健康食品の契約巡る泥沼の紛争(後) B社・C社を巻き込む連鎖トラブルへ発展
健美商事と参薬の間に起きた紛争は、健康食品業界における製造委託・権利譲渡契約の透明性、および信用管理の重要性を改めて浮き彫りにした。当事者間の信頼関係と実務履行が十分に確保されないまま資金が動き、結果的に係争へと至った。
販売・製造にかかる知的財産権の移転や、その後の納品体制、情報提供義務の履行をめぐる曖昧さが招いた混乱であり、今後はより厳密な契約管理と履行状況のモニタリングが業界全体に求められる。それにしても、参薬代表の森田文雄氏の振る舞いには目に余るものがあった。
「スーパーアリペリン8」製造トラブルには、他にも複数の企業が巻き込まれている。西日本に拠点を置く健康食品OEM会社であるB社は、森田文雄氏が健美商事へ旧・白寿BIO医研を譲渡した後に製品の製造委託を受け、損害総額が450万円超に上った。
アルスウェルネス側に未入金、損害総額は450万円超に
B社は、アルスウェルネス㈱(東京都品川区)からの依頼により、2024年7月よりサプリメント「スーパーアリペリン8」の製造を開始したが、発注者側の代金未払いおよび契約関係の不透明性により、損害が発生していると報告した。
同社によれば、アルスウェルネスとの初回接触は2024年5月7日、正式発注は7月23日だった。契約条件では8月以降の製造販売は健美商事が担うことになっていたため、この受注活動は契約上の権利関係と競合する可能性があった。そのことを知らされることなくB社は依頼に応じた。製造内容は、旧・白寿BIO医研が手掛けていた「アリペリン8」をベースに、原料メーカーを一部変更し、配合を調整したものだった。
しかし、その後の納品と支払状況には問題が生じた。9月に納品された1,206個のうち、約111万円分が未入金のままとなっており、10月納品予定分約2,100個についても仕掛かり品として保管されている(損失額は約340万円)。11月分も同数が計画されていたが、製造には至らず、最終的な損害総額は税込で451万1,892円に上るとされる。
また、森田社長からは当初「白寿BIO医研の新会社」との説明がなされたが、健美商事との間に存在する譲渡契約については説明がなく、9月27日に健美商事の代理人からの連絡で初めて背景事情が判明したという。その後も森田氏とのやり取りの中で、契約解除手続中や商標変更の説明があったものの、健美商事側からは契約の有効性と製造の無許可を明言されたため、B社としては製造継続を断念した。
24年10月以降、アルスウェルネスからの連絡は途絶し、同社に対しては顧問弁護士を通じた内容証明郵便により損害賠償請求を行ったが、「いまだに返答はない」という。B社では、今後の対応について引き続き検討中であるとしている。
いわれなき誹謗を理由に3,000万円を請求
他にも、健康食品の受託製造を行うC社が、アルスウェルネスの森田社長から根拠不明な誹謗と脅迫を受けていたことが関係者の証言により明らかになった。
問題の発端は昨年の5月頃、『H.G.H MIRACLE8』という商品の製造依頼からだった。味の調整がなかなかうまくいかず、同品の受託は結局それ以上進むことはなかった。その後、NMNを原料とする既存の自社商品をアルスウェルネスに提案したところ、採用となる。半年ほどの短期取引が行われたが、1回目の出荷以降、代金の支払い遅延が発生した。C社は「入金確認後の出荷」とする対応に切り替えたが、4回目以降状況は改善されなかった。
さらに、支払い遅延を理由にC社側の担当者の交代が求められ、現地での面談を申し入れたが、森田社長は面談に応じようとしなかった。最終的にC社がアポなしでアルスウェルネス(=下の写真)を訪問した際には、身に覚えのない「誹謗中傷」を取引先の関係者が受けたと一方的に主張され、支払いは損害賠償金と相殺すると言われた。その結果、約3,000万円にのぼる損害賠償を請求されたという。
ただし、この請求には「弁護士名非開示」のまま支払いを求める書面が添付されており、「SNSでの風評拡散」や「(C社の」社長の個人情報の暴露」をほのめかすような脅迫的文言も含まれていた。C社は精神的な圧迫を受けつつも、法的措置の準備を進め、現在は未払い金約300万円に対する内容証明郵便での請求を継続しているという。

アルスウェルネスが入居するビルの外観(左)および1階にある案内板
エスカレートする脅迫に立ち向かうC社
問題となったやり取りは、支払いトラブルに端を発していたが、次第に言いがかりと見られる内容がエスカレートした。
同社関係者によれば、相手方は「C社が製造した紅麹商品により死亡事故が発生した」と主張し、それを“隠蔽している”という虚偽の情報を理由に、代金の支払いを求めてきたという。しかも、SNS上で情報を「ばらまく」との発言もあったとされ、「期日までに支払わなければ止められない」との脅迫的な文言が文書に記されていた。
さらに文書には、C社社長の自宅住所を把握している旨の記載もあり、同社では即座に「これは異常である」として、弁護士への相談に踏み切った。最終的に支払いを拒否すると、今年4月8日、「あと2日で4月10日です。会社調査、管理責任者の自宅調査は完了してます。告訴、SNS等大変な問題に発展します」といった意味深な通告が届いたが、それ以降、アルスウェルネスからの連絡は一切途絶えた。
同社では現在、6カ月が経過した9月の時点で内容証明郵便による請求を行う予定である。同社は、「全く根拠のない作り話に基づく請求であり、被害拡大を防ぐためにも毅然とした対応を取っていく」としている。
本件を通じて明らかになったのは、アルスウェルネスのような悪質かつ執拗な対応を行う事業者が実際に市場に存在しているという事実である。関係者の証言を元に同社の森田氏に取材を申し込んだものの、取材に応じようという誠意ある対応は見られなかった。
健美商事との取引に関しては、適切な与信管理を欠いた信頼ベースの取引に偏り過ぎたとの印象も免れないが、森田氏による契約の不履行と一方的解消による代金の未払いは、弁解の余地のない背信行為である。また、契約内容や権利関係を不透明化する多屋号・多法人運用も非難に値する。ましてや二重発注・二重契約の可能性が問題視される中、根拠のない請求や脅迫的言動を用いた取引手法は、業界の信頼を大きく損なうものであり、断じて許されてはならない。
しかもC社の担当者がアルスウェルネスを訪問した際に受け取った名刺(=下の写真)には、「森田雄一」という別の名が記されている。しかし担当者が面談したのは紛れもなく森田社長本人だったと話している。この点についても、「森田雄一」と「森田文雄」との関係、仮に偽名を使用しているとすればその理由を聞いたが、回答は得られなかった。

同社とのトラブルに巻き込まれた企業は、ここに記した3社以外にも複数存在するようだ。実際、ある企業からは「弁護士案件として解決済み」と聞くが、今後、これ以上このような被害が広がることがないことを願いたい。もっとも、こうした事態を未然に防ぐには、契約締結時の法的チェックや相手企業の実態把握が不可欠となる。安易な取引は、大きなリスクを伴うことを関係者は肝に銘じたい。

(了)
【田代 宏】
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