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健康食品制度の歪みをただせ!(前) 紅麹サプリ事件から見えた制度の限界と再出発

 2024年春、日本中を揺るがせた小林製薬製「紅麹サプリメント」による健康被害。命を落とす事例まで発生したこの事件は、健康食品制度の根本的な欠陥をあらわにした。現在の制度は、医薬品でも一般食品でもない「中間領域」の製品を適切に規制できているのか――。
 今回、東京大学名誉教授でリスクコミュニケーションの第一人者・唐木英明氏と、制度整備の必要性を訴え続ける衆議院議員・大西健介氏が、事件の教訓と制度改革の課題を語り合った。サプリメントの規制、消費者庁の限界、GMP(適正製造基準)義務化の課題、そしてセルフメディケーションの未来。対談から浮かび上がるのは、「健康を守る制度は誰のためにあるのか」という本質的な問いである。(文中敬称略)

事件の風化を防げ――制度見直しの機会を逃すな

唐木 今日のテーマは「紅麹サプリ問題の教訓」ということにさせていただきましたが、まずは先生のお話を伺うところから始めさせていただいてよろしいでしょうか?

大西 はい、結構です。少し時間が空いてしまったので、正直、私自身も記憶が薄れている部分があります。日本社会の悪いところは、事件や事故が起きると一時的に盛り上がりますが、その後すぐに関心が薄れ、議論もされなくなる点です。機能性表示食品についても、あれだけニュースになったにもかかわらず、今では誰も話題にしていません。しかし、これまでに唐木先生がご指摘されたように、機能性表示食品や、いわゆる健康食品全体の制度のあり方について、あの紅麹サプリ事件を契機にしっかりと議論を深めるべきだったと考えています。残念ながら、その機会を逸しているのが現状です。ですから、今回のように再び先生とお話できるのは貴重な機会です。
 もう1つ、あの事件で衝撃だったのは、健康になりたい一心で毎日紅麹サプリを真面目に摂取していた方が、健康どころか命を落とすという事態が起きたことです。これがコンビニなどで手軽に買えるということもあって、多くの人が日常的にサプリメントを摂取していることに改めて気付かされました。先生がご指摘のとおり、制度がつぎはぎでいびつになっているので、今こそ整理が必要だと強く感じています。

紅麹サプリだけではない――「いわゆる健康食品」の盲点

唐木 おっしゃるとおりです。我々リスクの世界では「日替わりリスク」という言葉がありますが、大きな出来事でも1日や2日で人々が関心を失ってしまう傾向があります。日本は「検証をしない国」とも言われており、この問題もこの機にきちんと基本に立ち戻って検討すべきです。その際に最も重要なのは安全性の問題です。どういう制度にすれば安全性を担保できるのかを真剣に考える必要があります。
今回、紅麹サプリメントは機能性表示食品として出回っていたものですが、消費者庁が他の機能性表示食品を調査した結果、問題があったのは紅麹サプリだけでした。それ以外の多くの問題を起こしているのはすべて「その他のいわゆる健康食品」であり、食品衛生法でしか安全性を縛れない状況にあります。健康食品に対しては、表示法での規制もありますが、表示法で安全性が保たれるかどうかは大きな疑問です。したがって、食品でも医薬品でもない新たなジャンルとして健康食品を法的に位置づけ、安全性を担保するための厳しい法律を整備する必要があると考えています。先生もそのような法律の必要性を以前からお考えだと思いますが、いかがでしょうか?

健康被害の情報共有――遅れる制度的不備

大西 まさにそのとおりです。事件自体は、本来あるべき製造管理や清潔な環境での製造ができていなかったことが原因で、論外ではありますが、我々が改めて衝撃を受けたのは、健康被害が起きているにもかかわらず、監督官庁への報告が遅れたり、消費者庁への情報提供がなされなかったことです。これでは被害に気付かずに製品を摂取し続ける人が出てしまいます。
食品衛生法の枠内では、食中毒などと同様の対応になりますが、紅麹サプリのようなものをそのように扱って良いのかには疑問があります。たとえばアメリカのダイエタリーサプリメント教育法では、迅速な健康被害報告が義務付けられています。今回の制度見直しでもその点が議論されましたが、やはりサプリメントを一般の食品と同じように扱うのは限界があります。
また、今回の事件では、原因究明や立入検査を行ったのは厚生労働省でした。一方で、機能性表示食品制度は表示に関する制度であり、消費者庁が所管していますが、消費者庁には安全性を判断する能力がありません。このような役割分担の不自然さには大きな違和感を覚えました。

分断された制度の限界――安全は誰が見るのか

唐木 その点について申し上げますと、最近、厚労省の安全基準審査課が消費者庁に移管されました。紅麹サプリの問題が発生した時点では厚労省の所管でしたが、今後は消費者庁が担当することになります。先生がおっしゃったように、消費者庁は寄せ集めの組織であり、安全性を見る担当者は厚労省からの出向者が担っているのが実情です。安全性部門を消費者庁に移したことが本当に良かったのかという疑問も残ります。

制度の不自然――現場対応力の欠如

大西 まさにそのとおりです。安全性の面では厚労省からの出向者、表示の面では農水省からの出向者が担当しています。このような構成で本当に消費者庁に十分な対応能力があるのか、疑問に思います。GMPの話もありますが、それを審査する能力が消費者庁に備わっているのかは、懸念されるところです。

唐木 そうですね。食品には農水省、医薬品には厚労省が所管している中で、健康食品を総合的に取り扱うのはどこかという根本的な問題があり、それをきちんと整理するためにも、新しい法律の整備が必要だと考えます。

錠剤・カプセルは「食品」か?――形状が問う法的位置付け

大西 私もその点は全く同感です。食品と医薬品の中間に、明確なカテゴリーを設ける必要があると思います。今回の件を通じて、我々も「サプリメント法」のような新たな法制度の必要性を提言しました。特に錠剤やカプセルの形状をした製品については、一般の食品とは異なる規制が必要です。
 例えば、トマトに含まれる成分が健康に良いとされても、毎日大量のトマトを食べることは現実的ではありませんが、その成分を濃縮してカプセルにすれば容易に摂取できます。

唐木 レモン1,000個分のビタミンCなどという宣伝もありますね。

大西 そうなんです。過去には厚労省が医薬品以外のカプセルや錠剤の形状を認めていなかった時期もありましたよね。

唐木 1999年までは禁止されていて、2000年に解禁されました。

大西 そこが大きな分岐点だったと思います。ですから、錠剤やカプセルの形状というのは、食品と区別すべき根拠があるのです。

唐木 そのとおりで、錠剤やカプセル形状で濃縮され、継続的に大量に摂取されるという特性は、食品とは本質的に異なります。それが安全性に深く関わるため、食品衛生法とは別の新たな法律で取り扱うべきです。これは安全性問題の根幹とも言えます。

大西 もう1つ、消費者の視点で見ると、多くの方々がトクホ、機能性表示食品、いわゆる健康食品の違いを理解していません。特に錠剤やカプセル形状のものは、見た目が薬に似ているため、何らかの効能があると思って飲んでいる方が多いのが現状です。

(つづく)
【文・構成:田代 宏】

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