天然抽出物の品質確保のあり方(前) 【サプリ原材料巡る有識者インタビュー】合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所名誉所長に聞く
まずは基原を守ることが基本──漢方薬の原材料である生薬など天然物の品質保証とレギュラトリーサイエンスを専門とする合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所名誉所長は、天然物に求められる品質保証の要諦についてそう語る。サプリメントの原材料として多用される植物などの天然抽出物に求められる品質確保・保証のあり方はどうあるべきか。食薬区分の審議に長年携わるとともに、サプリに関して直近では2024年の「機能性表示食品を巡る検討会」の委員を務めた専門家に答えを求めた。前・中・後編の3回に分けて掲載する。
第一歩は「正しい基原」、極めて重要「食経験」
起原ではなく基原。錠剤・カプセル剤等食品の安全性確保指針である「3.11通知」には「基原材料」という用語が頻出する。同通知ではその定義を「原材料を製造等するために使用する動植物又はその特定部位、微生物、化学物質、鉱物その他のものをいう」と解説。要するに原材料の「基」となるものだ。では、「基原」とは何なのか。記者がこれまであまり気にしたことのなかったこの用語の含意を合田氏は取材でこう解説した。
「(植物の場合は)植物の種、それからその植物の使用部位、そしてその植物の使用部位の加工方法。この3つを合わせて基原と言う。これは生薬の考え方。たとえば、何かの植物の果実をそのまま原材料にするというのであれば、その果実が基原であるということで良い。ただし、その果実を炒るなどの加工したものを使う場合には、その加工方法まで含めて基原を定義しないといけない。加工することで、その果実に含まれる成分や成分組成が変わるからだ」
使用部位の加工方法も含めて基原であるという考え方は初めて知ったという業界関係者もいるのではないか。記者がそうだ。こうした考え方の背景には、「人間がコントロールできることなのだからちゃんと守りなさい」という思想があるという。「多成分系」である天然物に対し、最も人為的なコントロールが効くのは「基原が同じであること」であるためだ。それほど天然物のコントロールは難しいのだという。
植物などの天然物は、多様性とバラエティに富み、姿かたちから成分組成まで一定の状態にとどまらないダイナミックさがある。だからこそ、天然抽出物の品質確保・保証の基本中の基本とは、基原を正しく定義し、定義した基原を守ることにある。基原をめぐり合田氏は、取材の中でそういったことを語った。それを念頭に置きながら、以下に続くインタビューを読み進めていただきたい。
──サプリメントの原材料に求められる品質とは何でしょうか。
合田 食品なのだから当然、安全性ですよ。まずは安全性が担保されていなければならない。ただし、機能性表示食品などのように有効性を表現するようになった瞬間、安全性だけでなく有効性を担保しないといけない。有効性を担保するというのは、ヒトを対象にエビデンスが得られたものと同じ状態のものが供給できるか、ということです。
有効性をうたわないのであれば、安全性が担保されていることが一番大事。あとは、表示との整合も踏まえ、少なくとも基原が正しくなくてはいけない。以前は、基原の植物種が(容器・包装等の表示と)異なるサプリメントがかなりあった。私が2000年代に研究したデータでは、おおよそ3分の1で違っていました。その後、メーカーの意識が高まり、そうした不良品はかなり減っていった。だが、混ぜ物も含めれば今でも1割程度は基原種が異なると見ています。
──基原が製品規格とは異なる物が流通されてしまうのはなぜでしょうか。
合田 業者の悪意による場合と、そうでない場合の両方がある。後者の場合は、(基原材料や原材料を)購入する側に受け入れ試験を行う体制がないから、騙されてしまうのです。それを避けるためには、基原が守られているかどうかを保証するためのシステムを持っていないといけない。それはメーカーとして当たり前のことです。
もっとも、基原が守られていたとしても、現実問題としては、製造工程なども含めた全体で品質を確保しておかないと安全性は担保できない。だからこそ(小林製薬が販売した機能性表示食品のサプリメントの摂取で健康被害が生じた)紅麹事件が起きた。「巡る検討会」でも話したように、天然物の品質確保と品質保証は、製品設計、製造工程管理、生産物での分析試験(規格設定)の3つのステップで行われなければならない。それぞれが品質確保のための防波堤になる。
──その事件の関係は後ほどお尋ねします。その前に、原材料が単一成分の化学的合成品の場合、その安全性は主成分の含量と不純物の含量でコントロールできる、と合田先生はおっしゃっています。では、さまざまな成分が含まれる天然抽出物の安全性のコントロールはどうすべきでしょうか。
合田 最初に理解していただきたいのは、米国のGRAS(Generally Recognized As Safe:一般に安全と認識されている食品成分)の考え方こそが食品の安全を確保し、品質保証するための基本であるということ。要するに食経験です。相当数の消費者による相当期間の消費歴があれば、食品への一般的な使用に基づく経験を通じて安全であると一般的に認められるというGRASの考え方は、天然物の安全性を包括的に判断するのにとても優れています。
考えたこともないかもしれないが、日本の食薬区分の考え方は、実はGRASのそれと一致している。食薬区分の考え方には文化的要素も含まれていて、そこは一致しない。だが、濃縮することで過去にヒトが摂取してきた以上の量になると危険であるという考え方もあり、そこがGRASと同じなんです。
(中編に続く)
【聞き手・文:石川太郎、取材日:2025年12月11日】
<プロフィール>
合田幸広(ごうだ ゆきひろ):1985年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了(薬学博士)、86年国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)入所、食品添加物部研究員、同主任研究官、食品部第三室長、生薬部長、薬品部長、副所長を経て2020年に所長、23年に退官し現同所名誉所長。厚生労働省薬事審議会委員、消費者庁食品衛生基準審議会委員。日本生薬学会賞、日本食品衛生学会賞、日本食品化学学会奨励賞など。











