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農水省、令和6年度白書を閣議決定 持続可能な食料体制の現実と課題

 農林水産省は5月30日、「令和6年度 食料・農業・農村白書」を閣議決定し、公表した。同白書は、世界的な地政学リスクの高まりや、気候変動・高齢化といった構造的課題を背景に、「食料安全保障の強化」と「農村・地域の持続性の確保」を重点テーマとして掲げている。
 農林水産物・食品の輸出が初の1.5兆円を超えたのに対し、食料自給率は依然として低迷している現実に農水省が描く未来図と現実の乖離、輸出と食料安保の光と影が見え隠れしている。

総合食料自給率は38%と目標に遠く

 白書はまず、ロシアによるウクライナ侵攻や国際穀物市場の混乱、中国の輸出規制などを踏まえ、我が国の食料供給の脆弱性に警鐘を鳴らす。
 2023年度(令和5年度)の総合食料自給率(供給熱量ベース)は38%となり、前年度と同水準で推移した。政府が掲げる30年度までに45%とする目標には依然として遠く、食料安全保障の確保に向けた課題が浮き彫りとなった。

生産額ベースは1ポイント上昇の61%
 
 供給熱量ベースの自給率は、国民の生命維持に不可欠なエネルギー(カロリー)に着目した指標であり、消費者が自身の食生活に当てはめて把握しやすい特徴を持つ。
 23年度の38%という水準は、小麦の生産量増加や油脂類の消費量減少がプラス要因となった一方で、てんさい(甜菜)の糖度低下による製糖量の減少がマイナス要因となり、結果として前年と変わらぬ数値となった。

 生産額ベースの総合食料自給率は61%で、前年度より1ポイント上昇した。果実の生産量増加と価格上昇、牛肉の高値維持が主な押し上げ要因とされる。これは、金額面で国内生産が一定の存在感を維持していることを示すものである。

2030年にカロリーベース45%を目標に

 政府は新たな食料・農業・農村基本計画において、30年度を目標年次とし、供給熱量ベース45%、生産額ベース69%、摂取熱量ベース53%という水準を掲げている。特に「摂取熱量ベース」は、実際に国民が摂取した食料に基づく指標であり、食品ロスなどが考慮されている点で、実態により近い自給率として注目されている。

食料安保強化が急務、政策の実効性が問われる局面に

 白書では、地政学的リスクや気候変動の影響を踏まえ、我が国の食料供給の脆弱性を再認識し、国内農業の生産基盤強化を急務とする姿勢が明確に示された。戦略的作物の振興や耕作放棄地の再活用といった取り組みに加え、国民全体が食料の安定確保に向けて責任を共有する姿勢が求められている。
今後、自給率向上に向けた政策の進捗と成果が、持続可能な農業と国民生活の安定の鍵を握るものといえる。

輸出額ナンバーワンのホタテ貝、牛肉・緑茶も人気

 ホタテ貝は、2024年の輸出額が695億円(前年比0.9%増)に達し、輸出額ナンバーワンの主要な輸出品目となっている。また、ブリや鯛などの魚類も、アジア諸国を中心に需要が高まっており、輸出拡大が期待されている。
 和牛を中心とした牛肉の輸出は、24年に648億円(同12.1%増)を記録し、特に和牛人気の高まりから需要が増加している。品質の高さが評価されており、今後の輸出拡大が見込まれる。

 緑茶は、24年に約364億円(24.6%増)の輸出額を記録し、健康志向や日本食への関心の高まりが背景にある。また、米や果物(リンゴ、ブドウなど)も、高品質な日本産農産物として海外での評価が高く、輸出拡大が期待されています

 アルコール飲料(日本酒、ウイスキーなど)は、21年に1,000億円を超える輸出額を記録し、主要な輸出品目となっているが直近3年間では横ばい。海外市場に訴求⼒のある有機酒類による更なる輸出の拡⼤が期待されている。また、ソース混合調味料や菓子類も海外での日本食ブームに伴い需要が増加しており、輸出拡大が期待される。

コメ政策、「輸出成功」の陰に国内需給の歪み

 世の中を騒がせている令和の米騒動。白書では、コメの輸出拡大を農政の成果として大きく打ち出している。商業⽤のコメの輸出額は、⽇本⾷レストランやおにぎり店などの需要開拓により、近年増加傾向にあり、24年は、前年に⽐べ27.8%増加し120億3,000万円。パックご飯や⽶粉・⽶粉製品を含めた輸出額は、前年に⽐べ29.4%増加し135億7,000万円に至った。主⾷⽤⽶の国内需要が減少する中で、輸出拡⼤によって新たな需要を⽣み出していくことは、⾷料⾃給⼒の強化を図る上で重要としているものの、その一方で、国内では主食用米の不足や価格高騰が深刻化しており、政策と現実の乖離が浮き彫りとなっている。

列島を襲う深刻なコメ不足

 輸出用水稲の作付面積も増加傾向にあり、農水省は「需要に応じた生産体制の構築が進んでいる」と成果を強調しているが、実際には23年~24年にかけての猛暑や水不足、さらに自然災害の影響により、主食用米の収穫量は減少。これに加え、輸出用米への作付転換が進んだことで、国内市場への供給力が低下し、全国的に業務用・家庭用の米価格が急騰するなど、需給のひっ迫が顕在化している。24年冬~25年春にかけては「店頭からコメが消える」といった消費者の不安も生じている。

 白書では「食料安全保障」や「主食としてのコメの安定供給」についても言及はあるものの、構成上は輸出の成功例が前面に押し出されており、国内需給への危機認識が相対的に薄く見える。農水省は、国内の米消費量が長期的に減少傾向にあることを背景に、「輸出は成長分野」と位置付けているが、その「需要予測」の前提には不確かさも残る。

 今回の白書は、農政の外向き志向を象徴する内容だが、国内の主食安定供給という基本的課題が置き去りにされているとの批判は免れない。輸出と内需のバランスをどう取るか、需給調整の精緻化とともに、国民生活に直結するコメ政策の再構築が求められているのではないか。

【谷山 勝利】

「令和6年度食料・農業・農村白書」はこちら(農水省HPより)

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