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天然抽出物の品質確保のあり方(後) 【サプリ原材料巡る有識者インタビュー】合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所名誉所長に聞く

 まずは基原を守ることが基本──漢方薬の原材料である生薬など天然物の品質保証とレギュラトリーサイエンスを専門とする合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所名誉所長は、天然物に求められる品質保証の要諦についてそう語る。サプリメントの原材料として多用される植物などの天然抽出物に求められる品質確保・保証のあり方はどうあるべきか。食薬区分の審議に長年携わるとともに、サプリに関して直近では2024年の「機能性表示食品を巡る検討会」の委員を務めた専門家に答えを求めた。

 全3回(前・中・後編)のうち後編。前編はこちら。中編はこちら

──(専ら医薬リストに収載されている天然物は原則すべて、濃縮したときにリスクのあるものを含んでいる、とする合田氏の話を受けて)そうすると、その毒性成分の量をコントロールできるのであれば、専ら医薬にしなくても良いのでは?

合田 量の問題だと一概には言うことはできない。天然物には類似の構造式の成分がたくさん含まれる。毒性のある成分だけでなく、それと構造が類似の成分すべての毒性を調べ、その全体をコントロールするなんてことが食品で本当にできますか? 化学的合成品のように単一成分であれば、量の問題として済ますことができる。だが、天然物はそうじゃない。非常に複雑なコンビネーションを持つ物の安全性に対する感覚は、合成品の単一物質に対する感覚では対応できないんです。

 その意味で、天然物はこわい。毒性成分の構造式が少し変わるだけで毒性が強まる場合もある。だから、食経験という食品の安全性の基本に立ち返ざるを得ない。そうだから私は、天然物のエキスを製造したり、サプリメントに配合したりするのであれば、そのエキスのプロファイル分析やパターン分析が非常に大事だと常に言っているわけです。

 エキスに含まれる成分のすべてを把握するのは難しいのだとしても、幅広い成分について、ピークがこのように出ますよ、そのピーク強度は通常このような範囲で変動しますよ、という分析データを持ち続けていることが大事なんです。そのことは、それぞれのピークが通常の、つまりこれまで販売してきて安全性に問題が生じていないエキスと同じような変動幅である限りにおいては、安全であるということの確認につながる。もともと含まれている成分の多少の変動は無視していい。それはおそらく天然物のバラつきによって生じている。しかし、未知のピークが出てきた場合はすぐに出荷を止めないとダメです。それは過去に食経験のないものであって、圧倒的に危険です。

──小林製薬が製造した紅麹原材料の出荷前に検出されていたピーク(後にプベルル酸であることが分かる)はそうしたものでした。

合田 天然物の品質を管理・確保するための3つのステップはすでに説明しました(前編を参照のこと)。その中で最後の砦となるのが3つめの生産物の分析(規格設定)です。この事件の場合、製品設計、生産工程管理も含めて失敗していたが、未知のピークが検出されていたにもかかわらず対応が取られなかったことが致命的だった。未知のピークが検出された場合は出荷を停止する。そういうことを製品標準書に定めておく必要がありますし、会社の重役をトップに据えた品質保証体制を構築する必要があります。

 原材料の品質の良否が五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)で分からないサプリメントの場合、原材料に存在することを想定しない成分が入っていないかを確認するための分析方法を含めた規格設定が非常に重要になります。

 高等植物の場合、従来どおりの栽培管理を行っている限り、遺伝子変異が起きて二次代謝が変化するようなことはほとんどない。しかし、二次代謝が変化しやすい微生物や菌類を使用する場合は、未知のピークが出現していないかよく観察しておく必要がある。そのためには、パターン分析やプロファイル分析が有効です。NMRなども利用できます。最近では、HPLCのクロマトグラフをAIにパターンを学習させて、本来のパターンにない新規の成分が検出された場合はアラートを出す仕組みを分析機器会社が作っています。

 分析機器を使わない観察方法もある。人の五感を生かした官能検査です。人の五感は非常に高感度な分析システムでもあって、味・色・質感・匂い・形状などをしっかり観察することで含有成分の変化が分かる可能性が高い。伝統的に微生物を使用してきた発酵食品分野では、杜氏は、五感も生かしながら伝統的に品質を確保してきたのだから。

──品質管理・確保のための3ステップで筆頭の製品設計について、天然抽出物のそれに求められることは何でしょうか。

合田 その植物の二次代謝系はどうなっているのか、食経験の内側に収まる製品設計になっているか。そういった天然物化学的に安全かどうかという視点を取り入れた製品設計が求められる。

 植物の二次代謝産物には比較的安全なものが多い。そして同一植物種であっても、それぞれの二次代謝物は個体毎に大きな含量差があることはすでに説明しました。そのように含量の変動が大きなものであっても、人は経験的に選んで食べてきたという視点も大事だ。天然物は、平均含量で評価するだけでなく、実はそれなりに大きな安全係数を持っている。

──その上で、製造工程管理に求められるものは何ですか。

合田 同じものを同じように作るという意識が最も大切となります。それは未知の物質を入れないようにするということでもあるわけです。

 日本の大手の天然物医薬品会社は、エキスのパターンがどれも同じになるよう努力しています。そういう品質管理を何十年も行いながら腕を磨いてきた。成分含量差が激しい天然物について、メルクマールとなる成分の量を上下10%くらいの範囲でコントロールしている。これは日本が世界に誇る突出した技術です。それだけではない。天然物の医薬品というのはマルチで効いている。だからメルクマール成分以外の成分の変動もちゃんと見て、全体として大きなパターン差が出ていないことを確認した上で出荷している。だから医師に安心して使ってもらえるわけです。

 食品であるサプリメントにそこまで要求しているわけではないです。ですが、1つの成分だけで効いているわけではないと考えるのであれば、他の成分についてもパターン分析を行うことが重要です。パターン分析が大事だと私が言っているのは、なにも安全性を確保するためだけではないんです。

 取材を終え、機能性表示食品の「機能性関与成分」という概念にますます疑問を感じることになった。成分名称が同一であれば、どこが製造していても同じ物──とりわけ天然抽出物に関しては、そんなことはあり得ないであろうということが、合田氏の話からは如実にうかがわれる。

 「マルチで効いている」という天然物医薬品の考え方は、きっと天然物サプリメントにも当てはまる。多様性とバラエティに富む天然物から得られる原材料の品質確保・保証に向けた取り組みは、「特定の成分が効いている」という視野狭窄的な概念の見直しから始まるのかもしれない。

(了)

【聞き手・文:石川太郎、取材日:2025年12月11日】

<プロフィール>
合田幸広(ごうだ ゆきひろ):1985年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了(薬学博士)、86年国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)入所、食品添加物部研究員、同主任研究官、食品部第三室長、生薬部長、薬品部長、副所長を経て2020年に所長、23年に退官し現同所名誉所長。厚生労働省薬事審議会委員、消費者庁食品衛生基準審議会委員。日本生薬学会賞、日本食品衛生学会賞、日本食品化学学会奨励賞など。

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