施行から3年、取引DPF法を検証 削除要請や申出制度の実効性を議論
消費者庁は7日、第8回取引デジタルプラットフォーム官民協議会(取引DPF官民協議会)を開催し、ネット通販における消費者保護の実効性を検証した。同庁は、施行3年を迎えた「取引DPF法」の運用状況について報告した。現場の相談員からは、削除要請や申出制度の実績の他、課題提起が相次いだ。プラットフォーム事業者、弁護士、消費者団体らが参加し、誤表示の証拠保存や高齢者支援など多面的な課題について活発な意見交換が行われた。
施行3年、運用実績を報告
2022年5月の施行から3年が経過した「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」の運用状況について、法第4条「取引デジタルプラットフォームの利用の停止等に係る要請に基づく要請」の状況および第10条「内閣総理大臣に対する申出」による申出状況について消費者庁から報告が行われた。
報告によると、24年度の法第10条に基づく申出は499件で、このうち消費者からの148件を分析した結果、契約の履行や解約に関するトラブルが大半を占めた。年代別では30代から40代が多く、性別では男性からの申出が多い傾向が見られた。
法第4条に基づく要請では、PSEマークの不適合表示や、短期間で高額収入を得られるとする虚偽の情報商材販売などに対し、プラットフォーム事業者への削除要請を実施しているという。
全相協、申出制度の周知強化を提言
消費者団体からの報告として、(公社)全国消費生活相談員協会(全相協)および(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)が現場の課題と提言を示した。全相協は、全国の自治体相談員を中心に構成され、週末電話相談室などで年間約2,500件の相談を受けている団体。
報告では、DPF取引において、大手事業者の審査体制や補償制度が一定の信頼を得ている一方で、中小事業者への対応に遅れがみられると指摘した。特に「第10条申出制度」の周知が不十分で、相談員自身の理解向上と活用促進が求められるとした。
BtoC取引では、広告誤表示や品質不良に対するプラットフォーム側の指導強化を要請し、表示内容を保存できる仕組みの整備を求めた。CtoC取引では、利用者双方が一般消費者であることから、大手プラットフォームによる積極的介入を求め、偽物防止やすり替え対策の仕組みを提案した。
また、問い合わせ窓口の不備を問題視し、自動応答やFAQのみで解決できない利用者が多いと指摘。外国人や高齢者など、言語・判断能力に課題のある利用者への支援を強化すべきとした。
不正利用や詐欺被害に関しては、DPFと決済事業者間で責任の所在が曖昧になっている現状を挙げ、行政による指導を求めた。さらに、ギフト品の誤配送・受取拒否の防止策として、送付時にギフト明示ができる制度構築を提案した。
製品安全分野では、指定品目に限らず事故情報を幅広く収集・分析する必要性を訴えた。情報開示請求(第5条)については、大手DPFでは比較的機能しているものの、中小DPFでは協力が得にくく、行政関与の強化を求めた。全相協は、第10条の申出制度が第4条の要請制度と連動する重要な仕組みであるとし、今後は相談員間での理解促進を図る考えを示した。
NACS、若年層と高齢者へ教育支援
一方のNACSは、消費者・企業・行政を結ぶ中核的団体として、消費者教育と政策提言に取り組んでいると報告した。ECモールやSNSが生活基盤となる中で、詐欺的通販、虚偽表示、サブスクリプション契約トラブル、ステルスマーケティング(ステマ)などが多発しているとし、背景には「利用規約の難解さ」「情報の非対称性」「心理的誘導(ダークパターン)」があると分析した。
対応策として、第一に若年層への消費者教育を強化している。大学との連携により「スマート通販学」教材を開発し、京都産業大学や昭和女子大学などでフォーラムを開催。ネット広告や美容医療トラブルを題材に実践的な学びを提供している。
第二に改正製品安全四法の施行(12月25日)に合わせて、乳幼児玩具の「子どもPSCマーク」やリチウムイオン電池の火災防止をテーマに注意喚起チラシを作成し、消費者庁の教育ポータルで公開した。
第三に高齢者支援として、ネット詐欺や定期購入トラブルを疑似体験できる「ナックスショッピングサイト」を運営し、安全な取引を学ぶ仕組みを整備。「詐欺的な定期購入サイトを見破る体験コース」を近く公開予定だとする。このように、動画教材やスマホ講座を通じ、ICTリテラシー向上にも取り組んでいる。
NACSは、急速に進化するデジタル社会において、行政・企業・消費者の3者協働が不可欠だと強調。自主ルールの確立、悪質事業者の排除、特定商取引法の見直しを求め、今後も実践的教育と政策提言の両面から健全な市場形成に寄与していく姿勢を示した。
表示保存巡り事業者と団体が応酬
同協議会では、取引デジタルプラットフォームの表示保存や消費者対応を巡り、プラットフォーマー、弁護士、相談員団体などの間で活発な意見交換が行われた。議論の焦点は、誤表示トラブルの証拠保全と、消費者への情報提供体制の在り方にあった。
まず、オンラインマーケットプレイス協議会(JOMC)は、「詳細な表示内容の保存は膨大なデータ容量が必要で、現実的に困難である」と指摘。変更ログは残るものの、すべての画面を保存するにはサーバー負担が大きく、セキュリティリスクも伴うと説明した。その上で「消費者が自衛のためにスクリーンショットを取る方法は方向としては誤っていない」とし、消費者団体との啓発連携に意欲を示した。
これに対し、日本弁護士連合会の高木氏は「加盟店側に広告や最終画面の保存を契約上義務付ける方法も考えられる」と提案。
NACSは「消費者と事業者の双方が意識を高めなければトラブルは減らない」と強調し、高齢者などが自らアクセス経緯を説明できない事例が多いことから、「事業者側が記録保持にサポートすることが望ましい」と述べた。
全相協は、「加盟店による表示保存を推奨すべき」と応じ、消費者にすべての広告を記録させるのは現実的でないと指摘。「自衛のためにスクショを取るというのは理解できるが、安心してネットショッピングできる環境を作るためには、事業者と消費者の双方の努力が必要」と述べた。
スクリーンショットの証拠能力や改ざんリスクについても意見が交わされた。
神戸大学大学院の中川丈久教授は、「いつの時点のものかなど、証拠性の決め手として限界があるのではないか」と指摘し、日本弁護士連合会は「一定程度の信用度はあるのではないか。電子署名の導入など信頼性を高める仕組みが望ましい」と応じた。
JOMCは「私たちはスクショを取らなくとも安心できる買物環境を整えられるように努力している」と述べた。
アジアインターネット日本連盟(AIJC)も「安全な購買環境の整備に努めている」としつつ、「保存義務はコスト負担が大きく、効果とのバランスが課題」と述べた。依田高典議長は、「消費者側のスクショでは解決できないと思う」と指摘した。
再要請の繰り返しに懸念も
委員から、「同じ問題業者への再要請が繰り返されているのではないか」との懸念が示された。全相協は「大手プラットフォーマーは休店措置など迅速に対応している」と評価したが、中小事業者では非協力的な例もあり、情報開示請求の実効性に課題が残るとした。
NACSも「CtoC取引では依然として『当事者同士で解決を』という対応が多く、介入の姿勢が弱い」と指摘し、海外プラットフォーマーによるトラブルにも注意喚起した。
消費者庁 中小・海外事業者に課題
これを受け、消費者庁は「大手モールは前向きな対応が多い一方、中小や海外事業者には課題が残る」とし、ガイドライン改正により「問い合わせ対応や出品監視の徹底を求めている」と説明。今後もフォローアップを行う考えを示した。海外についても問題意識をもって取り組んでいるとした。
最後に、日弁連は「スクショはある(一定の)世代までしか(扱いが)難しいのではないか。どのような広告で契約に至ったのか、販売業者に保存させる仕組みが必要」と提案。情報通信消費者ネットワークは、「高齢者の利用に対して大手プラットフォーマーにはアナログ対応をお願いしたい。それができなければ、消費者にはリスクを伝えた方が良い」と述べた。
消費者庁は「デジタルの時代だが、アナログの相談窓口の整備も大事。第10条に基づく申出制度の周知を強化していく」と締めくくった。次回は、来年初旬の開催を予定している。
最後に、公正取引委員会から昨年6月に成立し今年12月18日に全面施行される「スマートフォンソフトウェア競争促進法」に関する概要説明が行われたが、改めて明日の記事で報じる。
【田代 宏】
当日の資料はこちら(消費者庁HPより)











