サプリ・健食はどこへ向かう?(前) 【WNG覆面座談会】記者3人が考察する現在地と今後
ここは東京都港区西新橋2丁目。青いビルの5階にある編集部の会議テーブルに記者3人が集まり、議論を始めた。議題は「サプリメント&健康食品産業の今、どこに課題があり、どこに展望があるのか」。2025年末時点での覆面記者3人の考え。前後編の全2回。
小林製薬「紅麹サプリ」事案の重大性
ジョン 2025年の健康食品産業を振り返ったとき、まず整理すべきポイントは何だ?
ポール 小林製薬の紅麹サプリ事案の影響を色濃く残したまま進んだ1年、というのが率直な印象だ。
ジョン そうかもね。2024年3月22日夜に小林製薬が開いた緊急記者会見で明らかになった機能性表示食品の紅麹サプリを巡る健康被害問題。あれを受けて見直された機能性表示食品制度が25年4月に全面施行された。そんな流れだな。
ポール そう。改正制度の施行は2段階だった。まず24年9月に健康被害情報の報告義務など一部が先行して施行されて、残りが25年4月。改正制度のポイントは、これまで通知の「届出ガイドライン」で運用されてきた制度の運用主体が法的拘束力のある法令に引き上げられたことだ。そのなかで4月に施行されたのは、ガイドラインの内容の大半を内閣府令に引き上げたいわゆる「届出等告示」。また、新規の機能性関与成分などについて届け出られた安全性情報を慎重に確認するための「120営業日ルール」、届出の実質的な更新制とも言える「自己点検等報告」の義務化、システマティックレビューのPRISMA2020準拠の実質的な義務化も、このタイミングで動き出した。
その上で2026年9月には機能性表示食品のサプリのGMP義務化をはじめ、容器包装表示の新ルールの完全施行が控えている。加えて、3月末には自己点検等報告の初回報告期日(対象は25年3月末までに届出番号が付与・公開された届出)を迎える。期日までに報告しなかった場合、法令に基づいて機能性表示食品としての要件を欠いていると判断されて、機能性を表示しながらの販売が出来なくなる。機能性表示食品に関わる全ての事業者にとって、気の抜けない日々がしばらく続くと思う。
ジョン 死者が報告された紅麹サプリ事件がきっかけになって、これまで動かなかったものが動き始めたという気がしている。直接影響したわけではないと思うが、消費者庁が頑なに公開を拒んでいた機能性表示食品の機能性関与成分に関する検証事業報告書が全面的に公開されるようになったのも25年だ。現在までに10年度分(15年度~24年度)が公開された。背景には、これも25年の出来事だが、市民が提起した2015年度の報告書を巡る情報開示請求訴訟の最高裁判決がある。僕も行政に対して情報開示請求を繰り返し行っているが、情報を公開することに対する姿勢が変わってきたという印象を受けている。
ポール 紅麹サプリ事案で低下した機能性表示食品制度に対する信頼性を高める。検証事業報告書の全面公開を決断した消費者庁の腹の内には、そんな目的もあったのかもしれない。それにジョン、紅麹事案によってこれまで動かなかったものが動き始めたという君の受け止めは僕も同じだよ。OEM・ODMメーカー特化型の健康食品業界団体として25年に新たに発足した「日本健康食品工業会」がまさにそうだ。何年も前からその必要性を訴える関係者が存在していたと言われているが、設立を決定付けたのは紅麹サプリ事案だと思う。事案に強い危機感を抱いた業界が、企業の垣根を超えて自主的に品質向上に取り組み始めたと好意的に受け止めている。

要注視、サプリ規制のあり方検討の行方
ジョージ サプリの定義に関する議論も始まったね。
ポール そうだ。やはり背景には紅麹サプリ事案がある。事案に対する対応策を24年5月末に取りまとめていた政府の関係閣僚会合が「さらなる検討課題」として、食品業界の実態を踏まえつつ、サプリメントに関する規制のあり方、許可業種や営業許可施設の基準のあり方などについて、必要に応じて検討を進める、という方針を示していた。
ジョン ポイントを整理してくれよ。
ポール 今回の検討は、食品衛生法の枠組みの中で進められることになっている。検討の場は、厚生労働省と消費者庁のそれぞれ審議会だ。24年4月から食品衛生行政の所管が両省庁に分かれてしまったから(食品衛生監視行政=厚労省、同基準行政=消費者庁)、検討体制がそのように「また裂き」になっちまった。分かりにくいよな。で、検討事項はといえば、まず、さっきジョージが言ったサプリの定義。健康食品にせよ、サプリにせよ、法律上の定義がないから、まずはそこを検討することになる。次に、製造管理のあり方。要するにGMP(適正製造規範)のあり方だ。さらに、事業者による健康被害情報の報告。そして営業の許可・届出の大きく4つ。両省庁は、「密接に連携して検討を進める」と繰り返し言っている。とはいえ当然、役割分担があって、定義とGMPは消費者庁、健康被害情報の報告と営業の許可・届出は厚労省が主に担当する。検討・審議が本格的に始まるのは26年からで、取りまとめを行う時期については「26年4月以降」とだけ示されている。
ジョン 検討するのは「サプリの規制のあり方」だ。ということは、サプリをいよいよ法的に定義付けて一律に規制する。想定できるのはそんな流れだよな?
ポール そう考えるのが自然だと思う。紅麹サプリ事案を受けて、機能性表示食品と特定保健用食品については健康被害情報の行政への報告が事業者に義務付けられた。また、それぞれのサプリについてGMP基準に基づく製造・品質管理が義務化された。一方で、それ以外の健康食品やサプリに対するそうした規制はない。そういうわけだから許可制でも届出制でもない自己認証制の栄養機能食品や、そのいずれでもない行政が言うところの「その他(保健機能食品以外)のいわゆる健康食品」におけるサプリを食品衛生法の枠組みで何らか定義し、それに対して機能性表示食品などと同様にGMPや健康被害情報の報告を事業者に義務付ける──そのあたりが、現時点で消費者庁と厚生労働省が考えている落としどころだと思う。
「いわゆる」が取れる日は来るか
ジョン 原材料のGMP義務化の可能性はどうだ?
ポール 紅麹サプリ事案の原因は、小林製薬が自社工場で製造していた原材料にあったわけだ。本来含まれないはずのプベルル酸などが含まれていたのは、最終製品ではなく原材料の製造・品質管理にあったと考えられる。その上で25年は、国内企業が製造した原材料に医薬品成分が極微量混入していたことが発覚し、極微量だから健康被害の恐れはなかったものの、多くの最終製品が自主回収の憂き目にあうという大問題も起こった。だから2年連続で原材料の品質に起因する大きな問題が生じたことになる。従って、最終製品だけでなく原材料にもGMPを義務付けるべきだという機運が業界内外で高まるのは自然な流れだろうよ。だが、今回の検討の中で義務化するのは難しいのではないか。
ジョン どうしてそう思う?
ポール 要するに、実行可能性だ。サプリの安全性を事業者が自主的に確保するための指針をまとめた「3.11通知」でも原材料についてはGMPが「望ましい」とだけされている中で、大手から中小・零細まですべての原材料事業者がGMP基準を実行できるかどうか。一方、現時点で実行していない場合は、GMPのハード(設備)とソフト(人・体制)の両面からの投資が求められるよな? しかし、さまざまなコストが高騰している中でそれが可能かどうか。さらに、日本のGMP基準を海外の原材料メーカーに適用させることができるかどうか。義務である以上、監視が必要になるが、日本の行政機関が立入調査のために海外で出張っていくことが現実的かどうか。僕自身は原材料にもGMPを義務付けるべきだと考えているが、今はまだそのステージではない気がしている。
ジョン GMP認証を20年以上前から進めているJHNFA(日本健康・栄養食品協会)とJIHFS(日本健康食品規格協会)は最終製品だけでなく原材料の工場に対してもGMP認証を行っているし、JIHFSは25年から新しく輸入原材料に対するGMP認証も始めた。もっと活用されるべきだよな。
ポール そう思う。最終製品の製造工場でのGMP認証取得は当たり前になった一方で、原材料はそうじゃない。JIHFSの輸入原材料GMP認証も、現時点ではまだ1製品にとどまる。GMP義務化が必要だと言ったが、行政から規制されるのではなく、今ある業界制度を活用しながら個々の事業者が自主的に規制し、原材料の品質を高めていくことが理想だ。
ジョン いずれにせよ、サプリ規制のあり方検討は簡単ではないな。厚労省と消費者庁は定義をどうまとめるつもりなんだろうか。
ポール そこが最大の論点だと思う。グミなどの菓子類もサプリ的に売られているから、そうしたものもサプリに加えるのかどうか。とても面倒な議論だ。僕は思うのだが、サプリを定義付ける前に健康食品を定義付けるべきではないか。さらに面倒な議論になるはずだが、サプリが制度化された後も「いわゆる健康食品」が残るのだとすれば、そこが規制の抜け道になってしまう恐れがあるし、なにより消費者が混乱すると思う。
ジョン だったら「健康食品=サプリメント」ということにすれば良いのではないか? 僕自身は、食品衛生法の枠組みで制度化するのではなく、サプリなり健康食品なりの独自の法律が必要だと思っている。屋上屋を架すかのようなやり方はもう限界だ。
(後編に続く)
(文中の名前は仮名、冒頭の写真はイメージです)

