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健康食品の現在地と未来図(後) 最大のリスクは「分かりにくさ」~制度統合と消費者目線への回帰

制度の複雑さが消費者の理解を妨げる中、健康食品の「分かりにくさ」こそが最大の課題である――山東昭子氏と唐木英明氏の対談は最終回を迎え、現行制度の矛盾や混乱を鋭く指摘する。紅麹問題を契機に高まった不信感、トクホや機能性表示食品をはじめとする複数制度の乱立、さらにドクターや行政の曖昧な対応が、利用者の不安を助長している。対談では、消費者目線の制度整理、法整備、品質管理の徹底など、持続可能な健康長寿社会に向けた「原点回帰」の必要性が語られる。分かりやすく、選びやすく、安全で信頼できる健康食品を取り巻く環境整備に向けて、政治と科学が手を携える未来図が期待される。

「正しい利用法」の誤解が招く過剰な不安感

山東 (「健康食品の正しい利用法」について)これは初めて見ました。なんかね、紅麹の問題があるとますます変に規制してしまいますね。

唐木 紅麹問題は小林製薬が青カビの混入を許したという製造工程の失敗であって、健康食品だから起こったわけではなくて、どんな食品でも起こり得る失敗なのです。ああいうことをやられるとちょっと困ってしまいます。

山東 本当にねえ。これは何か改めて考える必要がありますね。

唐木 そうなんです。このタイトルが「健康食品の正しい利用法」と書いてあるのですが、利用法ではなくて、「使ってはいけない」ということになっています。

山東 いろいろなものがある中で、特定保健用食品(トクホ)だとか、ある意味ではきちんと分類されているので、基本的に安心していましたけど、反面、あまりにもこれは強烈に書いてありますものね。

唐木 パンフレットのここ(4P)ですが、健康食品にはトクホがあり、機能性表示食品があり、栄養機能食品があり、その上にいわゆる健康食品がある。こんな複雑なシステムは日本だけなんですね。
 アメリカもヨーロッパも健康食品は1種類だけなのです。4種類もある健康食品の違いを消費者にちゃんと理解してくださいと言ってもとても無理でしょう。この辺も整理統合して、消費者に分かりやすい仕組みを作らなくちゃいけないだろうと私は思います。

健康食品の選びやすさを政治の力で

山東 トクホの許可を取るためには、ものすごいお金がかかりますからね。だから大企業しか取れないそうです。

唐木 そうですね。だからトクホの申請数はどんどん下がって、機能性表示食品の数がどんどん上がっていく。それならばうまく統合して一本化したらどうかと考えているのですが、なかなかそれもできないみたいです。これもぜひ山東先生に考えていただかなくてはいけないかなと思っているところです。現在の制度は消費者にはよく分からない。消費者に分からないというのは決定的な欠点だというふうに私は思います。

山東 あくまでも使用者というか、消費者サイドで見ないといけませんね。

唐木 安全で効果があるだけでなく、消費者目線で分かりやすい健康食品にしないといけないだろうということですね。

山東 まさにそうです。それがちょっと忘れられていますね。

複雑化した制度の整理と一本化の必要性

唐木 4種類の健康食品ができた経緯を見ると、屋上屋を架すかのように、最初にトクホができて、次に栄養機能食品ができて、その後、機能性表示食品制度ができたということで、制度を積み上げていって整理をしなかった。だから消費者にはわけの分からないシステムになっちゃったというところなんですね。そろそろこの時点で見直してどうするのかを考えた方がいい。紅麹事件はその良い機会を提供してくれた。この問題は消費者目線で解決してほしいですね。

山東 「使っていても、良い実感がないときは・・・」とありますが、これまたあれですよね。それこそ薬と違うわけだから、それはすぐに何かの効果が現れるわけじゃないですわね。

唐木 健康食品を使っている消費者は、効果の実感があるからリピーターになっているわけですよね。

山東 そう、それはそうですね。けれども、具体的に風邪がパッと治るというわけではないからこう書かれても困りますね。医薬品じゃないから治るとか、その効果をパッケージなどに書いてもいけない。
 だからさっきお話ししたように、ドクターもこちらの方を飲んでみてはどうですかみたいなアドバイスがあれば安心できますよね。

唐木 ドクターも、医師会がどう言ってるのかとか、厚労省がどう言っているのかを気にしているので、みんな様子見でぐるぐる回っちゃっているのですね。

山東 そうなんですね。

長寿社会を支えるために政治が果たす役割「原点回帰」へ

唐木 ですからどこかで決断をして、日本では健康食品をどういうふうに規定して、どのように利用するのかを考える時期に来ていますね。

山東 そうですね。この問題には関心のある人がいっぱいいますから、みんなで考えた方がいいですね。

唐木 その時には消費者に優しい方法をぜひ考えていただきたいと思います。

山東 これはぜひ必要ですね。

唐木 先生にそう言っていただけると大変心強く思っています。健康長寿国日本が持続するためにもぜひ。

山東 私はボケないというようなサプリを飲んだり、いろんなものを試してみてずっと飲んでいるものもあります。やはりみんなが健康食品というのは副作用がないということが一番安心できますね。そういう点では、基本的なことが分かっていれば安心して飲むことができます。
 もちろん食生活というのが一番基本ですけれども、それと同時に、栄養補助として健康の応援団として、健康食品というものが必要だと思っています。
 また、エビデンス、エビデンスということになっていくわけですけれども、エビデンスはそれこそ目に見えないものもありますし、体で感じているというようなこと、こうだったからああだったと、1+1は2しかないということじゃなくて、やはりその人の体調に合ったものを選んでいくということ、それはいろんなものを試していくことにもつながるのではないかと思います。
 そういう点では、私どもの業界に入っていただいて、できるだけいろいろと専門家の方の意見を聞くことも必要だなと思うし、何か問題があればすぐさま襟を正してもらうというようなことが必要だと思いますね。やっぱり日本人が作ったものというのは安心できるということに誇りを持っています。

唐木 先生がおっしゃるように、日本の製品の品質管理というのは素晴らしいんですよね。どの製品もムラなく、高い品質だというところが評価されているのだろうと思います。それは健康食品も同じだけれど、それに味噌を付けちゃったのが小林製薬の紅麹サプリであり、残念なことですね。

山東 もう一度ここで原点に帰って、本当にきちんとした品質管理を工場の中でやってもらって、いいものを作って、そして多くの人たちに伝えて、試していただき、それでより良い日本を作るということですね。長寿国日本というものは、その食文化・食生活とともに、上手な健康食品の選び方ということだと思います。
 そのために、唐木先生がおっしゃったように、消費者から見て分かりやすい、選びやすい、そういう環境を整えるために、私たち政治に携わる者がお手伝いしていかなきゃいけないということを感じています。唐木先生にはこれからも、いろいろご協力をお願い申し上げます。

唐木 ありがとうございます。ぜひよろしくお願いいたします。

(了)
【文・構成:田代 宏】

<プロフィール>
山東昭子参議院議員(自由民主党)
1942年生。文化学院文学部卒、11歳で芸能界入り。女優・司会者として映画・テレビ等で活躍。1974年、当時の田中角栄首相に請われ参議院議員選挙(全国区)に自民党より出馬、32歳の最年少で初当選。以降、参議院史上最多の8期を務める。長年にわたり国民の健康や食に関わる政策に携わり、「食育基本法」、「健康増進法(受動喫煙防止法)」、「食品ロス削減法」などを制定。また、教育・福祉・環境・観光・住宅対策・科学技術・外交関係をはじめ幅広い政策課題にも取り組む。
1990年、国内6人目の女性大臣として科学技術庁長官に就任。2007年から女性初の参議院副議長。2019年に第32代参議院議長に就任。現在、自民党食育調査会会長、栄養士議員連盟会長、ウェルビーイング議員連盟会長などを兼務。

唐木英明東京大学名誉教授(食の信頼向上をめざす会代表)
1941年生。農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、(公財)食の安全・安心財団理事長、倉敷芸術科学大学学長などを歴任。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。これまでに瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。
「食品安全ハンドブック」丸善2009、「検証BSE問題の真実」さきたま出版会2018、「鉄鋼と電子の塔(共著)」森北出版2020、「健康食品入門」日本食糧新聞社2023、「フェイクを見抜く(共著)」ウェッジ2024など著書多数。

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