NMDB問題とは何だったのか?(5) 説明責任を果たさないJahficにいら立つ会員ら
少々回り道をしたようである。連載の初回で提示した「何が問題だったのか?」を理解してもらうために、どうしてもこれまでの経緯を読者の皆さんに知ってもらう必要があった。NMDBを広く世の中に普及するために多くの関係者が関わってきたということ。もちろん、同データベースを運営するJahficや書籍を出版している同文書院の人的・経済的負担、および努力やNMDBそのものの社会的価値を否定するつもりは毛頭ないが、それらをその周辺で支え続けた関係者がそれ相応の負担とコストを払ってきたことは紛れもない事実なのである。
特に前回ご紹介したコーディネーターらは、ボランティアとして、東京と福岡において、隔月でNMDBを利用する意義とその業界の健全化に資する価値について語り続けた。それは少なくとも筆者の知る限り、ビジネスの領域を超えた活動に及んだものだったと思う。だからといって、今さらそれに見合う埋没費用を返せと言う関係者はいないだろう。ただ少なくとも、Jahficはそれらの関係者も含め、NMDBの現在と将来に期待を寄せ、同データベースが育つ肥やしと水を与え続けた善意に対し、相応の説明責任を果たす義務を有しているのではないか――。
2023年12月31日、Jahficは突然、利用規約を変更した。公式ホームページには、「これまで機能性表示食品制度への届出資料にナチュラルメディシン・データベース〈オンライン版〉をご利用になる場合には、これまで自社の最終製品に限り使用許諾申請を免除しておりましたが、2024 年 1 月末をもちまして、免除を一旦廃止させていただく」(原文ママ)と告知したのである。
その理由として、使用許諾を免除したことで届出資料において、届出情報が更新されていないNMDBの情報源の利用などの不適切な行為があったためだと説明している。そして翌年3月末までの情報の更新か届出の取り下げを使用者に対して求めた。これにより業界関係者は戸惑いと混乱に陥った。24年2月19日に消費者庁が公表した届出更新情報では、同年1月以降の撤回が201件にも上った。
当時、消費者庁が行った届出の差し戻しの理由は、「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の素材情報データベースから得られた情報がありますが、当該データベースにおいて、現在は安全性の情報が公開されていません。また、当該データベースについては、商用目的の利用は厳禁とされていますので、適切なデータベース等を用いて安全性評価を行ってください。(機能性表示食品に関する質疑応答集(令和5年9月29日改正) 問21参照)」というものだった。
理由とされている「質疑応答集」の問21とは何か――。
「公的機関のデータベースとは、どのようなものか」とのQに対し、A「公的機関(独立行政法人を含む。)が公表しているデータベース(民間や研究者などが調査・作成したものを除く。)」であり、例として、内閣府食品安全委員会の食品安全総合情報システムや、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の素材情報データベースなどが挙げられる。
なお、公的機関(独立行政法人を含む。)には法令や条例等により設立されている機関(国立の研究所や公立大学等)が含まれるが、私立大学や学術学会、特定非営利活動法人(NPO法人)などの団体は公的機関には該当しない」とするもの。新たな質疑応答集では、上記の太字の部分を削除し、「データベースから得た情報の使用に当たっては、当該データベースの利用規約に従うものとする」との一文を追加した。
当然、これらの出来事は同年3月以降、国立栄研が素材情報データベースの閲覧を禁じ、消費者庁が質疑応答集を変更したことを受けてのもので、Jahficだけに一方的に責任を負わせることはできない。だが問題は、この後の同社の姿勢にある。
ウェルネスニュースグループでも、その後再三にわたりこの問題をセミナーのテーマにしてきた。また、国立栄研・消費者庁・Jahficに対して何度も取材を試み、その対応のあり方の是非を問うとともに、NMDBの複雑な変更規約の理解を深めようとした。ところが2024年3月以降、Jahficは取材に対して誠意ある対応を欠くようになった。
(一社)健康食品産業協議会(JAOHFA)もこの間、何度かプレスリリースを会員向けに発信している。2024年4月11日付のメールでは、Jahficの対応が法的に問題があるかどうかについて広報している。
あくまで弁護士の一般的な見解とし、①NMDBの利用規約(2023年12月31日付)は、法律的根拠を元に作成されており、この利用規約に同意した場合、当該規約の内容を守る必要がある、②NMDBの利用規約(2023年12月31日付)に同意すると、機能性表示食品の過去の届出まで遡って利用料を請求されることも法律上やむを得ない、③NMDBの利用規約(2023年12月31日付)に同意し、その後契約を解消した場合、離脱条項に注意する必要がある――というものである。
至極当たり前の解釈のためあまり参考にならないが、問題は規約そのものの法的妥当性、権利問題というよりも、Jahficが規約変更について、どのような対応を外部に対して行っているのかという手続上の是非に問題があるのかどうかを問うべきではないか。裁判にでもならない限り、弁護士の見方はその弁護士の専門性や思想的立場、ポリシーによってそれぞれ異なる。兵庫県の公益通報に関する対応を巡る弁護士諸氏の見解1つとっても、それがよく分かるだろう。
突然の規約変更により、会員はJahficを無視するか、退会するか、規約に従って変更届の手続きを進めるか、いずれかの道を選ばざるを得なくなった。
「利用規約が分かりにくい。Jahficは公式に説明会を開くべき」などの悲鳴が、この時すでに上がり始めていた。
(つづく)
【田代 宏】
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