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塩分オフセット技術を熊本から世界へ 【九州のヘルスケア産業2025】トイメディカル、代表取締役社長・竹下英徳氏に聞く

 トイメディカル㈱は、2013年10月に創業。社名は「おもちゃのように、使う人皆を笑顔にするような製品を創り続けていきたい」という思いに由来する。ワンルームマンションの一室で病院向けのディスポーザブル商品の開発からスタートした同社。塩分吸収抑制技術を中心に研究・開発を進める。熊本から世界中の人のウェルネスに貢献できるような会社作りを目指す。竹下英徳社長(=写真)に話を聞いた。                  

塩分抑制で商品開発。機能性表示食品にも挑戦

――従業員数14人、健康食品や食品添加物などの開発・製造・販売を手掛けておられます。会社の特徴についてお聞かせください。
竹下 当社は、もともと医療用品メーカーで、透析患者向けの剥がす際に痛くないテープなどを主力製品として販売していました。知り合いの透析患者から「食事制限が苦痛。また昔のように熊本ラーメンを食べられるようなものを作ってほしい」という相談を受け、新たな挑戦が始まりました。
 
 サプリメントについては、バルクを製造する設備はありませんので、設計・開発といった企画会社という立ち位置です。自社製品は、7年前に第1号商品として『デルソル』を発売しました。同品は、海藻由来のアルギン酸類を配合した、当社の独自技術「塩分コントロール技術」を応用した新発想のサプリメントです。食事の味を変えずに塩分コントロールをサポートできる、カリウム不使用で、カリウムの摂取が気になる人にも安心して摂取していただけるという商品です。現在、アルフレッサヘルスケア㈱にOEM提供しておりまして、同社から『しおナイン』という商品名で、全国のドラッグストアで販売されています。そのほかにも、㈱ビタブリッドジャパン、キューサイ㈱などにも採用いただいております。今市場に出ている「減塩サプリ」や「塩分抑制サプリ」などがそうです。

――開発の経緯についてお聞かせください。
竹下 さまざまな文献を調査し、ある食物繊維が塩分を吸着する効果あることが分かりました。しかしその食物繊維は、ナトリウム以上に透析患者が制限されているカリウムを多く含んでいました。カリウムやリンを多量に含む原材料を排除しながら、誰もが安心して使える食品を目標として検討を進め、約30種類の原材料の中から、昆布やわかめなどの海藻のぬめり成分である「アルギン酸類」にたどり着きました。
 「アルギン酸類」の原料となるアルギン酸は、海藻の藻体に含まれD-マンヌロン酸とL-グルロン酸という2種類のウロン酸が直鎖上に連なった構造をしています。ウロン酸が持っているカルボキシル基はイオン交換能が高く、ナトリウムイオンとも容易に結びつきます。また、アルギン酸類は人の消化酵素では分解されない食物繊維のため消化されずにそのまま出ていきます。安全性はFDAで評価され、最も安全な物質の1つに数えられており、現在、アイスクリームやゼリー、ドレッシング、ビールなどさまざまな食品に利用されています。
 「アルギン酸類」を主成分にすることを決めた私たちは、製品化に向け研究を続けました。
 何度も実験を繰り返し、2年の歳月と多くの失敗を乗り越えて、塩分をしっかり吸着する配合に至りました。

――機能性表示食品にも挑戦されたようですね。
竹下 ようやくその効果にたどり着き商品化の目途がたった矢先、今度は機能性表示食品の壁にぶつかりました。塩分の吸収を抑え、尿から排出される塩分を抑えられるというデータはあるものの、それがどう健康に資するのかということ。塩分の取り過ぎは良くないが、抑えることでどういった健康効果が訴求できるのか、塩分の吸収を抑えてどうなるのかというアウトカムがないという話になりました。私たちとしては、塩分の吸収を抑えること自体がゴールでしたので、3・4年前からチャレンジしてきましたが、結果として塩分の抑制を謳う機能性表示食品の届出は断念することにしました。
 塩分の吸収を抑えた結果、血圧が下がるなどのアウトカムにすれば良かったのかもしれません。血圧を下げる要因としてよく使われているのが血管の拡張です。塩分の吸収抑制は血圧を下げる効果という観点ではそれよりインパクトがない。塩分を取らないことは総合的に考えると重要と考えておりますが、結局、血圧などの機能性では市場は飽和状態です。

 別の攻め方として、例えば塩分の吸収を抑えることでむくみを抑えるなどのアウトカムに持っていこうか、という意見は出ているのですが、先ほども言いました通り、私たちのゴールはあくまでも塩分の吸収を抑えて健康的な生活を送るということです。それをむくみや高血圧などに特定することにどうしても抵抗があり、何を優先すべきか、悩ましいというのが正直な意見です。
 ただ、私たちも7年が経過し、さまざまなチャネルで販売してもらっているという状況下で、日本人は意外と減塩に対して意識はあるが海外と比較すると低いと感じています。すでに人工透析をされていたり、高血圧で塩分や食事制限されている人には使っていただいておりますので、そこに持ってきて、何かに絞った訴求をした商品を展開することに意味があるのかというのも本音です。 

サプリメントOEMから脱却、フードテックに活路

――今後の方向性についてお聞かせください。
竹下
 私たちも知名度が低い中、サプリメントのOEMをメインに活動してきました。しかしサプリメントは、すでに高血圧になっている人や人工透析を受けている人、QOLが落ちている人しか使いません。 

 そこで私たちとしては、これをフードテックの方に応用していこうということで5年ぐらい研究開発を進めています。塩とアルギン酸を違和感なく食べられるような加工をし、しっかり塩味はするが胃の中でそのアルギン酸が塩分を吸着するような配合をしました。そして、実質塩分をゼロにすることができるような、この次世代減塩調味料の『零(しお)』(ゼロシオ)を昨年発売、さらにそれを使った煎餅『気にせんべい』を発売しました。同品全体で0.5グラムの塩分が入っていますが、アルギン酸を同量入れることで、塩味を維持しながら実質塩分をゼロにするというのが私たちのコンセプトです。すでに一部のスーパーで販売されていますし、当社のホームページでも販売しております。最近、テレビにも取り上げられ好評いただいております。
 私たちとしては、この塩や煎餅をただ売っていきたい訳ではなく、この塩を使って例えばフライドポテトやポテトチップスなどに採用していただき、塩味はしっかりあるけれども、実質塩分をゼロにできる、そういった商品の開発や、この技術を使い、例えばラーメンの麺の中にこのアルギン酸を入れることによって、スープは今まで通りだがこの麺を食べると、麺が胃の中で消化された時にアルギン酸が塩分を吸着してくれる、そういうフードテックの方に注力しているところです。

――「塩分オフセット」という言葉、技術の定着を目指すということですが?
竹下 当初は「塩分吸着」という表現を使っていたのですが、中には塩分を吸着して増やすような反対の意味に捉える方もいらっしゃいました。そこで私たちは、法的な表現に抵触せず、この技術を説明できる言葉を探してきました。その結果、「塩分オフセット」という言葉に行きついたのです。塩分をオフセットする、塩分(ナトリウムイオン)をアルギン酸が吸着してアルギン酸ナトリウムに変換、置換する(オフセットする)。そうすることによって、このアルギン酸ナトリウムが体に吸収されず、そのまま便として排出されるというこの技術の根幹を表した言葉です。この言葉ですと身体の構造や機能へ影響を与える表現ではありませんので、薬機法や景表法に抵触せず、適切に技術概要が説明できるようになりました。
 また、新たに「(一社)おいしく適塩推進協会」という団体を、我々のビジョンに共感いただいた企業の皆様と立ち上げ、協会認定商品に独自マーク「塩分オフセットマーク」を付与するという取り組みを進めています。すでに数社加盟の意向を示していただいておりますが、今後さらに知名度のある企業の商品に付与していただくことで、世の中に浸透させていきたいと考えております。年内には市場に出てくるでしょうし、来年から本格的に動き出す予定です。

 私たちのこの取り組みやビジョンは、すでに国内外で評価していただいており、今年2月に行われた農林水産省主催の「フードテックビジネスコンテスト」で優勝、スペインで開催されたフードテックの祭典「Food 4 Future」において、アジア企業として初めて「Foodtech Innovation Awards2025」を受賞いたしました。
 これまで減塩をうたった商品はいくつもありますが、どうしても「味が物足りない」、「おいしくない」として敬遠されがちでした。この「塩分オフセット」によって、おいしく塩分摂取量を削減できるということを広めていきたいと思っております。

――ありがとうございました。

 (聞き手・文:藤田勇一)


<COMPANY INFORMATION>
所在地:熊本市南区富合町志々水48-1
TEL:092-724-0831(代表)
URL:https://toymedical.jp/
事業内容:食品・健康食品・食品添加物・医療薬品の開発・製造・販売

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