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開示か否か、機能性食品情報開示訴訟 消費者庁VS市民委、最高裁決戦は6月6日判決へ

 25日、機能性表示食品「検証事業報告書」の一部不開示を巡り、その取り消しを求めて食の安全・監視市民委員会(佐野真理子・山浦康明共同代表)が上告した「行政文書不開示処分取消等請求事件」(令和6年(行ヒ)第94号)に関する弁論が最高裁判所の第三小法廷で開かれた。

 上告人で同委員会代表の佐野真理子氏と、上告人の代理人による陳述の後、消費者庁の指定代理人が反論し、報告書の不開示部分が情報公開法に基づく不開示情報に該当するかどうかを争った。上告人側の意見陳述は当初予告されていた「代理人」4分、「上告人」1分をはるかに上回る20分超に及んだ。裁判長は、判決の言い渡し期日を6月6日午後4時と指定した。

 当日、裁判所前には1時間前から列ができ、廷内に入ることが許されない関係者も出た。傍聴人は並んだ順に手荷物をロッカーに入れ、筆記用具を手に金属探知機のゲートを潜り裁判所へ入ると、エントランスで開廷時間を待った。
 しばらくすると裁判所の案内に従い廷内に入った。事務官の説明の後、裁判官が入場した。傍聴人は起立して一礼し、着席。法壇に向かって、左手に上告人の佐野真理子氏と代理人4人、右手に消費者庁の指定代理人ら5人が着席した。法壇では4人の裁判官が裁判長を中央に挟むかたちで着席した。
 記者は上告人側の最前列に着席。被上告人側の最前列には、消費者庁の関係者とおぼしき7人が背筋を伸ばして陣取った。

情報公開法の趣旨に立脚し「厳格な解釈」を要求(上告人)

 上告人側はまず代理人の中下弁護士が、続いて佐野真理子氏が陳述した。情報公開法の趣旨に基づき、不開示情報の該当性は厳格に解釈されるべきであり、単なる可能性ではなく「法的保護に値する蓋然性」が必要と主張。
 検証事業は行政処分の前提としてあるのではなく、適切な事後監視のための資料に過ぎないとし、不利益処分に直結する情報は含まれていないため「開示が妥当」と主張した。
 また、検証結果の内容は、分析方法の記載不備などの技術的な指摘にとどまっており、消費者の健康被害防止や自主的・合理的な選択を促進するためにも「全面公開が不可欠である」と訴えた。
 要するに、消費者庁は本来厳格に解釈すべき「不開示要件」を緩く扱っていること、検証報告書の内容を過大に評価し過ぎていること、公益性を十分に考慮していないこと、これらは法の趣旨に反しており、同庁の姿勢は誤っていると繰り返し指摘した。

検証の中立性や監視機能の維持を重視(被上告人)

 他方、消費者庁側は不開示部分を開示すると、検証機関の着眼点や消費者庁の監視方法が推知され、事業者が対策を講じる恐れがあると主張。これにより、検証の中立性が損なわれ、自己監視や行政指導・行政処分の実効性が低下する可能性があると、これまでの主張を繰り返した。
 機能性関与成分の分析方法や買い上げ調査の結果は、今後の監視活動の基準に関わるため、開示は慎重であるべきだとした。

情報公開の意義と行政透明性の確保をめぐる対立

 上告人側は、機能性表示食品制度における国の事前チェック機能の欠如に言及し、消費者の健康リスク防止のために、検証結果の情報開示が不可欠であると強調。特に、小林製薬の紅麹問題のような重大事故を未然に防ぐ観点からも、透明性と説明責任が重要だと主張した。
 これに対し消費者庁側は、制度の適正運用や事業者の監視強化を理由として、不開示の適法性を改めて主張した。

 両者が陳述を終えると、裁判長は判決の言い渡し期日を6月6日金曜日の午後4時とし、閉廷した。機能性表示食品を巡る情報公開のあり方、ひいては消費者保護と行政監視のバランスを巡る最高裁の判断に注目したい。

 当日行われた上告人およびその代理人、被上告人それぞれの弁論の概要はこちらに掲載(⇒つづきは会員専用記事閲覧ページへ)

●中下代理人の主張
1.消費者庁は情報公開訴訟における判断基準を誤っている
消費者庁は、情報公開訴訟ではインカメラ審理(裁判官だけが秘密に文書を読む手続き)がないため、「文書の類型的特性」だけで一般的・抽象的に判断してよいと主張したが、これに対して中下代理人は、「実質的な支障」と「法的保護に値する程度の蓋然性」 が要求されるという厳格な基準を、たとえインカメラがなくても崩してはならないと主張。この点で、消費者庁は法の趣旨を歪める危険な解釈をしていると批判。
2.消費者庁(および原審判決)は、不開示対象の中身を具体的に認定せず、「監視方法が推測される」、「検証機関への働きかけが生じるおそれがある」と一般的に述べただけ。それに対して中下代理人は、「具体的にどのような情報が記載されているかを認定しなければならない」、「単なる推測や抽象的危惧では足りない」 と指摘。具体的事実認定を欠いた原審・消費者庁の判断は誤りとした。
3.消費者行政においては「行政の透明性」や「説明責任」を果たすことが極めて重要。仮に監視手法が多少推測されるリスクがあったとしても、消費者の安全確保・知る権利という公益性がそれを上回る。
4.食品表示法に基づく行政命令(違反に対する行政処分)は、平成27年度から29年度上半期まで「ゼロ件」だった。開示したところで、実際には行政処分が多発するような深刻な支障は生じないだろう。消費者庁の「支障が生じる恐れ」という主張は実態に反していると主張。

●佐野真理子氏の主張
1.機能性表示食品による健康被害を未然に防止し、消費者が自主的かつ合理的に選択できるようにするため、報告書の全面公開が最低限必要と主張。
2.機能性表示食品制度は、事業者が科学的根拠に基づき表示することを前提に、届け出資料を公開する制度。消費者庁のホームページに資料が公開されることが制度の前提であり、透明性が不可欠。
3.分析方法の不備により機能性関与成分が検証できない例があった。買い上げ調査では、成分の含有量が表示値より多い・少ない、供述内容が異なるなどの景品表示法違反の疑いも判明。
4.問題が明らかになっても、消費者に問題点を周知せず、商品の回収も行わなかった。消費者庁は「コミュニケーション重視」、「消費者目線」を掲げているが、情報非公開はその行動指針に反すると批判。
5.情報非公開は事業者の利益を優先し、消費者の権利を軽視するもの。小林製薬事件のような健康被害を防ぐためにも、消費者への情報提供が不可欠。
6.機能性表示食品制度の見直しは進められているが、情報公開の強化は含まれていない。
「検査対象の拡充」だけで済ませ、結果の公表規定がないことを問題視。今後は、消費者庁が知り得た情報はすべて国民に公開すべき。

●消費者庁(被上告人)の主張
1.機能性表示食品に関する検証事業報告書(平成27年度分)の不開示部分は情報公開法第5条6号の不開示情報に該当する。消費者庁の不開示決定は合法であり、原判決(不開示適法とした判断)は正当。
2.不開示情報に該当するかの判断は、対象事務・事業の具体的な性質や内容を踏まえ、公開によって中立性や公平性が損なわれるか違法・不当な行為が助長される恐れがあるかという観点から、客観的に判断すべき。
3.検証事業報告書の前半部分(1~19ページ)
届け出資料に記載された分析方法が第三者によって再現可能かを検証。この情報が開示されると、消費者庁の監視重点や検証機関が重視する問題点 が推測され、事業者が不正に対策を講じる恐れがある。
4.検証事業報告書の後半部分(20~92ページ)
買い上げ調査による成分量検証結果とその考察。開示により、成分量と表示値との差異、数値のばらつきが明らかになれば、事業者が指導・処分基準を逆算し対策を取る可能性がある。
5.機能性関与成分の具体的数値情報が開示されると、不利益処分の判断基準を逆算される
消費者庁や検証機関による適切な事後監視が困難になるため、不利益が生じる。
6.不開示部分の情報は、いずれも法第5条6号に該当するため、原判決(不開示適法とした判断)は妥当であり、上告は棄却されるべき。

【田代 宏】

当日の配布資料はこちらからダウンロード(最高裁判所開廷期日情報より)

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