物流問題と送料無料表示を再考(5) JADMA、バランスの取れた現場感覚と提言
2023年8月23日に開催された第6回「送料無料」表示見直しに関する意見交換会では、(公社)日本通信販売協会(JADMA)の副会長・梶原健司氏が登壇した。通販業界を代表するJADMAは、消費者と通販事業者の双方を見つめてきた立場から、送料無料表示の本質と課題について多面的な提言を行った。
まずJADMAは、「送料無料」表示を全面的に否定するものではないという立場を明確にした。その一方で、業界全体として物流問題に真剣に向き合い、配送業務を担う下請け配送事業者の地位向上を図ることは喫緊の課題であると述べた。そのためには、すべての小売事業者が一体となった取り組みが必要であり、大手プラットフォーマーも含めた影響力のある関係者の協力が不可欠であるとした。
「送料当社負担」などの表示を提案
梶原氏は、送料無料表示の是非は事業者の選択に委ねられるべきとしながらも、同表示を止めて物流コスト負担を表示する事業者に対して、名誉やインセンティブを与える奨励策の導入も一案であると提言。たとえば、「送料当社負担」といった表示に切り替えた企業を積極的に評価する制度の構築が、持続可能な物流を支える一助になるという考えを示した。
法規制導入時の公平な競争環境を訴え
さらに、仮に送料無料表示に対して法規制を導入する場合には、「送料弊社(社名)負担」などコスト負担の所在を明示する新たなルールが必要であり、すべての小売業者が対象となる公平な競争環境が不可欠であると訴えた。
この日の議論では、2017年に表面化した「宅配クライシス」以降、JADMAの会員企業のほとんどが配送各社からの度重なる値上げ要請に応じてきた実態も報告された。7月に実施されたアンケートでは、98%の会員が値上げ要請に応じたと回答しており、通販業界の責任ある対応が浮き彫りとなった。
表示見直しだけでなく構造的課題に注目を
また、JADMAの会員企業からは、送料無料表示そのものよりも、物流現場の負担がドライバーに適切に還元されているのかという構造的な課題にこそ注目すべきだとの声が寄せられている。「表示の問題よりも待遇改善の実効性を問うべき」という現場の実感が強くにじんでいた。
最後にJADMAは、「送料無料とはいえ、費用は販売側が負担していることを消費者も認識している」との立場を再確認し、表示の問題だけで物流全体の課題を解決できるという見方に疑問を呈した。表示を見直すことで、消費者の行動が変化することは期待されるが、根本的な課題は物流構造や業務環境にある――この現場感覚に根ざした指摘は、業界全体の姿勢として共有されるべき視点である。
「送料無料表示の見直し」は、単なる表現の問題にとどまらず、サプライチェーン全体のあり方を問い直すきっかけとなりつつある。次回からは、労働団体や消費者団体の声がさらに議論を深化させていく。
(つづく)
【田代 宏】
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