1. HOME
  2. 会員専用記事閲覧
  3. サラシア物語~試練と再出発(後) 制度と連携が導いた市場拡大の転機

サラシア物語~試練と再出発(後) 制度と連携が導いた市場拡大の転機

 過去2回にわたり、サラシア・コタラヒムという素材の周囲で起きている利権争いを巡る混乱を記してきた。しかしあくまで、「サラシア属植物」が有望な素材であることに変わりはない。富士フイルムの市場参入が業界に結束力をもたらし、サラシア属植物普及協会の旗の下、これまでのことは水に流し、次のステージに賭けようとする思いは各社同じである。

業界が結集、サラシアに未来託す

 筆者は2014年11月に開かれた「第7回サラシア属植物シンポジウム」を取材している。会場には100人を超える業界関係者が集結。サラシアの機能性をテーマに、研究者や事業者が最新の知見を共有し、翌年施行される機能性表示食品制度を見据えた連携が本格化していた。かつて反目していたタカマや森下仁丹らの姿もそこにあった。機能性表示食品制度への対応に向けて、富士フイルムが学術・原料部会の中心となり、機能性成分「サラシノール」の規格基準作りを進めていた。科学とビジネスが融合する動きを目の当たりにし、サラシア市場が一気に加速する兆しが見て取れた。
 吉川雅之会長(=当時、京都薬科大学名誉教授)は、「日本発の素材を世界へ発信する」と意気込み、サラシアの明るい未来像を出席者に示した。

サラシア市場、制度施行で一気に拡大

 機能性表示食品制度はその性格上、機能性関与成分のSR(システマティック・レビュー)はどの事業者でも実施可能であり、ひとたびSRが出れば、他社の参入も容易になる。この波に乗るか、波を起こすか、素材メーカーにとっては先行投資が販路拡大の鍵となる。同協会は当時、「基原の確認」、「LC/MSによるサラシノールの同定」、「α-グルコシダーゼIC50値の測定法の標準化」などに取り組んでいた。

 科学的根拠に基づく機能性表示が求められる時代に、サラシアは強力なエビデンスを持つ機能性素材として輝き始めていた。その可能性を支えるのは、研究者と企業が築く協調のネットワークである。サラシアが機能性表示食品市場を牽引する“主役”となる日も遠くはない――そう感じさせるシンポジウムだった。そして翌年、機能性表示食品制度が施行されたことにより、同素材は名実共にブレイクすることとなる。当然、市場規模は拡大する・・・

(⇒つづきは会員専用記事閲覧ページへ)

 機能性表示食品制度において、2016年5月の時点で、富士フイルム㈱、森下仁丹㈱、アサヒフードアンドヘルスケア㈱、㈱アラクスなどの4社・5品目が公表されていた。
 「本品にはサラシア由来サラシノールが含まれます。サラシア由来サラシノールには糖の吸収をおだやかにし、食後血糖値の上昇をゆるやかにする機能があることが報告されています」などの機能性表示ができる。機能性関与成分はすべて「サラシア由来サラシノール」である。
 一方、15年11月には富士産業㈱と小林製薬㈱が相次いで、特定保健用食品(トクホ)として許可された。関与成分は前者が「チオシクリトール(ネオコタラノールとして)」、後者が「ネオコタラノール」で機能性表示食品とは異なる。共にサラシア属植物普及協会の会員だった。

「メタバリア」躍進で市場が拡大

 サラシアは、糖質吸収抑制による血糖値の上昇を緩やかにする効果が評価され、機能性表示食品の関与成分として需要が拡大した。
 この成長を後押ししたのは、富士フイルムの製品「メタバリア」シリーズのヒットである。女優・樹木希林(=故人)を起用したカラーフィルムのTVコマーシャルで『メタバリア編』を流すなど大々的な告知を行ない、サラシアの普及に一役買った。糖吸収阻害など極めて高い活性を有するとされる同素材。消費者利益を配慮した健全なマーケット形成を考えた場合、サラシアの認知向上に努めた富士フイルムの貢献度はとても大きなものだった。市場におけるサラシアの存在感は一気に増した。
 現在では、複数の企業がサラシアを配合したサプリメントや健康食品を展開している。茶、粉末、エキス末などの形態で供給され、タブレット、ソフトカプセル、ドリンクなど商品のバラエティ化が進み、用途の広がりとともに市場の裾野が拡大した。
 2025年7月9日現在、サラシア由来サラシノールで届け出されている機能性表示食品は143製品、そのうち販売中のものが56製品ある。
 富士経済は2020年のサラシアマーケットの市場規模を84億円と予測。同年のサプリメント全体の市場規模は公表ベースで9,247億円だ。全体のおよそ1%がサラシア市場と見た場合、2024年度は全体が1兆606億円に対して約106億円となる。少々乱暴な計算だが、優に100億円は超える市場が形成されていると見て間違いないだろう。

エフェドリン問題が突きつけた教訓

 このたびのエフェドリン混入問題を受けて自主回収が図られているのが、富士フイルムの『メタバリアEX』の80万個を筆頭に、アサヒグループ食品の『ディアナチュラゴールド サラシア』、大正製薬『食後の血糖値が気になる方のタブレット(粒タイプ)』、RIZAP『「COMMIT WITH LIMIT+』など、7月4日時点で10社・100万個を超える規模と言われている。この10年で急伸した市場の大きさを改めて感じさせられる今回の事案となった。

 健康被害がないにもかかわらず大規模な自主回収を迫られた今回の問題では、サラシアのブランドイメージの毀損はもとより、制度運用・製造体制・情報伝達の面で多くの教訓をもたらすこととなった。新たな試練を迎えたサラシア業界は言うまでもなく、健康食品業界全体の信頼の再構築に向けて再出発が求められている。

(了)
【田代 宏】

(冒頭の写真:サラシアの原木)

関連記事:サラシア物語~試練と再出発(前)
    :サラシア物語~試練と再出発(中)
    :医薬品混入で業界動揺 サラシア協会が謝罪と再発防止へ

TOPに戻る

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

INFORMATION

お知らせ