健康食品の現在地と未来図(前) 【特別対談】紅麹事件が突きつけた「健康食品」制度の穴
健康食品に関する議論が揺れる中、紅麹問題を契機にその制度と安全性が改めて問われている。参議院議員として長年にわたり「食と健康」の政策に携わってきた山東昭子氏と、食品安全の第一人者である唐木英明氏が対談し、健康食品の位置付けや制度の盲点、消費者の認識とのギャップについて語り合う。急拡大した市場に制度が追いつかず、「いわゆる健康食品」の規制の空白が安全性リスクとして浮上している現在、セルフメディケーションやQOL向上に貢献する一方で、見落とされがちな課題にも光を当て、これからの制度設計に必要な視点を深掘りし、健康食品の今と未来を考える。(文中敬称略)
紅麹問題が示した課題と制度の穴
山東 私は国会議員になって今年51年目に入るわけですけれども、その前から健康食品のいろんな分野の方たちと交流があったものですから健康食品には非常に関心が深くて、そして国会議員のバッチをつけてからも、元総理大臣の橋本龍太郎先生もこの問題がご専門でいらしたので、一緒にやっておりました。ご承知のようにその後、(公財)日本健康・栄養食品協会(以下、日健栄協)という団体の立ち上げに携わったわけです(現在、同協会会長)。
その当時、健康食品が野放しになって、とにかく雨後のタケノコのように出て参りました。今は自然淘汰されてと言いましょうか、いろんな分野でそれぞれ研究されて良いものもあるわけですけれども、するとまた外国からのインターネットを通じた製品であるとか、そういうものが出てきて、みんながそういう製品を買いあさるというようなこともあって、ちょっとなんか危ない世の中になって来たなという気がしています。昨年起きた紅麹の問題というのも、大きな会社なので皆さん安心しておられたのだろうと思いますが、唐木先生はそういう問題に詳しくて、ずっと研究されて来られたので、先生がご覧になってどういうことでああいう問題が出てきたのか、お伺いしたいなと思います。
唐木 まず私の健康食品との付き合いをお話ししますと、私は大学で医薬品の研究をやっておりました。日本学術会議の副会長をやっている時に、金澤一郎東大名誉教授が会長でした。彼が日健栄協で行われた機能性表示食品のモデル事業の委員長を引き受けた時に、私に手伝ってくれということになり、それ以来健康食品に関わることになりました。その間に医薬品と健康食品の違いを理解するとともに、健康食品の制度について改善しなくてはいけないところもいくつか目に付いてきました。その1つは山東先生がおっしゃるように、安全性の問題で、これは非常に大きな検討課題です。もう1つは、消費者にとって健康食品は欠くことができないものになっていることです。セルフメディケーションのツールとして、ちょっと体の調子が悪い時には医薬品ではなく健康食品で治す。血圧が高めの人、血糖値が高めの人、不安がある人、眠れない人、そんな人が健康食品に頼っている。健康食品は非常に重要なセルフメディケーションのツールになっているということです。
さらに、QOLの向上にも役に立っている。これを飲んでいれば安心だという心の満足感がある。最後は医療費の削減に大きな寄与をしている。このように、健康食品は消費者にとって欠くことができない存在である。このことを国としてどのように考えるのかが非常に大きな課題であると思います。
今、山東先生からお尋ねがあった紅麹の問題、これは非常に深刻な安全性の問題でした。健康食品に対する消費者のイメージを大きく落としたという問題もあります。業界にとっても売上がどんどん落ちて、評判がどんどん落ちる大きな問題だった。これに対して行政の対応は良かったと思います。早い機会に規制を強化したことで、機能性表示食品の安全性は高くなった。同じ規制がトクホにまで行きわたり、トクホもさらに安全になった。
ただ対策が1つ抜けてしまった。消費者が実際に健康被害を受けているのは、「いわゆる健康食品」です。山東先生がおっしゃったように、これは雨後のタケノコのように出てきたんですけれど、中には素性の分からない健康食品もある。これが今回の規制から抜けてしまっている。これは食品だから規制のしようがないという事情があるのですね。ですから「いわゆる健康食品」をどうやって安全なものにしていくのかというのが、紅麹問題に残された大きな課題だろうと思っています。
消費者にとって身近な存在としての健康食品
山東 そうですね。何となく皆さん、人に勧められてというようなことで入っていって、なんか本当に専門的にはみんな分からないわけですけれどもね。ですけど、やっぱり手軽というか、身近な存在で、先生がおっしゃられたように、もう誰しもが無くてはならないというので愛用している方が多いわけですから。それによって日本は大変な長寿国になってきたわけです。もちろん食生活が基本ですけれども、その中で栄養補助食品として非常に大きく貢献をしてきたわけです。
反面、広告に踊らされることもあります。それから外国の製品なんかは、昔から言われていることですけど、日本人とは体格が違いますから、日本人の体も大きくなってきたとはいえ、今まで食べてきたこととの相性とかもあることでございましょう。そんなことを考えると、今こそいろんな面で規制をしなければならない点と、あと消費者がもう本物は何かということを、やはり見極める目というものを持って、賢くなることが重要だなという気がしております。

健康食品と規制、厚労省の認識と医療界の変化の必要性
唐木 おっしゃるとおりですね。規制して安全にするのは大事なことだけれども、それは普通の食品も同じで、食品衛生法で厳しく規制をしても食中毒がたくさんあるわけですよね。ですから規制だけではうまくいかない。そうすると、先生がおっしゃるように消費者がどれだけ気をつけるのか、消費者教育をどれだけきちんとやるのか、そこのところがとっても大事なところですね。
山東 唐木先生も専門でいらっしゃいますが、大昔は医薬品と健康食品というのが同じ厚生労働省の中でもチャンバラやってましたからね。非常に対立してましたから。それがある時から同じ局でやるようになって、少しは緩和されたわけですけれども、もう少し緩和してもいいような気もしますね。
健康食品というのは、みんなが非常に親近感を持っていますので、みんなが摂取しやすいというようなことになっているわけです。メーカーの方もそういうことを考えながら常に研究をし、そしていいものを多くの人たちに伝える、売り出すということが重要じゃないかなと思っております。
唐木 そうですね。今先生の方からたいへん大事な事を言っていただいたんですけれども、日本は食薬区分で、食品と医薬品の2つしかない。ところが、食品の中で、健康食品というのは、軽い症状の治療に使ったり、病気の予防に使うという医薬品に非常に近い性格を持っている。そこは厚労省の中でもいろいろと葛藤があった。山東先生がおっしゃるとおりだと思います。

山東 はい、そうですね(笑)
唐木 けれども、やはり食品と医薬品しかないんだという切り分け方がもう時代に合っていないと思います。食品の中で健康食品はちょっと別なんだよと、医薬品的な効果があるんだよということを公式に認めた方がいい。そういう時代が来ているし、アメリカではそれを認めている。日本もその方向に行った方が問題を解決する上で役に立つのではないかという感じがしているのですが、いかがでしょうか。
未病対策とドクターの意識改革を
山東 私が考えているのは、やはりドクターの中でもいろいろな方がいらっしゃる。例えば、未病の方に対して、食生活で透析に行かせないために、ここでちゃんとした食生活をすればいいというようなことを考える方もいれば、あまり食生活に関心のない先生とか、あるいは医薬品的には西洋医学に集中をされており、健康食品、あるいは漢方的なものに対しての理解が薄い方などがおられますよね。
唐木 いますね。
山東 ですから、ある意味でそういうドクターも、もう少し柔軟性を持っていただいて、そしてこうした東洋医学、あるいは未病というものをですね、病気をなくすためと言いましょうか、病気にならない前の状況というものを作るためにもう少し研究をしていただくといいですね。実は患者さんも健康食品を飲んでいるのだけど、医者の前ではあんまり言えないという方がほとんどじゃないかと思うのですね。それをむしろ認めてあげて、これにはこういう健康食品がいいよということをドクターの方から逆に、健康食品のあり方みたいなものを示唆していただくという方がいいですね。
今は薬剤師の方がいろいろやっておられるけれども、ドクターそのものがやはり患者と一番向き合うわけですから、そういういうことを私はもっと考えていただくことがこれからの、それこそできるだけ医療費を抑制するため、そして患者さんたちが本当に安心して健康食品を使えるという道につながるのではないかと思っているのですが、いかがでしょうか。
(つづく)
【文・構成:田代 宏】
<プロフィール>
山東昭子参議院議員(自由民主党)
1942年生。文化学院文学部卒、11歳で芸能界入り。女優・司会者として映画・テレビ等で活躍。1974年、当時の田中角栄首相に請われ参議院議員選挙(全国区)に自民党より出馬、32歳の最年少で初当選。以降、参議院史上最多の8期を務める。長年にわたり国民の健康や食に関わる政策に携わり、「食育基本法」、「健康増進法(受動喫煙防止法)」、「食品ロス削減法」などを制定。また、教育・福祉・環境・観光・住宅対策・科学技術・外交関係をはじめ幅広い政策課題にも取り組む。
1990年、国内6人目の女性大臣として科学技術庁長官に就任。2007年から女性初の参議院副議長。2019年に第32代参議院議長に就任。現在、自民党食育調査会会長、栄養士議員連盟会長、ウェルビーイング議員連盟会長など兼務。
唐木英明東京大学名誉教授(食の信頼向上をめざす会代表)
1941年生。農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、(公財)食の安全・安心財団理事長、倉敷芸術科学大学学長などを歴任。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。これまでに瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。
「食品安全ハンドブック」丸善2009、「検証BSE問題の真実」さきたま出版会2018、「鉄鋼と電子の塔(共著)」森北出版2020、「健康食品入門」日本食糧新聞社2023、「フェイクを見抜く(共著)」ウェッジ2024など著書多数。
(写真:於山東昭子議員事務所)