機能性表示食品巡る訴訟、再審理へ 最高裁が原判決を破棄、開示履行か再上告か?
「機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業報告書」(平成27年度)を巡る情報開示請求訴訟において、最高裁判所は6日、東京高等裁判所へ審理を差し戻すとの判決を下した。
これについて、機能性表示食品制度を所管する消費者庁の新井ゆたか長官は12日に開いた定例の記者会見で、「関係省庁と連携して判決の内容を精査し、適切に対応していきたいと考えている」と話した。
定例会見での一問一答
──(記者)機能性表示食品制度について伺いたい。機能性表示食品の機能性関与成分に関する検証事業報告書の一部不開示を巡る裁判に関する最高裁の判決が先日出た。判決の内容は、一部不開示を認める原判決を破棄し、東京高裁に審理を差し戻すというもの。一部不開示に合理的な理由がないと判断したものだと思われるが、受け止めを聞きたい。
新井長官 今お話があったとおり、6月6日、最高裁判所から平成27年度(2015年度)機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業報告書に係る情報公開請求訴訟について判決の言い渡しがあり、2審の東京高裁判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるために東京高裁に差し戻す、という結果が出たことは承知している。消費者庁としては今後、関係省庁と連携して判決内容を精査し、適切に対応してきたいと考えている。
【解説】
ここに言う「関係省庁」というのが何に当たるのか。第1審・2審の判決を受けた際には、長官はいずれもの時にも「関係行政機関とも協議の上」とコメントしていただけに、記者の胸に引っかかった。
関係省庁とは誰を指すのか
情報公開制度に詳しく、全国調整機関として都道府県や自治体へのガイドライン作成や制度運用支援の役割を担う総務省や、行政事件訴訟法の解釈・運用に関わる助言や判決内容に基づく実務手続きの整備に関与する法務省などが考えられるが、消費者庁によれば「裁判手続きに関する調整を行う法務省が主に念頭に置かれているのだろう」と述べている。もっとも、この時に長官が総務省や他省を考えにいれていたかどうかは正直なところ、分からない。
その上で、事情をよく知る法曹関係者によれば、行政訴訟では検事や裁判官が法務省に出向し、制度的・実務的に国側の代理人としての役割を果たすことがあるという。もちろん今回の場合、今後も消費者庁が争う姿勢を示した場合はそのような連携はさらに深まることだろう。
過去の対応と今後の動向
消費者庁は1審・2審の判決を受け、いずれも「控訴せず」、「上告せず」の立場を貫いてきた。情報開示の対象とされているのは、10年前に実施された検証事業の報告書であり、「指摘された問題点は事後的に補正済み」であることが確認されているものだ。
他方、1審の判決後に新井長官は、次の検証事業からは、ただ単に評価結果を公にするのではなく、対象製品名や機能性関与成分などの評価結果を踏まえた届け出事業者の対応も含めて公にし、「機能性関与成分の分析方法の検証に関し、より透明性の高い運営を図る方向で検討していきたい」とも述べている。
高裁での再審理次第では、佐野真理子氏が再び上告するケースも考えられるが、検証結果のコメント部分を含む全面開示が認められれば、事後の検証報告書の開示請求においてはこれが有力な「判例」となる。
審理期間の見通し
今後のスケジュールはどうなるのか?「分からない」とする消費者庁だが、法曹関係者の一般的な見方によれば、一度書面を提出すると、相手がそれに返答するまで1カ月ほどの準備期間が与えられるのが普通。1回のやりとりで約3カ月かかる。実際には、相手が書面を用意する1カ月に加え、裁判所が日程を調整して、次の期日(審理日)が設定されるまでに時間がかかる。1往復(主張の提出と反論)で約3カ月、それを2回繰り返すと6カ月になる。さらにもう1回繰り返せば、7〜8カ月はかかる。
では、今回の差し戻し審ではどうなるのか?
最高裁が差し戻しを命じたため、高裁で再審理が行われるが、国(消費者庁)が再び争う姿勢を取るかどうかによって、要する時間は大きく変わるだろう。国が徹底抗戦すれば、少なくとも1年程度かかる可能性がある。一方で、もし国が争わず、主張を早期にまとめれば、短期間で決着する可能性もあるという。「(裁判を)延ばそうと思えば延ばせる」というのが専門家の見解だ。
消費者庁が争う場合、最高裁が示したポイント(「おそれ」の具体性、情報の秘密性、公益との比較衡量)に沿って、より詳細な証拠調査や審理が行われると予想される。被上告人(消費者庁)は、再審理の場で新たな事実や証拠「具体的な支障の証拠」を提出するのではないかと考えられる。
これに対して、上告人(佐野氏)側は、公益性や透明性に関する多数の専門家の意見書や内部資料を補充する可能性が高いのではないか。
制度全体への影響も
今回の審理は、これからの機能性表示食品制度全体に与える影響が小さくないと思われるため、他の事業者や市民団体が大きな関心を示す可能性もある――。最高裁での傍聴は「先着順」だったが、次は「抽選」もあり得る?
最後に、一連の訴訟を見守ってきたA事業者の見解を以下に紹介する。
「上告人(食の安全監視委員会の佐野真理子共同代表)は、まるで“劇場”を演出しているかのような振る舞いをしていますが、実際には社会にとって有益な役割を果たしているとは言い難い存在です。当時の消費者庁は、機能性表示食品に関して、個別の届出製品についての初期評価をまとめていました。その後、課長名で事業者に対して追加の照会を行い、それに対して事業者が順次回答する、というやり取りが行われていました。
「×」がついていた製品の多くは、例えばルテインのように「エステル体である」という基本的な性質に関する情報が未確認のまま照会されていたり、関与成分の由来の定義がまだ定まっていない中で、どのように成分を区別・定量するかの方法を検討中であったりと、制度整備の過渡期にあった情報です。
これらのやり取りは、あくまで事業者からの回答をもとに評価基準を形成していく「途中経過」にすぎず、本来であればその後「×」から「〇」に変更されていてもおかしくないものも多く、更新が行われていないため、今も誤解を招きやすい状態になっています。
これらの情報は「メモのようなもの」にすぎないと考えます。それにもかかわらず、上告人はその不完全なメモの公表を求めています。しかし、その内容は評価途中のものであり、適切な検証も終わっていないことから、誤認や混乱を引き起こす可能性が高く、かえって制度の本質的な改善を妨げてしまいます。さらに、機能性表示食品に対して厳しい立場を取る有識者の中にも、上告人側の指摘が科学的根拠に欠けていると懸念する声があります」
【田代 宏】
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