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細胞培養肉、安全性評価の全体像は? 新開発食品調査部会で論点整理進む

 きのう25日、消費者庁が開催した第4回「食品衛生基準審議会新開発食品調査部会」では、細胞培養により製造される食品を巡る安全性評価の枠組みについて、これまでの検討成果が集約された。研究班による調査結果を踏まえ、細胞の調達から加工工程に至るまでのハザードや確認ポイントを体系的に整理し、事業者が提出すべき情報の具体像を示した。今後は、同部会での議論と業界意見を踏まえ、ガイドライン策定に向けた検討が本格化する見通しだ。

研究班成果を踏まえた安全性検討

 第4回新開発食品調査部会では、まず北嶋聡部会長代理(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター)が、細胞培養食品を対象とした研究班の成果概要について説明した(参考資料1-1)。
 同研究は3年計画で実施され、初期の2年間は厚生労働省の研究費、最終年度の昨年度は消費者庁の研究費により進められた。研究班は北嶋氏を研究代表とし、細胞培養食品の食品衛生上のハザードやリスクに係る先駆的な調査検討、リスクプロファイルの作成、モデル細胞実験系による検証を行った。

 研究の背景として、フードテックを活用した新規食品の開発が進展しており、これまでに食経験のない、あるいは従来と異なる方法で摂取される食品が想定されることを挙げた。こうした状況を踏まえ、リスクプロファイルの作成や、想定される今後の動向と方策の整理が必要であると説明した。

海外動向と規制モデルの整理

 研究成果のうち、開発動向については、2020年にシンガポールで鶏由来の細胞培養食品が承認された事例や、その後、米国やイスラエルなどでの開発・審査の動きを紹介した。開発対象は、家畜に限らず魚介類などにも広がっており、使用される細胞についても、骨格筋細胞に限らず、脂肪細胞など多様であることが示された。

 規制動向については、欧州型(EU型)と米国型に大別できると整理した。EUではノベルフード制度の枠組みの中で審査が行われる一方、米国では事前の許認可制度ではなく、市場前コンサルテーションの仕組みが採られていることを示した。
 また、分担研究として、モデル家畜細胞およびモデル家禽細胞を用いた分化・増殖過程における検討が行われ、細胞培養食品の安全性評価に資する知見が得られたことが報告された。

事業者に求められる情報と評価視点

 北嶋部会長代理は、今後の安全性評価に向けて、事業者から提供されるべき基本情報の重要性を指摘した。具体的には、これまでの開発の経緯と選択理由、これまでの食経験の状況、細胞のアイデンティティ、生物学的特性や管理方法、ならびに細胞培養工程の基本的なストラテジーを明らかにする必要があるとした。
 さらに、開発過程における工夫が潜在的なハザードの増加につながる可能性があることから、開発段階から情報を適切に提供し、審査側と連携しながら安全性を確保していくことが重要と述べた。
 アレルゲンに関しては、短いアミノ酸配列のペプチド断片であっても抗原認識され得ることから、消化によってアレルゲン性が完全に排除されるとは限らない点に留意する必要があるとした。

確認ポイント案とガイドライン策定へ

 事務局は、細胞培養食品(仮称)について、これまで部会で議論してきた「懸念点・ハザード」を製造工程全体にわたって整理し、安全性確保のために事業者が示すべき情報と、部会側が確認すべき「確認ポイント案」を取りまとめる方針を説明した(参考資料1-2)。
 北嶋部会長代理を中心とする参考人らがまとめた論点整理に基づき、洗い出した懸念点・ハザードを、①論点ごとの確認ポイント案、②事業者から提出されるべき情報案――として体系化した。今後は同部会で共有・議論したうえで、関係業界の意見も聴取しながら、細胞培養食品の安全性確保のためのガイドライン策定につなげるとしている。

 細胞培養食品(仮称)について、これまで部会で整理してきた安全性確認上の論点を、製造工程全体にわたって体系的に整理した案を示した。論点ごとに想定される懸念点やハザードを洗い出し、それぞれについて、安全性を確保するために確認すべき事項を「確認ポイント案」として整理するとともに、当該確認を行うために事業者から提出されるべき情報を「提出情報案」として取りまとめている。

 整理に当たっては、細胞の調達から生産工程、食品加工工程に至るまでの全工程を対象とし、各工程に共通する論点および工程特有の論点を区分している。論点整理表では、由来動物細胞の安全性、使用物質の安全性、病原体や化学物質等の管理、細胞の安定性、コンタミネーション対策、食品加工工程における使用物質や栄養成分、加工による変化、衛生管理などを網羅的に整理している。
 また、生産工程の区分および用語について見直しを行い、従来用いていた「採取」という表現を「回収」に改めるとともに、「組織化」を新たな工程として追加した。これにより、生産工程は、細胞の調達、増殖、分化・成熟、組織化、回収といった一連の流れとして整理されている。
 確認ポイント案では、各論点ごとに、細胞や使用物質に起因する有害物質の産生のおそれ、病原体や異物の混入、細胞特性の変化、品質のばらつきなどについて確認すべき事項を具体的に示している。あわせて、これらを判断するために必要な情報として、細胞の由来や同定に関する情報、使用物質の種類や用途、工程管理の方法、試験・評価結果などを事業者から提出することを求める構成としている。

 さらに、食品加工工程については、加工時に使用される物質の安全性、栄養組成および栄養阻害物質、加工による変化に関する論点を整理するとともに、加工時の衛生管理を新たな論点として位置づけた。加工工程における衛生管理については、食品衛生法に基づく衛生管理基準への適合性を確認することとしている。

 事務局は、これらの確認ポイント案および提出情報案について、本部会での議論を踏まえて整理し、最終的には一覧性のある形で取りまとめる方針を示した。あわせて、細胞培養により製造される食品の安全性確認に当たっては、食品衛生法をはじめとする既存の法令や規制の枠組みを遵守することが前提となるとの考えを示した。

事務局説明後の主な議論の整理

 事務局が提示した「確認ポイント案」および「事業者から提出されるべき情報案」について、委員・参考人から具体的な修正提案や論点整理が行われた。
 まず、「動物用医薬品」という表現について、培養工程で使用される成分を指す趣旨であることから、「動物用医薬品相当の成分」とする修正が適切であるとの意見が示され、事務局もこれを受け入れる方針を示した。薬機法上の動物用医薬品との混同を避ける必要があることが理由である。

 次に、由来動物の適格性について、細胞培養食品の安全性評価のスタートポイントとして最上流に位置付けるべきとの指摘があった。食経験のある動物か否か、健常動物由来であるかといった情報を、明確に整理する必要性が示された。
 衛生管理およびGMPの適用範囲については、どの段階から食品として扱うのかが議論となった。加工工程以降はHACCPおよび一般衛生管理で対応可能とする一方、培養段階でどの程度のGMP水準を求めるかについては、フードグレードのGMPを念頭に引き続き検討が必要とされた。

 細胞の安定性は重要な確認項目であり、生産工程の早い段階に明示すべきとの意見があった。培養工程中の形質変化や、バッチ間変動への対応を含め、継続的な品質管理の重要性が確認された。
 足場成分に関しては、栄養阻害物質となる可能性が指摘され、生産工程段階から意識して情報提供を求めるべきとの意見が出された。足場を除去しない場合も想定されるため、表現の修正が必要とされた。
 また、株化細胞の不活性化については、加熱処理の有無ではなく、細胞の分裂・増殖が停止している状態を確認することが趣旨であるとの説明がなされた。生食・加熱いずれの場合でも、安全性確認が必要であるとの認識が共有された。
 さらに、事前相談制度や段階的審査の必要性が指摘された。ラボスケールからパイロットスケール、商業スケールへと進む過程で、段階に応じた評価や相談の仕組みが求められるとの意見が出された。

 これらの議論を踏まえ、確認ポイント案および提出情報案については、大きな見落としはなく、軽微な修正を加えた上で次のステップに進むことが了承された。修正は部会長預かりとし、事務局と調整のうえ、委員に報告・公表する方針が示された。

【田代 宏】

配布資料はこちら(消費者庁HPより)

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