋の細胞生物学、食品成分や漢方成分ならびに海産毒など天然有機化合物の生理活性作用の探索。
関連記事:日本学術会議、サプリ法の制定を提言
:学術会議サプリ提言の受け止めは? 消費者庁長官に尋ねる
:検証、学術会議「サプリ法」制定提言【寄稿】唐木英明・東京大学名誉教授

