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物流問題と送料無料表示を再考(7) 「送料無料」表示の見直しを巡り、宅配大手が見解を表明

 2023年10月6日、「第8回『送料無料』表示の見直しに関する意見交換会」が開催された。会合には、宅配業界の大手であるヤマト運輸㈱および佐川急便㈱が出席し、物流の現場における実情と、「送料無料」表示に対する見解を述べた。
 冒頭では、政府が取りまとめた「物流革新緊急パッケージ」に触れつつ、植田審議官が「運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映されるべき」と述べ、表示の見直しの必要性を強調した。

「送料無料」表示の評価は単純ではない

 ヤマト運輸は、物流業界、eコマース事業者、そして購入者を含めたすべての関係者が一体となって解決すべき課題であるとし、業界の健全な成長を見据えた支援の必要性を強調した。
 「送料無料」表示について、単体で是非を論じることは困難であるとの見解を示している。eコマース市場において、「送料無料」という表現は、消費者の購買意欲を喚起する販売手法の一つであり、販売者側にとっても「売りやすさ」を追求するうえで自然な選択肢となっている。こうした中で、同社は「良い」「悪い」といった単純な評価ではなく、事業者と消費者の利便性を高める支援の在り方を模索する姿勢を貫いている。
 運賃の妥当性については、荷主ごとの契約や交渉が前提であり、eコマースの成長と物価の変動に合わせて、都度調整を行っているのが実情である。運賃設計においては「いかに効率的に運べるか」が重要な要素であり、EC事業者と密接に連携し、双方にとって効率的な配送網の構築を目指している。

物流の効率性と利便性の両立を重視

 同社は、単に荷物を届けるだけではなく、消費者にとっての受け取りやすさを重視した取り組みを進めている。その一環として、拠点の配置やコンビニなどの取扱店の拡充など、生活動線上での利便性向上に注力してきた。これは、宅配事業者を選ぶ基準が料金のみならず、「荷物を出しやすいかどうか」という点にもあるとの顧客の声を反映した対応である。
 また、近年ではCtoCプラットフォームの拡大、すなわち個人間取引の増加も新たな潮流として認識されている。こうしたサービスにおいても、配送の利便性と効率性は重要なテーマであり、物流の役割はさらに多様化している。

 再配達については、従来の「再配達削減」施策とは異なる観点からアプローチしている。すなわち、消費者に「努力を求める」のではなく、いかに「受け取りやすい環境」を整備できるかが焦点である。消費者がスムーズに受け取れるようにすることで、結果的に再配達が発生しない状況をつくるという考え方である。受け取りの時間指定や手段の柔軟性を高めることが、最も現実的かつ効果的な解決策であると位置づけている。
 このように、物流事業者としての役割は単なる配送業務にとどまらず、EC事業者と消費者双方の利便性と効率性を支える「流通のパートナー」としての立場を強めつつある。今後も市場環境の変化を的確に捉え、柔軟かつ持続可能な物流サービスの実現に向けた取り組みが求められる。

佐川急便は「誤解のない表示」を提案

 一方、佐川急便は、同社の事業内容を説明した上で、「送料無料」という表示が荷受人、すなわちエンドユーザーに誤解を与える可能性があると指摘する。実際のところ、送料は出荷人が負担しているにもかかわらず、その実態が明確に伝わっていない現状がある。そのため、「送料は出荷人様が負担しています」といった表示が望ましいとしつつも、現時点では出荷人の表示方法に対して同社から明確な要望を出す予定はないという。
 顧客からは、「送料無料とはどのような仕組みか」との問い合わせも寄せられており、同社はその都度、「送料は商品代に含まれているに過ぎず、特定の顧客に限って無償で集荷・配達しているわけではない」と説明している。

 運賃については、いわゆる「2024年問題」をはじめ、エネルギー費用や施設・車両費用、労働コストの上昇など、物流業界を取り巻く環境の変化を踏まえ、継続的な見直しを実施中である。運賃の見直しに際しては、顧客への丁寧な説明を行い、理解と協力を得ながら適正な収受を目指している。なお、運賃契約は顧客ごとの物量やサービス内容を踏まえた個別設計であり、一律の料金設定は行っていない。

 特に、個別集荷と大手EC企業の倉庫からの大量集荷とでは、1個あたりのコストが大きく異なるため、それに見合った運賃体系を構築している。「送料無料」という言葉に対しては、これまで深く意識することが少なかったという。
 個人宅への宅配需要は、EC市場の拡大に伴い増加傾向にある。この流れに対応するため、ネットワークの拡充を図り、委託事業者への依頼も増加している。とりわけ、セールなどの繁忙期には業務量が急増するため、季節ごとの変動にも対応可能な体制整備が求められている。

再配達対策とパートナー支援に注力

 協力会社との関係強化の一環として、年2回「適正取引促進会」を開催し、本社・支店・営業所が連携して協議を行い、パートナー企業からの意見を丁寧に吸い上げている。中小企業庁からの指導も踏まえ、協力会社が自ら声を上げにくいという構造的課題に配慮し、能動的な情報収集に努めている。

 また、「SAGAWAパートナープログラム」を通じて、車両・保険・システムといった宅配業務に必要なインフラを提供し、協力会社の負担軽減を図っている。可能な限りの支援体制を構築し、業界全体の健全な発展に貢献する姿勢である。
 一方、再配達問題への対応として、LINE連携や「スマートクラブ」への登録を促進しており、受取人の利便性向上と不在配達の低減に努めている。とくに、注文時の配達日時指定の徹底や宅配ボックスの活用が、不在率の改善に大きく寄与するとの認識を示している。

 このように、同社は「送料無料」表示の是非にとどまらず、EC市場の成長に伴う多面的な課題に対して、物流事業者としての責任を果たすべく、取引先や協力会社、消費者との連携のもと、よりよい流通環境の整備に取り組んでいる。

適正な運賃転嫁の課題と対応

 両社ともに、エネルギー価格や労働コストの上昇などを背景に、運賃の見直しを実施していると説明した。佐川急便は、荷物の集荷量や拠点の規模に応じて運賃設計を行っており、ヤマト運輸も個別契約に基づいて価格交渉を行っていると述べた。

 委託配送の拡大に伴い、両社とも下請事業者とのパートナーシップ強化にも注力している。佐川急便は「SAGAWAパートナープログラム」を通じて車両や保険、システムの提供を行い、負担軽減を図るとした。ヤマト運輸も、EC市場の成長に合わせて委託比率が上昇している現状を報告した。

 今回の意見交換会を通じて、「送料無料」表示に対する社会的な関心と、物流業界が直面する構造的な課題が改めて浮き彫りとなった。今後、消費者庁を中心に、関係者間の協議をさらに深めることで、表示の適正化と物流の持続可能性の両立が期待される。

【田代 宏】

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