サプリ・健食はどこへ向かう?(後) 【WNG覆面座談会】記者3人が考察する現在地と今後
ここは東京都港区西新橋2丁目。青いビルの5階にある編集部の会議テーブルに記者3人が集まり、議論を始めた。議題は「サプリメント&健康食品産業の今、どこに課題があり、どこに展望があるのか」。2025年末時点での覆面記者3人の考え。前後編のうち後編。前編はこちら。
機能性に関する臨床試験と論文を巡る現在地
ジョン ジョージ、君はCRO(臨床試験受託機関)まわりを取材していたな。サプリや健康食品のエビデンス(機能性に関する科学的根拠)に直結する領域だが、何か変化は見られたか?
ジョージ 24年2月に発表された染小(そめこ)先生らの論文は覚えているかい? 機能性表示食品を巡ってCROが関与した一部の臨床試験論文とそれを踏まえた広告に「スピン」があると指摘した論文のことだよ。それと関係しているのかどうかは何とも言えないのだけど、その前後で、とある国内学術誌に掲載される論文本数が明らかに減った。実際にバックナンバーを調べてみると、23年は年間114本だったのが、24年は66本と約40%減少していた。25年については8月号までのデータなんだけど、月平均で見ると23年が10本、24年が6本、25年は3本まで落ち込んでいた。
ジョン 染小論文の指摘を受けて査読を厳しくした。そういうことか?
ジョージ それを知りたくて出版社に取材を試みたんだけど、回答をもらえなかった。でもさ、24年6月の取材には応じてくれていて、査読体制を強化すると。具体的には、レフリー(査読者)を増員したり、CONSORTチェックリスト(ランダム化比較試験の研究報告に関する透明性や再現性などを高めることを目的にした国際的な報告指針)の添付を求めたりとか、投稿規程の見直しを示唆していた。だからその可能性が高いと思うな。実際、ある事業者は「明らかに言われる内容が変わった」と言っていたよ。そういう流れの中で、他の国内外の学術誌に投稿する動きも出てきたようだね。
試験のブラックボックス化をどう解消するか
ジョン なるほどね。ほかに何か変化はあるか?
ジョージ 二極化してきたなと感じるよ。
ジョン どういうこと?
ジョージ 食品CROをけん引してきた老舗企業と、独立系の新興企業に業界が分かれてきたということ。老舗は長年の信頼関係に基づいて大手を中心に仕事を請け負っている。そこに新興企業が独自のソリューションを武器に割って入っていこうとしている構図。新興企業はフットワークが軽い。だから小さな案件にも対応しながら大きな案件に結び付けるようなケースもあるようだね。あと、臨床試験のブラックボックス化を懸念する声も聞いたな。
ポール ブラックボックス? それを防ぐために臨床試験の事前登録が推奨されているはずだが。
ジョージ そうなのだけど、必ずしも試験の委託者名を登録する必要はないし、事前登録したとしても実際に実施した試験の中身までは分からない。試験のプロトコルは示しても、どういう試験を実際にやったのかということが分からない。そのようなブラックボックス化の原因の1つが、CROとSMO(臨床試験施設支援機関)の一体化だと言われているんだ。
ポール 普通、一体化しているものでは?
ジョン いや、医薬品の治験を知っている人はみんな驚くらしいよ。医薬品の場合、CROがプロトコルを組み、SMOが試験を実施する、というふうにCROとSMOは全く別の体制になっている。一般的に健康食品はそれが一体化していてさ、そのことを良いように捉えれば、CROに依頼すれば一気通貫で最後まで面倒を見てくれるという便利さがある。一方で、一体化されているためにCROが試験に介入したり、操作したりすることも可能性としてはできてしまうわけだよね。自社で設けた厳しい基準を基に試験実施まで請け負っているCROは多いけれど、そのように一体化されているから結果的に臨床試験の質が低下してしまったという指摘もある。だからそうした問題を解決しようとSMOに特化する企業も新しく現れているんだ。CROの仕事である試験設計は一切やらない、論文作成にも関わらない、あくまでも試験の実施に特化するということだよ。
今後問われる「エビデンスのあり方」
ポール うーん、CROとSMOを分けたところで生データをいじることは不可能ではないよな。論文を疑い出したらきりがない。
ジョージ 論文もそうだけど、臨床試験の質をどう担保するか。そこが課題だと思う。業界団体を立ち上げて、業界として標準化したり、ガイドラインを作ったりするのはどうかという声も一部の食品CROや大手食品メーカーから上がっている。ただね、そうした声が聞かれるようになってから何年も経過していてさ、食品CRO全体の総意というわけではないように感じる。それを作ることで自分たちの首を絞めるというふうに考えているのかもしれない。
ジョン とあるCRO機関の代表がリーダーシップを発揮して全体をけん引していた時代もあった。臨床試験の質、論文の質をきちっとしないと、健康食品全体が闇の深い業界だと思われてしまう。
ジョージ 中から変えていく必要がある。そんな気概を持ったCROもあるよ。そこが救いかなと思うし、それをやるなら多くの企業を巻き込まなければ意味が無いよね。
ジョン すべての問題がつながっていると思う。機能性を訴求しようというのであれば、その表示の科学的根拠が問われる。それが問われるということは、論文の質が問われ、ひいては論文の基になる臨床試験の内容であったり、その質であったりが問われるわけだ。ポールが話したサプリ規制のあり方の問題とも結局は地続きだと思うぞ。
食品表示の横断的な見直しに注目
ポール ジョン、君はサプリや健康食品に限らず食品表示全般を取材していた。消費者庁が食品表示の横断的な見直しを進めていると聞いているが。
ジョン そう。消費者庁が2023年度に「食品表示懇談会」を立ち上げ、食品表示制度のあり方を横断的に見直す動きが始まった。
ジョージ なぜ見直そうとしているの?
ジョン 個別表示ルールの改正を積み重ねるだけでは対応しきれなくなった制度環境の変化がある。国際的にはコーデックス委員会がデジタル技術などを活用した新たな食品情報提供のあり方を巡る議論が進んでいる。だから日本としても受動的ではなく能動的に対応する必要が生じた。また、2024年度に食品衛生基準行政が消費者庁へ移管されたこともある。それを見据え、食品表示と食品安全を一体的に捉え直し、今後の制度運用の「中長期的な羅針盤」となる大枠を整理する必要が生じた。政府の消費者基本計画工程表においても、国際基準との整合を踏まえつつ合理的でシンプルかつ分かりやすい食品表示制度の検討が位置付けられている。こうした事情を背景に、食品表示懇談会は、従来の縦割り的な議論を超え、制度全体を俯瞰する場として議論が始まった。
ポール 具体的にどんな議論が行われている?
ジョン アレルギー表示、添加物表示、原料原産地表示、栄養成分表示、デジタル表示といった個別の論点がある。ただ、それを超えて食品表示制度そのものを今後どう設計するのかを議論対象にしているのが最大のポイントだな。これは2013年の食品表示法制定(15年施行)以降では初の試みで、今後の法改正に向けた準備と位置付けられる。
ポール 壮大な話だな。健康食品の表示にも影響を与えそうだ。
ジョン 一連の議論の流れの中で注目されたのは、日本版のFOPNL(Front of Pack Nutrition Labeling)、つまり包装前面栄養表示だ。現在は商品の裏側だけにしか一括表示がないが、それを欧米の基準に合わせて前の面に出すのがFOPNLだ。要は、消費者が商品を手に取った瞬間に栄養表示の要点を把握できるようにするということ。FOPNLは国際的には一般的な考え方なんだが、日本ではまだ導入されていない。デジタル化の社会の流れの中で、ほとんどの人がスマホを持っているからQRコードをスマホで読み取るようにするなど、どのように前面栄養表示するかの議論が分科会で進んでいる。
ジョージ 消費者にとっては良い話かもね。
ジョン ただ、店の棚の前などでデータを読み込んでいると人が滞留してしまうなどと反対意見もあったらしい。一応、それを解消できるよう店側も協力しながらやっていこうということで話が進んでいるようだがね。他にも課題はある。たとえばデジタルの方で表示を修正した際にその痕跡を残すとか、残さないとか。結局、残すことになったが、そういった細かな部分をずっと議論している。
ポール なるほど。確かにデジタルだと簡単に修正できてしまうな。
継続的に考えたい ──食品表示は誰のためか
ジョン 話は変わるが、「痕跡を残す」という話で思い出すのが、いわゆる「クリス事件」だ。12月に有罪の一審判決が破棄されて差し戻されたが、逮捕につながったDNA鑑定の結果が覆されたのは、鑑定データを修正した痕跡が残っていたためだ。つまり、不正(改ざん)が行われた可能性があるということだ。この件を僕は、「記録を残す」ことの重要性を象徴する事例だと捉えている。
食品表示の話に戻すと、食品表示懇談会の議論を見ていて強く感じるのは、事業者と消費者団体の意見交換がとても活発であるということ。消費者団体の意見を取り入れてガイドラインが修正されたケースもあった。健康食品業界も、立場の違いを超えてお互いが率直な議論を行える場がもっとあるべきだよな。最終的に購入するのは消費者だ。消費者の視点をどう取り込んでいくかが重要だと改めて感じた。
ポール 同感だ。26年も注目し続ける必要があるサプリ規制のあり方検討にしても、実際にサプリを利用している消費者がサプリに何を求めているのかという視点を忘れてはならないと思う。
ジョン そうだな。26年も業界と行政の動きを注視していこう。
(了)
(冒頭の画像はイメージです。また本文中の名前は仮名です)

