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腸内環境に合ったヘルスケアを普通に 25年の研究成果を社会に実装する、メタジェン・福田社長に聞く

 近年の研究から、腸内環境が健康維持や病気の発症、心身の状態に密接に関わっていることが次々と明らかになってきており、腸内環境へのアプローチに期待が寄せられている。1人ひとりが自身の腸内環境を知り、腸内環境から自分自身の状態を適切にコントロールすることができる次世代のヘルスケアを社会の当たり前にしていく必要があると㈱メタジェン(山形県鶴岡市)は考える。日々アップデートされる科学的な知見をシームレスに事業へと繋ぎ、数多くのパートナー企業と共に、腸内環境から健康をデザインするアプローチを継続的に社会に届ける。(取材日:2月21日)

――現在もアカデミアの科学者として活動されておりますが、起業の経緯についてご説明ください。

福田 私自身は、現在も慶應義塾大学先端生命科学研究所(以降、「慶大先端生命研」)の特任教授として、腸内環境研究のラボを山形県鶴岡市に持ちながらメタジェンの事業も推進しております。私は農学部でしたので、「農学は実学だ」と恩師から教わり、研究から分かったことを社会に還元してこその学問であるということが頭にありました。腸内環境研究を25年やってきましたが、良い研究結果を見出し、これを社会に広めるとしても、アカデミアとしてできることは科学誌に論文を発表することや学会で発表するなど、アカデミアのコミュニティ内で話をすることに留まってしまいます。しかし、論文を発表したからといって、それが自動的に社会に広まって実用化されるものではないという現状があります。たとえ権威のある科学雑誌に論文が掲載されたとしても社会は簡単には変わらない。それならば、研究成果を自分で社会に実装するところまでやらなければならないという覚悟で起業しました。

――2015年に設立され、今年で10周年ということですが。

福田 今年の3月18日で、設立10周年です。私は以前、理化学研究所に所属しており腸内環境と免疫に関する研究などを行っていて、その研究成果が世界的に権威のある科学誌「nature」に掲載されるなど、アカデミアとして着々と研究成果を積み重ねてきました。そのような中、慶大先端生命研のことを知りました。当時、慶大先端生命研がある山形県鶴岡市の「鶴岡サイエンスパーク」内ではベンチャーがいくつか起業し始めた時期で、当時の慶大先端生命研の所長である冨田氏が、パッションがあってビジョンを持ち、社会課題を解決するために実装したいものがある人たちがベンチャーを起こしやすい風土がすでにでき始めていたことが、私が鶴岡に行くことにした決め手です。ここ鶴岡であれば、腸内環境の研究も進めながらベンチャーを立ち上げられると思い2012年に鶴岡に移住しました。

 その後、メタボローム解析施設が充実している慶大先端生命研で腸内細菌叢由来の代謝物質の機能解明に関する研究を進めながら、その間いろいろな出会いもあり、15年にメタジェン社を仲間と共に設立しました。
 会社のミッション・ビジョンにもある「個々人の腸内環境に合わせたアプローチで病気ゼロを目指す」というのは、設立当時から社会実装しようとしてきたことですが、10年経った今でもまだ遠い道のりなので、自分たちがやりたいことを事業として形にするには、本当に時間がかかるものだなとつくづく感じているところです。

――1人ひとりの腸内フローラに注目する理由は。

福田 みなさんも腸内フローラという言葉をよく耳にするようになったかと思いますが、これは腸内細菌の群集のことで、実は、この腸内フローラを構成する腸内細菌の種類やバランスは、人によって違います。1人あたり約40兆個、種類にしておよそ1,000種類の腸内細菌がいると見積もられており、1人ひとりが持つ腸内細菌の種類やバランスは、長期的な食習慣や生活習慣の影響を受けて個人固有なものになります。腸内フローラの違いに応じて薬や食べ物の効果も異なるということが科学的に分かってきました。同じ食で全ての人が同じ効果を得られないならば、腸内フローラの特徴に応じて対応できる商品やサービスが必要であり、そこまでを社会実装することで、100人いたら100人全員が健康になる社会が実現できると考えています。

――まずは自分の腸内環境を知ることが重要ですね。

福田 私たちのような業界の関係者は自分の腸内環境を調べたことがある人が多いと 思います。しかし、腸内環境を知るという価値が一般の生活者レベルまで浸透していくことが、病気ゼロ社会を実現するには何よりも重要だと思っています。腸内環境の分析・解析のテクノロジーの発展により、ここ15〜20年で腸内細菌が有するさまざまな機能のメカニズムが分子レベルで明らかになってきました。実は新しい研究分野なんです。そのため、まだまだ分からないこともあり、われわれも含めて世界中の腸内環境研究者が日夜努力を続けているところです。

 自分の腸内フローラの情報は、健康な時の状態から病気になってしまうと変わってしまいます。そして変わってしまった後だと、自分が健康だった時の腸内フローラの情報はもう失われてしまっています。また、それを健康な他人と比較してもほぼ意味がありません。
 つまり、健康だった時の自分の腸内フローラのデータを持っておくことがとても重要なのです。近年の研究で、食事に限らず、薬の効果についても腸内フローラの違いに紐づくということが分かってきました。例えばがんの治療薬である免疫チェックポイント阻害剤の効き目が、腸内フローラのパターンに依存しており、しかもよく効く人の腸内フローラを移植することで、その治療効果が高まることも報告されています。
 あくまでもこれは一例ですが、将来、こういったことがますます分かってくるはずです。腸内環境研究分野の進展は日進月歩なので、健康な時の自分の腸内フローラを検査しておくことで、その情報が20〜30年後に有効に活用できる可能性は十分にあると考えています。
 例えば、残念ながら病気になってしまったとしても、健康な時の自分の腸内フローラを移植して体調が良かった時の状態に戻すことや、腸内フローラのタイプに合わせて薬が処方されるような時代が必ずやってくると考えていす。

――健康な時に検査となると、なかなか一般生活者にとってはハードルが高いのでないですか

福田 そうですね。20〜30年後にその価値が分かるので、今、〇万円払って分析して下さいと言っても、なかなかやる人はいないと思います。ですが、すでに科学で明らかになっているエビデンスを活用し、個々人の腸内環境に個別最適な食を提供する商品・サービスを創ることはできます。私たちは「腸内環境に基づく層別化ヘルスケア」と位置づけており、腸内フローラ検査とその結果に応じた自分に最適な食選択を繋げるサービスを監修してきました。1つは、カルビーさんとの共同開発で当社が監修した「Body Granola」という腸内フローラを調べてそれに適したトッピングを合わせたシリアルを食べるという仕組み。もう1つは、明治さんへの開発支援で当社が監修を行った「Inner Garden」という腸内細菌のタイプに合わせたドリンクです。

 私たちの最終的な狙いは、「病気をゼロにする」ということ。病気をなくすためには、健康な人が健康でいられる状態をつくり続けなければならない。なおかつ、仮に病気になってしまったとしても、早期で発見し手遅れにならないよう上手に治療するということが重要になってきます。
 そのために、健康な時の自分の腸内フローラの情報を多くの人が持つ社会ができれば、将来、仮に病気になってしまったとしても助けることができる可能性は高まると思いますし、自身が腸内フローラに合わせた生活習慣、食習慣を行えば、そもそも病気になりにくい状態を作ることができると考えています。
 会社設立から10年が経過し、ようやく種をまいたという状況ですので、これからの10年でその種をさらに大きく育てていく状況を作らなければなりません。

――腸活や腸内環境という言葉をよく見聞きするようになりました。研究者や企業によってさまざまなアプローチの仕方があると思いますが、御社のアプローチは短鎖脂肪酸に着目したものとお聞きしました。

福田 私たちというよりも、世界的にそうです。私自身は学生時代から25年間腸内環境の研究をしてきて、科学者の間では短鎖脂肪酸の重要性は以前から知られていました。
 腸内細菌がどのように体に良い影響をもたらしているのかというメカニズムとして、この短鎖脂肪酸が非常に大きな役割を占めているということが分かってきています。一方、健康な人の腸内で短鎖脂肪酸が増えることによる悪い効果はほぼありません。短鎖脂肪酸は腸内細菌が人間と共生するための重要なファクターだと私は捉えています。

 腸活ブームが続いており関心を持つ人は増えていますが、腸内細菌がお腹の中で何をしてくれた結果良い影響があるのか?腸活で目指すべき方向はどこなのか?については、多くの人がまだ理解しているとは言えない現状があります。これからは、短鎖脂肪酸を指標にして腸内環境にアプローチしていくことの重要性をより広く伝え、社会に普及し、1歩前に進んだ腸活として生活者に届けていく仕組みが必要だと考えています。
 短鎖脂肪酸の必要性を理解する、その短鎖脂肪酸を増やすにはどうすれば良いのかを知る、そして自分のお腹の中で短鎖脂肪酸の産生を促すことを実践する、といった流れができるように、まずは丁寧に伝えていく必要があると考えています。

短鎖脂肪酸を普及させるプロジェクトが進行

――その一環が短鎖脂肪酸を普及させるための取り組みということですね。御社だけでも難しいでしょうし、一企業だけでも難しいと思います。

福田 短鎖脂肪酸を普及させるためには誰かがやらなければならない。最新の科学では、すでに短鎖脂肪酸の重要性は明らかにされているにもかかわらず、社会にはまだまだ届いていない。届けるためには何が必要かと考えた時に、生活者の身近にある商品を展開する事業者の皆さんとその価値を共有し、生活者に届けていくことが必要であると考えています。その普及活動の1つが、一般社団法人として設立した短鎖脂肪酸普及協会です。
 正しく広めるには、まず前提として科学的なエビデンスが必要になりますし、そこから科学を正しく翻訳して商品に反映していくことが必要になります。これまで少し曖昧だった腸活の指標が短鎖脂肪酸というキーワードで明確になってくれば、メーカーの皆さんもそこに対する商品を作りやすくなると考えていますし、結果としてみんなが健康になる社会を作ることができると考えています。

 社会の新しい常識をつくっていくことは想像以上に大変です。とは言え、時間がかかるからと何もしないわけにもいかない。むしろ加速させなければならないという思いがあります。最先端の研究を推進しながらそれを社会に実装していく、サイエンスとビジネスをブリッジすることが私たちメタジェンの存在意義だと思い活動しています。

――ありがとうございました。

【聞き手・文:藤田勇一】

COMPANY INFORMATION
所在地:山形県鶴岡市覚岸寺字水上246番地2(本社)
TEL:0235-64-0330
URL:https://metagen.co.jp/
事業内容:研究開発支援事業、層別化ヘルスケア事業など

(文中の写真:同社提供)

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