THC規制に直面するCBD事業者 その中で描く成長戦略、ワンインチ・柴田社長に聞く
昨年12月に一部施行された改正大麻取締法等。大麻草に由来するカンナビジオール(CBD)を配合したサプリ等に対する規制基準を明確にした規定も含まれる同法は、国内CBD事業者の事業拡大を後押しすることになるのか否か。原材料の輸入販売から、製品開発コンサルティングまで手がける国内CBD事業者で、大麻取締法改正を求めるロビー活動を5年にわたり行った㈱ワンインチの柴田耕佑社長(=写真)に聞いた。(取材日:2025年2月14日)
法改正、期待と現実
──テトラヒドロカンナビノール(THC)の残留限度値を法的に明確にして欲しいというCBD事業者の要望が実際にかないました。どう受け止めていますか。
柴田 法改正の大義名分は、大麻草から製造される医薬品の施用を日本国内でも可能にすることと、産業利用も視野に入れた日本伝統的な「麻」の栽培推進、つまり大麻草の栽培に関する規制を見直すことの2つです。その裏側に、国内のCBD市場を広げていく目的があったと考えています。
法改正で、従来の部位規制が成分規制に移行され、規制対象はTHCであること、そしてCBDは規制されないこと、つまり違法ではないということが明確になりました。3月1日以降は、免許が必要などの条件付きですが、国内で栽培した大麻草からCBDを抽出するなどの加工も可能になります。こうした前向きな法改正を、大麻草を厳しく規制し続けてきた厚生労働省が行ったことは、議連(CBDの活用を考える議員連盟)の先生方のおかげですし、法改正を進めた厚労省監視指導・麻薬対策課の理解とリーダーシップもあったと思っています。
──ただ、THCについて新たに規定されたルールを見ると、CBD事業者にとって「バラ色」とは必ずしも言えない気がします。期待どおりでしたか?
柴田 いえ、そうは言えません。法改正で一歩前進できると思っていたのですが、ほど遠い状態だというのが私の肌感覚です。私が法改正に期待していたのは、銀行が海外のCBD事業者との取引を疑問視しないようになることだったり、大手企業がもっと参入してくることだったり。ですが、銀行にせよ、大手企業にせよ、そういう動きになっていない。法改正前とほとんど変わっていません。銀行が、海外送金を認めてくれないことは今でもあります。CBDは「グレー」だと未だに考えているのでしょう。大手企業も、ワンインチは以前から大手企業と共同でR&D(製品開発)を進めていたのですが、法改正を受けて「よし、行くぞ」というふうにはなっていない。
大手企業も法改正に期待していました。しかし法改正後の現実は、製品開発を手控えたり、いったん止めてしまったり。しばらく様子を見ましょう、ということです。これはおそらくTHCの10ppmルール(新たに導入された大麻草由来CBD製品中THC残留限度値。10ppmは油脂と粉末に適用。水溶液は0.1ppm、その他は1ppm)が影響しています。非常に厳しいルールだと受け止められた。例えるなら、制限速度40キロが妥当だと思われる道を、5キロで走れと命じられたようなイメージ。肩透かしを食ったと受け止めているかもしれません。
それに、小林製薬の件(紅麹サプリ健康被害問題)も多分に影響していると思います。製品中THCが残留限度値を超えていたなどの問題が万が一生じた時のコンプライアンス上、ガバナンス上のリスクが非常に重く見られている。実際問題として、10ppmをごくわずか上回っていた場合はどうなるのか、制限速度の場合は暗黙の了解というのがあるわけですが、そういったところがまだはっきりしていません。現状のままだと、おそらく大手企業は動かない。動くには、問題が何も起こらない確率が120%であるという前提が必要になると思います。
10ppmルール、対応可能か
──ご自身のTHC残留限度値に対する受け止めは?
柴田 多くの人が悲観的に受け止めていますし、私自身も、厳し過ぎるだろうという気持ちはあります。ただ、ルールができたこと自体に意義がある。これまでそれがなかったことが問題だったんです。ですから、ルールができたことを歓迎すべきですし、ここからはセーフ、ここからはアウトという線引きが明確にされたこと自体は、皆がもっとポジティブに受け止めるべきだと思います。
──ルールに、ワンインチとしてどう対応していきますか? そもそも、対応できますか?
柴田 法改正以前から取り組んでいることなのですが、まずは生産国の第三者分析機関でTHC含量を分析し、限度値以下であることを確認する。それを国内に受け入れた後、ランダムにサンプリングし、同じ分析機関に送って改めて分析する。そして、それぞれの分析結果が合致するかを確かめる。合致した場合は流通させ、最終製品に加工する。その上で、最終製品としてもTHCを分析する。その際、加速度試験などの安定性試験を行う前のもの、行った後のものをそれぞれ分析し、安定性試験を行った後のものでも限度値以下であることを確かめる。
海外から輸入するのであれば、日本のTHC基準に則したCBDを確実に製造してくれるメーカーを現地で見つけ出すことが前提になりますが、このように複数回にわたる分析を行うことで、国内への受け入れから最終製品を出荷するまでの各段階で、THC残量が合法の範囲内であることのエビデンスを取れます。分析コストはかかりますが、海外の分析機関に委託すれば、国内で分析するのに比べてコストをかなり抑えられます。私としてはこうした一連の分析を、CBD業界の統一ルールにしたい。そうすることで、この業界と市場は健全に成長、発展していけると考えています。
公正競争規約と機能性表示
──統一ルールというと?
柴田 業界自主ルールです。日本のCBD業界と市場を健全に成長、発展させていくことこそがワンインチの存在意義であるし使命だと思っているのですが、そのためには、大手企業の市場進出が欠かせないと考えています。それを実現するために、まずは参入障壁といえる大麻に関する法律の改正が必要だと思い、行動しました。その上で、この市場を健全に拡大させるためのブレイクスルーとなるのは、最終的には、公正競争規約と機能性表示食品になるだろうと考えています。
公正競争規約には、先ほど申し上げたような流れでTHCの分析を行うことを含めたCBD製品の製造や品質に関する管理の在り方だとか、景品表示法や医薬品医療機器等法などに抵触しない広告宣伝などの基準を盛り込む。また、あくまでも法令を基準にしたTHC含量上限値に関する実効的な業界自主ルールも定める。それらを事業者は遵守する。その上で、それが食品であるなら、安全性や有効性などを確認して機能性表示食品として消費者庁へ届け出て、販売していく。公正マークと機能性表示は、合法で適正なCBD製品の証となるはずです。こうした方向にこの業界を促していくためにも、CBDに特化した大きな団体が必要です。
──ご自身が立ち上げた会社よりも、業界全体のことを考えている印象を受けます。
柴田 そうすることで、おのずと自分の会社も伸びていくはずなんです。自分だけ伸びていく方法もあるのかも知れませんが、そんなのは短期的な話でしかない。私は、ワンインチをスタートアップとして立ち上げました。ですから最終的には上場するか事業売却するかなのですが、上場するには20~30億円の売上が必要です。私が思い描くような方向にCBD市場が発展していくのだとすれば、実現できると思っています。去年、大木ヘルスケアホールディングスと資本業務提携させてもらうことができましたし、今後を見据えた事業計画を立てることもしっかりできています。
とはいえ売上は別にして、まだ3合目くらいです。法改正によってゴンドラのようなものが出現して、2号目から5合目まで一気に引き上げてくれると思っていたのですが、現実は全く違いました(笑)。しかし扉は開かれた。その先に続く道も見えている。今後も自力でこの山を上っていきます。
──ありがとうございました。
【聞き手・文:石川太郎】
<COMPANY INFORMATION>
所在地:東京都渋谷区円山町14-9
URL: https://oneinch.co.jp/
事業内容:CBDの原料輸入、OEM、製品開発支援、コンサルティング
関連記事:これからのカンナビノイドを語ろう【CBD座談会】サプリと医薬が共存する世界へ
:厚労省、CBD事業者等向けに通知 THC残留限度値規制めぐる「考え方」示す
:CBD業界4団体が共同声明 品質から表示まで法令遵守を宣言