健康への投資、産業構造改革の柱に 経産省が2040年ビジョンで方針明示
経済産業省はこのほど、「成長投資が導く2040年の産業構造」と題した第4次中間整理において、40年を展望した新たな産業構造の姿を提示し、その中で「健康」に対する取り組みを成長分野の1つとして位置付けた。特に、個人の健康寿命延伸を経済活力と結びつけ、医療や介護に依存しない自立した生活の持続可能性を重視する方針を打ち出している。
健康経営、健康寿命の延伸に伴う良質な雇用創出など、最先端技術を用いた取り組みを目指す。
健康寿命の延伸を経済活力に
具体的な目標として、40 年までに健康寿命75歳以上を実現、50年に公的保険外サービス77兆円、世界の医療機器市場のうち21兆円の獲得を実現し、世界の医薬品市場のうち25~30兆円の獲得の実現などを掲げている。
同レポートによれば、人生100年時代の到来により、単なる長寿ではなく「健康に生きること」の価値が一層高まるとされる。これにより、従来の医療・介護モデルからの転換が求められ、健康寿命の延伸と予防中心の社会作りが活力のある経済構造改革のカギと位置付けられる。
PHR活用による次世代ヘルスケア
注目されるのが、個人の健康や医療に関する情報を生涯にわたって一元的に管理・活用するための仕組み「PHR」の活用によるヘルスケア構想。個人の予防・健康作りに加え、医療現場や介護分野においても、PHR を活用しつつAI の先端技術活用も視野に入れることで、個々人の状態に合わせた、より質の高い介護予防サービスの提供や効率的な多職種連携の実現に資するサービスの開発・社会実装を促進できるという。
大阪・関西万博の機会を通じて、データを提供するPHR 事業者とサービスを創出するサービス事業者の連携を行う情報連携基盤を介し、PHR を活用したサービスの普及に取り組む。
改定内容の反映や、アカデミアと連携した学会指針の民間ガイドラインへの取り込みも進めている。
これらにより、健康サービスの開発が進み、新たな産業機会が創出されることに期待する。
健康経営が企業と社会を変える
また、働く人々の健康支援に関しても重点が置かれている。健康経営の実践を通じて、従業員の心身の健康を維持し、生産性向上と持続可能な企業経営を実現する取り組みが広がることが展望されている。
健康経営を通じた企業や社会による健康への投資促進に向けた取り組みとして、健康経営が資本市場や労働市場(機関投資家や求職者等)におけるさまざまなステークホルダーから評価される仕組み(情報開示促進等)を構築するとともに、健康経営実践企業が健康経営コンサルやメンタルヘルス、PHR、女性の健康などの健康経営支援サービスを選択できるようなプラットフォームの構築を目指す。同時に、日本の健康経営のエッセンスを取り入れた国際規格(ISO25554)の発行を契機に、健康経営の概念と顕彰制度の普及について検討を進めていく。
1人ひとりの従業員に寄り添い、健康経営の質の向上を目指す観点から、女性特有の健康課題に着目し、経済損失額を試算(年間3.4兆円)し、経営者に取り組みを促すため、取り組み好事例集を公表し、女性の健康に関する取り組みの効果検証プロジェクトも始動した。
女性の健康支援と雇用の質向上
良質な雇用の創出として、若者・女性の「可処分時間の増加」につながる働き方改革や規制改革を提案。地域に根差した中小企業が、多様な価値観を受け入れ、女性・若者のニーズを捉えた誰もが働きやすい企業経営を実現できるよう後押しする。
さらに、フェムテックを活用した実証事業の成果の普及を通じて、働く女性の健康課題に対応する企業を増やす。
経産省は、こうした「健康」への投資を、単なる福祉政策にとどまらず、経済成長戦略の中核として位置づける姿勢を鮮明にしている。今後は、官民の連携のもと、ヘルスケア産業の活性化とともに、デジタル技術と人間中心のケアの融合を進める政策が加速するとみられる。
【編集部】
発表資料はこちらから(経産省HPより)