健康食品の契約巡る泥沼の紛争(前) 契約不履行と過大請求が招いた法廷闘争
健康食品「アリペリン8」をめぐり、販売元・健美商事と旧・白寿BIO医研(参薬)の間で勃発した商標・製造・販売権譲渡契約トラブルは、東京地方裁判所における訴訟「金銭払戻請求事件」(令和7年(ワ)第578号)に発展した。判決では健美商事の主張が認められたが、問題はそれに留まらず、B社やC社など複数の受託製造企業が金銭トラブルや脅迫的対応の被害に巻き込まれていたことが明らかになった。昨年から今年にかけて表面化した一連の騒動を追った。
2,900万円契約に不履行、返金請求で係争へ
健康食品「アリペリン8」などを巡り、販売会社㈱健美商事(徳島県鳴門市、赤松信也社長)と製造元である参薬㈱(=旧・白寿BIO医研、東京都港区、森田文雄社長)との間で、製造・商標・販売権の譲渡契約を巡る紛争が昨年、勃発した。
総額2,900万円に上る取引は途中で破綻し、未納品分の返金を求める訴訟に発展した。東京地方裁判所では、今年3月19日に判決が言い渡され、健美商事の請求が認容された。前記譲渡契約上、参薬で製造・販売していた『アリペリン8』などの商品については、昨年8月以降は健美商事のみが製造・販売できるものとされ、参薬は営業を停止する旨約定されていた。ところが参薬の代表者である森田文雄氏はその後も、アルスウェルネス㈱(東京都品川区)など別法人をもって商品販売を継続し、複数の受託メーカーを巻き込む連鎖トラブルへと発展している。一部では8月以前からの活動も指摘されている。
4月19日「譲渡契約」締結へ
両社は2024年4月19日に「販売・製造・商標権譲渡契約」(=下の写真)を締結した。契約条項では、事業権の正式移転を同年8月と定め、それまでの準備期間を契約前の3月25日から開始する旨が記載されていた。
対象商品は「H.G.H MIRACLE5」、「水素水の素」、「アリペリン8」など複数品目に及ぶ。契約内容は、白寿BIO医研㈱が商標・製造・販売権を㈱健美商事に譲渡し、同社が今後の商品製造・販売を担うというもの。譲渡対価は総額2,900万円で、分割払いによる支払いが取り決められていた。
譲渡対象とされた商標は、白寿BIO医研、アリペリン8、H.G.H MIRACLE5、水素水の素、エパゾラム、H.G.H SUPER7、H.G.H POROLINE X1など。また、譲渡される事業権の内容には、商標使用権、商品の配合表や製造委託先の開示、販促資材の提供、販売先リストなどが含まれていた。

「販売・製造・商標権譲渡契約書」の第4条では、「2024年8月をもって甲(白寿BIO医研)から乙(健美商事)に事業権を移転する」と明記され、移行準備期間として同年3月25日~7月31日までの間、甲が乙に対して準備協力を行うことが規定されていた。また、甲は営業を停止し、7月末までに在庫を乙に譲渡し、仕入価格を基準に預託金と相殺する処理を行うことも想定されていた。契約締結後の6月21日、森田文雄氏は白寿BIO医研の商号を参薬に変更しており、これは契約履行に関連するとみられるが、事業権移転はあくまで8月とされていた。
森田氏が契約解除通知、6,800万円相当の請求
ところが2024年10月、森田氏は突如として「契約解除通知書」(=下の写真)を健美商事に送付し、契約解消を主張するに至った。なお、前記通知書には以下の3点が記載されている。
① 登録済み商標(5件)の使用差止
② 各商品に関する「成分配合表」に対する対価支払い(合計5,900万円)
③ 取引先名簿(9000件)に対するデータ提供料(900万円)
また、5,900万円の内訳は、「アリペリン8」300万円、「H.G.H MIRACLE5」5,000万円、「H.G.H MIRACLE8」200万円、「水素水の素」200万円、「エパゾラム」200万円となっている。
これらを合算した請求総額は6,800万円に達しており、健美商事がこれまでに支払った譲渡代金と相殺し、その差額を健美商事が追加で参薬に支払うよう求めている。

健美、森田氏の契約不履行を主張
一方の健美商事は、上記契約解除主張に対し、解除理由がないとして争う姿勢を明らかにしている。 同社によれば、2024年4月の契約締結以来、契約上の債務(代金支払義務)を履行しているのに対し、同社が参薬に送金した金額は譲渡代金や商品前受金名目で合計3,680万円を送金済み。譲渡契約金の2,900万円を差し引いても、780万円を余分に支払っている。
ところが、契約で定められていた商品納品や工場紹介などの義務は履行されず、製品は220万5,272円分しか納品されなかったという。健美商事は、これを契約不履行とみなし、残金559万4,728円の返還を求めるに至った。
「名誉棄損」「業務妨害」巡る応酬も
契約不履行に加え、両社間では名誉棄損や業務妨害をめぐる応酬も起きた。
森田文雄氏が健美商事に対して突然、契約解除通知を送信したことはすでに書いた。健美商事の代理人に送付したメールには、健美商事の赤松社長が取引先に不義理を働いたせいで森田氏が8社から取引停止を通告されたとの当て付けとも思われる記載に加えて、赤松社長を業務妨害罪で告訴すると述べられていた。
これに対して昨年10月4日、健美商事側は代理人名義で559万4,728円の返還を請求する通知書を森田氏側に送付した。さらに、森田文雄氏による業務妨害的行為が詐欺罪(刑法246条第1項)、健美商事の社長を業務妨害罪で訴えるという主張が脅迫罪(刑法222条第1項)に当たる可能性があると非難している。
また、森田氏が複数の屋号(白寿BIO医研、白寿メディカル、参薬、アルスウェルネスなど)を使い分けていた点について、健美商事側は「信頼性に疑義あり」としている。さらに、一部製品については、正式な権利移転が完了していないにもかかわらず、他社が販売を続けている実態も報告された。
裁判所は原告の主張を全部認容
健美商事(赤松信也社長)は今年1月10日、参薬(森田文雄社長)を相手取り、東京地方裁判所に金銭の払い戻しを求めて訴訟を提起した(金銭払戻請求事件)。
3月12日に東京地裁民事31部法廷で第1回口頭弁論が行われた後、3月19日に東京地裁は本件に関する判決を言い渡した。被告(参薬)は口頭弁論に出頭せず、答弁書も提出しなかったことから、裁判所は被告が原告の主張を争わないものと認定。判決では、健美商事の請求額のうち559万4,728円について被告に返還を命じた上、遅延損害金(年3%)の支払いも命じた。なお、この判決は仮執行が可能とされている。健美商事の代理人は、「現在、判決に基づき相手方の財産に対し強制執行を掛け得る状態にある。財産状況が判明次第、執行を掛ける予定」と話している。
引き続き、B社およびC社とアルスウェルネスの間で起きたトラブルについて詳報する。

(つづく)
【田代 宏】