機能性検証報告書「非開示」処分破棄 【最高裁判決】市民団体側の主張認め審理差し戻し
行政文書の一部非開示をめぐる司法判断に転機
主文「原判決を破棄する。本件を東京高等裁判所に差し戻す」
国(消費者庁)を相手取り、佐野真理子氏(食の安全・監視市民委員会共同代表)が上告した「行政文書不開示処分取消等請求事件」の判決がきのう6日、最高裁判所・第三小法廷で言い渡された。
最高裁は裁判官全員一致の下、機能性表示食品の機能性関与成分に関する検証事業報告書に記録された情報が情報公開法の不開示情報に該当するとした東京高裁の判断に法令違反があるとして、さらに審理を尽くすよう差し戻した。
情報公開をめぐる争点~「検証報告書」の一部開示拒否
この裁判は、情報公開法に基づき、消費者庁長官が外部に委託した検証事業報告書の一部非開示処分の適法性が争われたものである。具体的には、情報公開法5条6号柱書きおよび同号イ該当性が争点となった。
東京高裁は、検証手法や分析結果を含む報告書の一部を開示すれば、①消費者庁の事後監視体制に影響を及ぼし、②検証機関による検討方針が推知されるおそれがあり、③事業者による不適切な回避行動を誘発する可能性があるとして、不開示情報該当性を肯定した。
最高裁の判断ポイント~3つの違法性を指摘
これに対し、最高裁は以下の3点に着目し、高裁判決には法的評価に誤りがあると認定した。。
1.「おそれ」の具体性と蓋然性
情報公開法5条6号イにいう「おそれ」は、単なる抽象的可能性では足りず、法的保護に値する程度の蓋然性が必要。最高裁は、原審が「事業者による回避行動の蓋然性」について、十分な認定を欠いたまま抽象的に判断した点を違法とした。
2.開示が及ぼす影響の実質判断
検証機関の手法や判断基準が、事業者にとって既知または推知可能な内容にとどまり、「通常知り得ない機密性の高い情報」であるとは言えないと指摘。したがって、「検証の適正な遂行に支障」が直ちに生ずるとは言いがたい。
3.公益との比較衡量の欠如
高裁判決が、「開示がもたらす支障」ばかりを評価し、「開示がもたらす公益性(透明性、制度改善等)」を十分に検討していない点、審理不十分とした。
一審から上告まで~訴訟の経緯
この裁判は2018年2月、食の安全・監視市民委員会の佐野真理子共同代表(上告人)が、消費者庁が外部機関に委託した調査報告書の一部開示を情報公開法に基づいて請求したのが始まり。しかし消費者庁は、報告書の一部を「公開できない」として非開示にしたため、上告人がこれを不服として訴えを起こしたところ、消費者庁は22年10月4日、東京地裁で一部開示を求められた。
それを不服とした上告人は東京高等裁判所へ控訴した。高裁は、「報告書をすべて開示すると、消費者庁の監視のやり方がバレてしまい、企業がそれを利用して検査を逃れる可能性がある」などとして、請求を棄却した。そこで24年11月20日、佐野氏は最高裁へ上告した。
非開示に合理性なし(最高裁)
今回、最高裁はこの原判決を破棄(取り消し)し、事件を高裁に差し戻した。最高裁の言い分は以下のとおり。
「報告書の内容が企業に知られても、必ずしも消費者庁の検査や監視が機能しなくなるとは限らない」
「検証方法や問題点に関する情報は、企業や専門家にとって一般的に知られ得る内容であり、特別に秘密性が高いとはいえない」
「情報を開示することで、他の企業がより正確な方法を用いるようになり、社会全体にとっての利益(公益)が大きい」
つまり、非開示にする合理的な根拠が十分ではなかったということである。
今回の最高裁判決は、行政の情報公開の意義と限界を問うものであると同時に、「検証の透明性と信頼性」を確保する上でも重要な意義を持つ。今後、差戻し審において、開示と非開示の線引きが再度検討されることとなる。判決文は以下に掲載する(⇒つづきは会員専用記事閲覧ページより)
【田代 宏】