健康食品の「新たな一歩」を考える 社福協・JIHFS共催セミナーに約90人
小林製薬「紅麹サプリ」健康被害問題から1年が経ったのを機に、(一財)医療経済研究・社会保険福祉協会(社福協)と(一社)日本健康食品規格協会(JIHFS)は29日午後、オンラインセミナーを開催、業界関係者ら約90人が参加した。
健康被害問題が健康食品業界に大きな影響を及ぼし、また、健康被害問題によって機能性表示食品制度なども大きく改正された中で、社福協とJIHFSはセミナータイトルに「いわゆる『健康食品』の新たな一歩」を掲げた。
セミナーの冒頭、ファシリテーターを務めたJIHFSの池田秀子理事長は、「(改正制度等に対して)前向きに取り組んでいこうとする業界のエネルギーが高まっているように感じる。(きょうのセミナーを)これから私たちはどのように取り組んでいくべきなのかを考える1つのきっかけにして欲しい」と語った。
講師を務めたのは、サプリメントなど健康食品の安全性を確保するためのGMP(適正製造規範)指針などを盛り込んだ略称「3.11通知」を所管する消費者庁食品衛生基準審査課の紀平哲也課長と、厚生労働省と連携して紅麹関連製品事案の原因物質究明に当たった国立医薬食品衛生研究所の伊藤美千穂生薬部長。
紀平氏は、いわゆる「健康食品」の成り立ちを説明しつつ、それに対するこれまでの行政対応を振り返りながら、今後の規制の在り方に話を及ばせた。紅麹関連製品事案に対応した政府の関係閣僚会合は昨年5月、同事案を踏まえた「更なる検討課題」として、「サプリメントに関する規制の在り方」を必要に応じて検討する方針を取りまとめている。
今後の規制の在り方について紀平氏は、「今の段階でお話できることはあまりない。これから考えていく」と述べるも、講演内容をふり返れば「何を検討すべきかが見えてくる」とし、想定される大きな2つの論点として、品質の確保と健康被害情報の収集・提供を挙げた。今後、食品衛生に関する監視・指導を担当する厚労省と連携して「議論していくことになると思う」。
一方、生薬学と薬用植物学を専門にする伊藤氏は、天然素材の品質確保をテーマに講演。その方法や考え方について、自身も携わった紅麹事案の原因物質を究明するための分析、解析をふり返りながら解説した。
原材料が天然素材であった紅麹事案では、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で機能性関与成分に関する分析が原材料について行われていた。ただ、健康被害が報告されたロットには、分析結果を示すHPLCチャート上に、機能性関与成分を検出したのではない小さなピークが現れていた。こうした小さなピークは、いわゆる「ゴミピーク」として無視される場合も多いが、紅麹事案の場合、その小さなピークこそが原因物質と推定されるプベルル酸だった。「ゴミピークで終わらせてしまうと、大変ことが起きてしまう場合もある」(伊藤氏)。
紅麹事案において、プベルル酸は含まれることが想定されていなかった成分だったが、そもそも天然素材には微量成分がいくつも含まれる。そうした成分の1つひとつを分析、管理することは非常に困難だと伊藤氏も認める。
だが、困難だとしても天然素材の品質を確保するためには、「いつも通り」であることを確認する工程を取り入れる必要があるという。クロマトグラフィーをよる客観的な分析を行える体制をすぐに整えることが難しい場合は、味、匂い、色、手触り、舌触りなど、人の五感を使った品質確認(官能検査)を行う手段もあるとした。天然物である生薬(漢方薬の原材料)の品質確認でも、その手法は有用だと考えられているという。
【石川太郎】
(冒頭の写真:オンライン開催されたセミナーの様子。写真左は消費者庁の紀平食品衛生基準審査課長、右はファシリテーターを務めたJIHFSの池田理事長)
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