食品ロス削減へ国民的行動を 消費者庁、最新ガイドブックで現状と対策示す
消費者庁は2025年度版の「食品ロス削減ガイドブック」を公表し、日本における食品ロスの現状と削減に向けた具体的な取り組みを整理した。ガイドブックによれば、日本の食品ロスは年間464万トンに上り、国民1人当たりに換算すると年間37キログラム、毎日102グラムを捨てている計算である。これはおにぎり1個分に相当し、国連世界食糧計画(WFP)が2023年に世界で行った食料支援量(約370万トン)の約1.3倍に匹敵する量である。
家庭と事業者で拮抗する食品ロス
食品ロスの発生源は家庭と事業者でほぼ半々に分かれ、家庭から233万トン、事業者から231万トンが排出されている。家庭では食べ残し、期限切れや使い忘れによる直接廃棄、過剰な除去が主な原因となっており、事業者では規格外品の発生や需要を上回る製造、パッケージ破損や売れ残りによる返品などが要因となっている。食品廃棄物全体では2,104万トンに及び、そのうち可食部分とみなされる食品ロスが464万トンを占める。
環境・経済に及ぶ深刻な負荷
食品ロスによる影響は、量だけでなく環境面や経済面にも広がっている。ガイドブックは、食品ロスに伴う経済損失を4兆円、温室効果ガス排出量を1,050万トンCO₂と推計し、国民1人当たりに換算すると経済損失は年間3万1,814円、温室効果ガス排出量は84キログラムとなると示している。食品は水分を多く含むため焼却時に大きなエネルギーを必要とし、結果として多量の二酸化炭素が排出される。一般廃棄物の処理経費は2023年度で約2.3兆円と推移し、その費用はすべて税金で賄われている。
世界規模で見る食品ロスの実態
世界の食品ロスの状況についても整理されている。世界では年間に生産される食料の約3分の1に当たる13億トンが捨てられており、生産から加工までの段階で発生するFood Lossが14%、小売・外食・家庭段階で発生するFood Wasteが17%とされる。地域別のFood Waste(食品の廃棄)は、東アジア・東南アジア地域で81キログラム(年間1人当たり)であり、日本もこのグループに属している。また、世界の栄養不足人口は23年に7億3,340万人に達し、世界の11人に1人が飢餓に苦しむ現状が示されている。
ガイドブックは、食品ロス削減に向けた国内の法制度や政策も詳述する。2019年に施行された「食品ロスの削減の推進に関する法律」は、国・自治体・事業者・消費者がそれぞれの立場で削減に取り組む責務を明らかにし、10月を食品ロス削減月間、10月30日を食品ロス削減の日と定めた。さらに、官民が連携して食品ロス削減を進めるための「食の環(わ)プロジェクト」が紹介されており、食品関連事業者・フードバンク・教育機関・自治体など多様な主体が協働し、食品寄附の促進や地域ぐるみの啓発活動を通じて食品ロス削減を図る取り組みが展開されている。
政府は食品ロスを2000年度比で30年度に半減させる目標を掲げ、25年3月には新たに事業系食品ロスを60%減、家庭系食品ロスを50%減とする早期達成目標を設定している。これらの取り組みを支える仕組みとして、普及啓発、事業者への支援、表彰制度、実態調査や削減方法の研究、先進的事例の情報提供、フードバンク支援などが位置付けられている。
事業者・家庭・自治体の具体的行動
ガイドブックは、削減に向けて各主体が果たすべき行動を具体的に示している。事業者には、規格外や未利用の農林水産物の活用、納品期限の緩和、賞味期限の大括り化や延長、季節商品の予約販売、売り切りにつながる値引きやポイント付与、小盛りメニューの導入や持ち帰りへの対応などが求められる。
家庭では、買い物の前に家庭内の食材を確認し、冷蔵庫の在庫管理を行い、食べ切れる量を調理し、外食時には食べ切れる量を注文し、宴会では「乾杯後の30分は席を立たずに料理を楽しむ、お開き前の10分は自分の席に戻って再度料理を楽しもう」とう30・10運動を意識することが示されている。自治体には、地域の特性を踏まえた食品ロス削減推進計画の策定や、地域での削減運動の展開が求められる。
食品ロス削減を「エシカル消費」の一環として捉える視点も示されている。「今だけ」、「自分だけ」といった行動ではなく、環境、社会、地域、人への配慮を含む行動を重視し、必要な分を買い、作り、食べ切ること、余った食品を活用したり、寄附やシェアといった選択を行ったりすることが、持続可能な社会につながると位置付けられている。
ガイドブックは、食品ロスが生産から消費までのフードサプライチェーン全体で発生していることを示し、食品ロス削減が国の環境政策や食育推進基本計画とも連動して位置付けられていると整理する。食品リサイクル法や循環型社会形成推進基本法では、食品廃棄物の発生抑制が優先的に取り組むべき課題とされ、事業系食品ロスを2000年度比で2030年度に半減させる目標が掲げられている。
ガイドブックは最後に、食品ロス削減を国民運動として進めるため、多様な主体が連携し、1人ひとりが身近な行動から取り組む重要性を強調している。
【田代 宏】
(冒頭の画像:ガイドブックの表紙を加工転載)
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