栄養療法の専門性を生かし在宅・海外へ ニュートリー袴田義輝新社長に聞く、第二創業期の今とこれから
ニュートリー㈱は、医療の現場で高い評価を得る栄養療法専門メーカー。創業64期目を迎え、科学的根拠(エビデンス)に基づいた栄養療法を核に、在宅・介護・海外といった新たな領域へ挑戦している。今年6月、製糖最大手であるDM三井製糖グループの下で新たに同社の社長に就任した袴田義輝氏(=写真)は、医療・介護双方の現場を熟知する経営者。医療依存から地域・在宅へと移行する社会の中で、同社が描く「食と栄養の未来」について話を聞いた。(聞き手・文:藤田勇一)
創業64期目、栄養療法の専業メーカーとして新たな領域に挑戦
――まずは会社の概要と現状についてお聞かせください。
袴田:当社は今年で64期目を迎えました。2025年3月期の売上高は約136億円と堅調に推移しており、長年にわたり医療・介護分野の栄養療法を支えてきました。
かつては創業家による経営でしたが、現在はDM三井製糖グループ傘下に入っています。
同グループの経営資源とネットワークを活かし、ニュートリーが持つ「栄養療法」に特化した専門性と新しい製品開発の実行力をより広いフィールドで発揮していくことを目指しています。
製品開発だけでなく、社会全体の「栄養リテラシー」を高めることも弊社の使命だと考えています。
――事業の特徴や強みを教えてください。
袴田:私たちは「エビデンスに基づく栄養療法」を軸に事業を展開しています。嚥下(えんげ)障害や褥瘡(じょくそう)に対応した栄養療法食品の分野では、研究開発から製品のエビデンス取得までを一貫して自社で行っています。現在、全国の70%以上の医療機関で弊社製品は採用されています。
主力製品である「ブイ・クレスCP10(シーピーテン)」は、臨床研究に基づいた栄養補助食品として高い信頼を得ています。栄養補給だけでなく、褥瘡の治療や予防など医療現場での課題解決にも貢献しております。

また、三重県四日市市の自社工場では、原材料の受け入れから充填・包装まで一貫管理を実施。衛生基準を徹底しながら、製造と研究の両輪で、医療現場に即した製品をスピーディに提供できるのが弊社の最大の強みです。できるところから自動化を進めていますが、最終工程では人の判断が不可欠です。製品の安全を守るのは機械だけではなく、現場の従業員1人ひとりの意識です。衛生管理や品質への誇りが、ニュートリーの製品価値を支えているといっても過言ではありません。
超高齢化社会を見据え、「在宅・介護」領域へ拡大
――これまでの医療機関中心から、今後どのように市場を広げていきますか。
袴田:私たちのこれまでの活動の中心は病院でしたが、今後は介護・在宅領域へと事業を広げていきます。高齢化が加速する一方で、医療機関や施設のキャパシティには限界があります。特に今後10年で85歳以上人口が急増する中、施設整備の遅れや医療・介護を支える人材不足が益々深刻化していきます。その結果、多くの高齢者が「在宅」で生活を続けざるを得ない状況が予見されます。
私自身、過去に介護施設経営に15年以上携わってきた経験から、現場の実情をよく理解しています。医療と介護の間に横たわる「栄養の空白地帯」をどう埋めていくかが、今まさに問われていると感じています。
ニュートリーは、栄養療法を通じて介護予防やフレイル対策を支援し、健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。そのためにも、病院だけでなく、地域・家庭・訪問看護など、生活のあらゆる場面に寄り添う栄養支援体制を築いていく方針です。
栄養と排泄を一体で考える、新しい視点
――介護・在宅分野で特に注目しているテーマはありますか。
袴田:特に高齢者にとっては「栄養」と「排泄」は一体だということ。この2つは決して切り離すことができません。高齢者が水分や食事を控える背景には、排泄に関する不安や羞恥心があります。「トイレが近くなるから」と水分や食事を控えた結果、脱水や便秘、低栄養に陥るケースが多いという現状があります。私たちは、そうした心理的要因を製品設計に活かせるのではないかとも考えております。単に栄養価の高い食品を提供するだけではなく、「どうすれば安心して摂取できるか」、「取ること自体が前向きな体験になるか」を考える。これは人の尊厳にも関わるテーマです。
医療と介護の現場に寄り添いながら、栄養を単に摂取するものではなく、「日常生活を営む上での体験」、お困りの「日常生活動作(ADL)改善のソリューション」として食品を提供する ことで、個々の生活の質(QOL)を高めることを目指しています。
変化する食の形態、生産現場の課題
――給食や介護食の現場も変化していますね。
袴田:はい。労働力不足が深刻化する中で、病院や介護施設ではセントラルキッチン化が進み、現場での調理から再加熱型での食事提供へ移行しています。こうした変化の中で、栄養補助食品の提供形態、顧客ニーズも変容をしています。
食形態の多様化に対応するため、製品のテクスチャーや味覚設計も細かくチューニングしています。見た目や香りなど、五感に訴える工夫が求められており、単なる「機能性食品」ではなく、「おいしく続けられる食品」であることが重要です。
日本での経験を海外へ、まずは韓国からアジアへ
――海外展開の現状と展望を教えてください。
袴田:私たちが初めて拠点を置いたのは韓国です。高齢化の進展や食文化の近さなど、日本との共通点が多く、医療現場でも栄養療法食品への関心が高まっています。現地パートナーと協働し、啓発活動や製品導入を進めており、今後の成長が期待できる市場です。
中国では、一部でライセンス生産を行っていますが、国の広さや地域差を踏まえて慎重に進めています。今後はASEAN諸国にも視野を広げ、「日本発の栄養療法モデル」をアジア全体に展開したいと考えています。
日本の栄養療法は科学的根拠に裏打ちされた信頼性があり、世界的にも高く評価されています。将来的には、アジアで確立したモデルを欧米市場へ発信することも視野に入れています。
経営体制を刷新、第二創業期へ
――今後のビジョンをお聞かせください。
袴田:ニュートリーは今、「第二創業期」を迎えています。医療・学術分野で築いた信頼を礎に、在宅・介護・海外という新たなフィールドへ挑みます。「栄養を通じて人の生活を支える」という理念は創業以来変わりません。社会全体の課題に寄り添いながら、栄養療法をより多くの人に届けていくことが、私たちの使命です。
今後10年で、日本社会はより一層高齢化が進みます。食を通じて健康と尊厳を守ること――それが私たちニュートリーの存在意義だと思っております。
――ありがとうございました。
COMPANY INFORMATION
所在地:三重県四日市市富士町1-122(四日市本社)
:東京都港区芝5-26-16 Mita S-Garden 5F(東京本社)
URL:https://www.nutri.co.jp/
事業内容:栄養療法食品ならびに嚥下障害対応食品などの開発、製造および販売

(月刊誌「Wellness Monthly Report」89号(2025年11月号)より転載)











