製造現場を業界団体はどう支えるか 【サプリ受託製造の今とこれから】JAOHFA「GMPチーム」の取り組み、原材料とOEMを繋ぐ
来年9月、日本のサプリメントの歴史が変わる。国が機能性表示食品制度に導入したGMP義務化が完全施行されるためだ。この変化の波を大きく受ける受託加工をはじめとする製造各社を業界団体はどう支えていくのか。(一社)健康食品産業協議会(JAOHFA)で「ものづくり」に関わる課題解決に取り組む「健康食品原材料・製品の製造・品質分科会」の分科会長、副分科会長、GMPチームリーダーに聞いた。
製造・品質分科会が捉える5つの課題
同分科会には複数のチームが編成されている。崩壊性(錠剤・カプセル剤等)、健康被害対策(主として原材料に起因するもの)、食薬区分、衛生・HACCP、そしてGMPの全5チーム。サプリや健康食品の原材料、あるいは最終製品の製造・品質を巡る「目下の課題。それがこの5つだと捉えています」。分科会長の大曲泰史氏(ユニキス㈱)はそう語る。
大半が安全性に直結するテーマだ。「通知や法令などとも密接に関わってきますから、関係省庁とのコミュニケーションも行いながら、各チームで検討を進めています」と大曲氏。そのなかで、「業界全体として注目度が非常に高いですし、我々としても能動的に取り組んでいく必要があると考えています」と現在捉えているテーマがGMPだ。
サプリのGMPについて日本では、通知と告示で規範が示されている。前者は通称「3.11通知」の別添2「錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)」。そして後者は、前者の内容が法令に引き上げられる格好で制定された内閣府告示「機能性表示食品のうち天然抽出物等を原材料とする錠剤、カプセル剤等食品の製造又は加工の基準」。これが機能性表示食品のサプリの製造管理、品質管理に義務付けられるGMPの基準である。ただ、大曲氏はこう話す。
「国が本当に求めている(GMPの)レベルは、おそらく(通知や告示で)文字化されている(レベルの)そのさらに先にあり、いずれその方向に進んでいくことは十分起こり得ると思っています。実際にそうなった時、国に言われたからやるのではなく、(業界が能動的にやれるようにするために)現段階で何をすればそのレベルまでカバーできるのかということを、今の時点で考えておいたほうが良い。GMPチームは今、そういった検討や議論を進めています」
製品標準書、OEMと原材料の連携必要
GMPチームは現在18人体制。原材料から受託加工(製剤・包装)、そして製品販売まで、サプリのサプライチェーン全体をカバーするチームメンバーが3つの班に分かれ、来年9月1日に完全施行を控える、機能性表示食品のサプリGMP義務化に業界が対応していけるようにするため、前述の告示の規定を製造現場の実務にどう落とし込んでいくべきか検討を進めている。
3つの班とは、OEM班、原料班、統合班。GMPチームリーダーの藤澤賢司氏(一丸ファルコス㈱)は次のように話す。
「告示の規定を遵守する義務が直接かかるのは届出者ですが、遵守事項を実行するのはOEMメーカー(など最終製品の製造・加工施設)です。ただ、そのためには原材料メーカーの協力がないと難しい。(届出品目毎に作成が義務付けられる)製品標準書を作成するためには、(機能性関与成分を含む原材料の)受け入れ検査の方法や、同等性・均一性を確認するためのパターン分析の仕方などを原材料毎に決める必要がありますが、それらは原材料メーカーの協力抜きにやれることではありません。
そのため、OEM班と原料班の2つを作り、それぞれの立場から、告示に示された各規定を遵守するために実務上必要なことを検討し、すり合わせていこうと。製品標準書をどの程度作り込むべきかの検討がメインになってくると思います。その結果が、対応できないほどのレベルになってしまっては意味がありませんし、薄っぺらすぎてもいけない。レベルの落としどころをどうするか非常に悩んでいるところですが、(GMP義務化完全実施の)開始期日が来年の9月であることを考えると、来年2~3月頃にはチームとしての考え方をまとめ、お示ししたいと考えています」
藤澤氏が続ける。「3.11通知のGMP指針が昨年末に改正され、『微生物等関連原材料を用いる錠剤、カプセル剤等食品の製品標準書の作成に関する指針』が追加されました。発酵が関わるということで業界の関心は高いですし、いずれ告示に引き上げられる可能性もゼロでないと思います。そのため、微生物等関連原材料のパターン分析の方法であったり、その受け入れ方法であったりの考え方もお示しできればと思っています」
どうする受入検査、まずはリスク知る必要
目の前の告示だけでなく、大曲氏が言うように、その先を見越しながらの検討を進めていることがわかる。一方、統合班は何をするのか。分科会副会長の河野宏行氏(アピ㈱)が解説する。
「OEMメーカーと原材料メーカーの間をどのようにつないでいくかを考える。それが一番重要な役割です。OEMメーカーが今回のGMP義務化で一番悩んでいるのは、原材料の同等性や均質性をどう確かめていくのかのところ。つまり受け入れ検査の在り方です。そこは告示に規定されていませんから、業界が自主的に仕組みを作っていくしかないわけですが、受け入れ検査をどこまでやるべきか、やれるのか。OEMメーカーで全ての成分を分析するようなことは現実的ではありませんから、原料メーカーの協力が必須になる。そのとき、どこまで協力を求めるべきなのか。
OEMメーカーからすると、告示の規定が遵守されていることを確保する責務を負う届出者であるお客様に対し、原材料の同等性であったり、均一性であったりを、このように確認していますということを報告、共有する義務がある。そうしたことからも、原材料の受け入れのところはしっかり決めていく必要があります。
ただ、最近生じたエフェドリンの混入問題がまさにそうであるように、それが混入するリスクのあることを把握していない限り、どんなに受け入れ検査を行ったところで見破ることはできない。その原材料にどのようなリスクがあるのかがわからないということは、受け入れ検査で何を分析すれば良いのかわからないということです。その原材料にどんなリスクがあるかを把握しているのは、その開発者と原材料メーカーです。ですから、OEMメーカーとしては、原材料メーカーが保有しているその原材料に関する情報や知識がとても重要になるのです。
そのように原材料メーカーとOEMメーカーの間をつなぐためにはどうするべきなのかということを検討するのが統合班の役割。原材料メーカーとOEMメーカーの関係をどう築いていくのかという、いま最も重要なテーマに取り組み、お互いがわかり合える落としどころを探っていきたいと思っています。そこはどの業界団体でも検討されていません」
原材料GMP義務化、一筋縄では行かない
実際、昨年生じた小林製薬「紅麹サプリ」健康被害問題にせよ、医薬品成分のエフェドリンが微量混入していたことが判明、大規模な自主回収に発展した問題にせよ、問題の背景には原材料がある。いずれも製造管理、品質管理の不備だ(前者の場合は衛生管理も)。原材料の製造・品質もカバーする分科会としては、そのことをどう捉えているのだろうか。
「衛生、HACCP、そしてGMP。原材料全般についてそうしたところのレベルを引き上げることができれば、様々な問題の解決につながるのは明らかだろうとは思っています。ただ、そのように言うのはとても簡単なのですが、実際に原材料にGMPを実行しようとすると難しい面がある。理由は2つあって、1つは、原材料の多くが海外製であること。国内の原材料メーカーの全てがそれ(レベルの向上)を行っただけでは問題解決にはならないのです。
もう1つは、抽出・精製するなど加工度の高い原材料の工場は(GMPに)十分対応できる一方で、そうではない、基原材料を一次加工するだけのような原材料工場にとってはハードルが非常に高いこと。そういった原材料は除くかたちでやっていくという方向性はあり得るのかもしれませんが、だとしても、輸入原材料をどうしていくのかという大きな課題が残る。原材料も含めてGMPでやっていくことは、それ相応の時間をかける必要があると思います」
そうであれば、原材料メーカーあるいは原材料商社とOEMメーカーの関係強化がより重要になるだろう。見えない品質を見えるようにするには、河野氏の言うとおり、相互で情報共有するしかない。通知や法令の字面からだけでは窺い知ることのできない実務上の課題を炙り出し、その課題解消に向けて自主的に取り組むGMPチームの成果物はどんな中身になるのか。注目されそうだ。
【石川太郎(取材日:2025年7月30日オンラインで)】
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