健康食品GMP実践的対応ガイド(1) 【寄稿】なぜ今、適正製造規範への適切な対応が求められるのか
㈱シーエムプラス シニアコンサルタント 田中良一
近年、紅麹(べにこうじ)サプリメントに関連する健康被害問題を受け、健康食品の安全性と信頼性確保が社会的な急務となっています。 この事案を契機として、これまで推奨にとどまっていた機能性表示食品に対するGMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)が、ついに義務化されることになりました。
この大きな規制の変更に対し、多くの事業者の皆様は、日々の業務に追われながら、具体的に何から手をつければよいのか、漠然とした不安を抱えているのではないでしょうか。
本稿では、全9回の連載を通じて、健康食品GMP義務化の背景から、その根拠となる考え方、具体的な管理手法、そして組織としてどのように対応すべきかまでを網羅的に解説します。私自身、京都府や厚生労働省で薬事・食品行政に携わり、医薬品メーカーへの行政処分や査察を経験した視点も交えながら、皆様がGMP対応を単なる「規制遵守」ではなく、自社の品質システムを向上させるための「機会」として捉え、自信を持って対応できるようになるための一助となれば幸いです。
1.紅麹サプリ事案が突き付けた課題
今回のGMP義務化の直接的な引き金となったのは、紅麹サプリメントによる健康被害事案です。 この事案は、健康食品の製造管理における潜在的なリスクを浮き彫りにしました。
• 意図せぬ汚染のリスク:事案の原因は、紅麹菌の培養段階で意図しないものが混入し、プベルル酸といった予期せぬ有害物質が生成されたことにあるとされています。これは、原材料の管理、特に微生物を用いる製造工程において、厳格な汚染防止対策がいかに重要であるかを示しています。
• 情報提供の遅れ:健康被害の発生から行政への報告までに時間を要し、被害が拡大したことも大きな問題となりました。 これを受け、今後は医師からの健康被害情報を、事業者が速やかに行政に報告することも義務化されています。
• GMPの必要性:GMPは、このような意図しない汚染や品質のばらつきを防ぎ、常に安全で一定の品質の製品を製造するための体系的な仕組みです。原料の受け入れから製造工程、品質試験に至るまで、GMPに基づいた厳格な管理が行われていれば、このリスクを低減できたと考えます。
2.強化される規制と事業者の責務
紅麹事案を受け、機能性表示食品制度の信頼性を高めるため、GMP義務化だけでなく多角的な対策が講じられています。
• GMPの義務化:機能性表示食品のうち、「サプリメント形状」の製品について、GMPに基づく製造管理が法的な義務となりました。
• 届出者の重い責任:GMP遵守の最終的な責任は、製品を製造する製造業者だけでなく、その製品を市場に流通させる届出者(いわゆる製造販売元)にあります。 届出者は、委託先の製造所がGMPを適切に遵守しているかを管理・監督する義務を負います。
• 消費者庁による立入検査:今後は、消費者庁が製造所に対してGMPの遵守状況を確認するための立入検査(査察)が実施されます。現在、義務化の前に、既に状況把握のため、製造所に対して確認が実施されています。義務化後は、不備が認められれば、行政指導や行政処分に至ることもあり得ます。
3.なぜ医薬品GMPの知見が役立つのか
今回の健康食品GMPの要求事項を読み解くと、非常に興味深い事実が浮かび上がります。それは、その内容が現在の医薬品GMP省令ではなく、平成17年(2005年)に改正された当時の医薬品GMPと、条文の構成や考え方において酷似しているという点です。
これは、健康食品GMPに取り組む事業者にとって参考となる情報と考えます。なぜなら、医薬品業界には、この平成17年版GMPを令和3年(2021年)8月の改正まで、そして改正後も、同様の要素について運用してきた豊富な経験と知見の蓄積があるからです。
逸脱や変更管理の具体的な運用方法、バリデーションの計画と実施、自己点検の効果的な進め方など、医薬品業界で培われたプラクティスは、健康食品GMPの体制を構築する上で大いに参考になります。
健康食品は、医薬品の「診断・治療・予防」などの目的とは異なり、主に健康な方が「健康の維持・増進」を期待して摂取するものです。 だからこそ、健康な方をむしろ不健康な状態におとしめるような期待を裏切るような健康被害は決してあってはなりません。GMPは、その信頼を支えるための根幹となる仕組みです。
次回は、健康食品GMPの全体像をさらに詳しく掘り下げ、医薬品GMPとの具体的な比較を通じて、事業者が果たすべき責任の範囲を解説します。
【編集部より】本連載は原則、週1回のペースで掲載していく予定です。また本連載は、シーエムプラスが運営する「GMP Platform」にも掲載されます。
