消費者のヘルスリテラシー向上が課題 薬健研シンポジウムで、事業者・マスコミに求める声も
薬業健康食品研究会(北島秀明会長)は15日、「2025年度定時総会記念シンポジウム」を主婦会館プラザエフ(東京都千代田区)で開催した。業界関係者ら約30人が参加した。
基調講演として、東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)ライフスタイルデザイン研究ユニット元客員研究員で、(一社)健康食品産業協議会シニアアドバイザーの小田嶋文彦氏(=写真)が登壇した。講演テーマは「食の健康機能の利活用促進」同氏は、2020年4月~25年3月まで在籍したIFIでの研究内容を基に、アカデミアとしての見解を述べた。
同氏は、「食にはさまざまな健康機能があるが、消費者の活用が不十分。その背景にはさまざまな要因があるものの、整理できていないのが現状。是正の糸口を見出すためには、まずその要因の網羅的な洗い出しと関係性の整理が必要だと話した。
また、運動・休養など生活全般の合わせ技の中で食を上手に活用することが重要で、それにより肉体の健康だけでなくウェルビーイング全体に寄与することができる。「食だけで健康」はあり得ないが、必須アイテムであることは間違いないと説明した。
小田嶋氏は、食の健康機能を活用するための課題として以下の8つを挙げた。
①消費者のヘルスリテラシーの向上とそれに向けた環境整備
②保健機能食品を中心とする表示制度の見直し
③関係者間のコミュニケーション強化と食の健康機能の全体像に関するコンセンサス形成
④食品関連事業者のレベルアップと適切な製品の提供、広告の実施
⑤エビデンスのあり方に関する考え方と評価手法の適切化
⑥食の健康機能に関する研究、新素材の探索と実用化の推進
⑦業界団体(特に健康食品)の活動力強化
⑧栄養と健康に関する調査の充実と健康栄養政策の強化
その上で同氏は、これらの関係性を理解し相関させることが、食の健康価値最大活用につながるとした。
「機能性表示食品制度等の課題と将来展望」をテーマにパネルディスカッション
パネルディスカッションも開催。小田嶋氏に加えて、厚生労働省健康・生活衛生局食品監視安全課課長の今川正紀氏、岐阜医療科学大学薬学部教授の宗林さおり氏、(一社)消費者市民社会をつくる会(ASCON)代表の阿南久氏が登壇した。

今川氏は、小田嶋氏の講演を受けて、「ヘルスリテラシーの向上は重要だ」とした上で、次のように述べた。
「行政がいかに制度を改正し、それに事業者がいかに対応していったとしても、それを消費者にしっかりと理解してもらい、うまく活用してもらうことが課題となっており、継続して取り組む必要がある。機能性表示食品制度がスタートして10年目となり、より良い制度に変化してきたが、ついてきていない事業者も多くおり、そうした事業者をいかにフォローしていくのかということが重要。行政の立場からすると、制度の改正や『紅麹問題』を受け、機能性表示食品だけではなくサプリメントの横断的な規制をどうするのかということを議論する必要がある。事業者団体等とも相談しながら進めていく必要がある」
一方、宗林氏は、次のように語った。
「小林製薬の一連の問題に限ったことではないが、行政は、国民生活が安全な食品、製品をきちんと選択できるような生活を目ざすべきと考える。原料メーカー、流通、最終工場、届出者、輸入事業者と携わる事業者が数多く存在するが、小林製薬の問題も然り、最近話題のエフェドリンの問題など、異物が混入した場合にそれをどのようにキャッチしていけるのか、気付けるようにするのかが重要」
続けて宗林氏は、「消費者が有益に安心して商品を選択できるようにするには2つのポイントがある。1つめは、優良誤認・有利誤認にならいよう消費者がしっかり判断できる表示にすること、2つめが機能性表示食品において、その機能性関与成分の含有量がそれぞれ商品によってバラバラだが、その中でどれを選び、どのぐらい飲めば良いのかということが、消費者にしっかり伝わる仕組みになってもらいたい」と話した。
事業者、マスコミの姿勢に意見
阿南氏は、今回の問題を『小林製薬の食中毒事件』と呼び、「この問題発生時、大変な思いをした」と切り出した。阿南氏によると、同事件発覚当時、多くのマスコミから「機能性表示食品制度はあなたが長官で責任者だった時に作られた制度。制度が間違っていたのではないか、制度が悪いのではないか」と言われたという。その度に、同制度ができた理由を説明すると同時に、「制度の問題ではなく、小林製薬の製品管理が間違っていた」と説明したという。
その上で阿南氏は、「結果的に、マスコミが制度を最初から学ぶきっかけになったのではないか。また、何よりも機能性表示食品を利用していた消費者に対して安心を与えることができたのではないか。制度そのものもある程度守ることができた。まじめに取り組んでいる事業者を守ったことにもなった。大変な時間だったが、有効な時間となった」と当時を振り返った。
また阿南氏は、「事業者には、もう一度理念に立ち返り、なぜ自分たちは機能性表示食品制度を使い、事業をやっているのか、誰のためにやっているのか、ということを自ら問いかけてほしい。消費者のヘルスリテラシー向上のための情報を発信していくことが必要」と話した。
小田嶋氏は「事業者にはもう一度立ち直り見つめ直してほしいという意味で研究を行った。制度が変わり、それについてきていない事業者がいるのも確か。まだまだ事業者の自覚が足りないと感じているし、消費者のリテラシーもさることながら、事業者のリテラシーの低さも問題。そのためにも事業者の基礎教育、健康食品を扱うための資格、事業参入には一定の知識が必要なのではないかと思う」と話した。また、「マスコミのサイエンスに対する知識が乏しいという声も聞かれる。マスコミのリテラシー向上も重要な課題」と加えた。
「紅麹問題」問題という表現に意見
パネルディスカッションの途中、司会を務めた同研究会副会長の稲垣雅氏が、今川氏が使った「紅麹問題」という表現に対して意見する場面があった。
稲垣氏は、「昨年発生した一連の問題は、小林製薬の衛生環境の問題であり紅麹全体の問題ではない。それにもかかわらず『紅麹問題』という表現が使われることがあり、それによる風評被害に悩まされている事業者も少なくない。紅麹が悪い訳ではないため、『紅麹問題』ではなく『小林製薬の紅麹含有サプリメント問題』などと、正確な表現を使ってもらいたい」と訴えた。
【藤田 勇一】