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健康食品に関する意見交換会に思う 【寄稿】食安委の「19のメッセージ」は廃止すべき

東京大学名誉教授 唐木 英明

 消費者庁と食品安全委員会は東京と大阪で「いわゆる『健康食品』に関する意見交換会」を開催した。会合には参加できなかったが、プログラムと配布資料を見ると、基調講演は「健康食品と安全に付きあうために〜食品安全委員会19のメッセージ」だった。「19のメッセージ」とは、9年前に食品安全委員会が発表した健康食品のリスクに関する注意書きであり、厚労省や消費者庁などが引用して広報誌を作成するなど、いわば健康食品のリスクのバイブルとして利用されている。

 しかし、「19のメッセージ」は9年前の社会状況の下で作成され、リスク要因を網羅的に羅列したものであり、多少の改定は行なっているようだが、それでも今日の状況に合わない点が多々出てきている。
最大の問題点は、メッセージの基調が健康食品の「無効有害論」あるいは「無用論」としか見えない点である。また全体の組み立てとして、健康食品にいわゆる健康食品と保健機能食品があることは記載されているが、この2種類ではリスクが大きく異なること、すなわちどの要因により、どのくらいの頻度で健康被害が生じているのか、それはどちらの健康食品によるものなのか、その対策は何かなど、リスク評価とリスク管理についてほとんど述べていないことである。
 基調講演では、そのような問題点がどの程度アップデートされたのか興味があったのだが、配布資料を見る限りではオリジナル版の「19のメッセージ」をほぼそのまま説明したように見える。そこで「19のメッセージ」の問題点について述べることにする。

消費者の混乱「健康食品が食品である問題」

 「19のメッセージ」では、健康食品の問題を5つの項目に分類している。最初の項目は「食品としての安全性についてのメッセージ」である。そこでは「食品でも安全とは限らない」として、過剰摂取や長期摂取のリスクを述べている。
 健康食品問題の最初に食品が出てくる理由は、法律に「健康食品」の用語も規定もなく、食品扱いだからである。講演の中には4種類の健康食品問題、すなわちトクホ、栄養機能食品、機能性表示食品、そしてその他のいわゆる健康食品という仕組みの紹介もあった。しかし、消費者は一般食品と健康食品を明確に区別しているので、この2つを同一視する法律の方がおかしい。さらに4種類もある健康食品制度を十分に理解して使い分ける消費者はほとんどいないだろう。
 世界的に例がないこのような複雑怪奇な仕組みができた理由は、トクホを作った時に食品と区別をしなかったこと、その上に新たな保健機能食品を積み重ねるだけで、制度を整理する試みがなかったためだが、このような消費者が理解できない制度が混乱を起こしていることの解説はない。
 さらに深刻な問題は、健康食品の安全性を一般食品以上に厳格化することが困難なことである。一般食品と健康食品の法律上の区分がないという現行制度の欠陥を改めて、健康食品を法律に明確に規定することで健康食品の安全を守ることを考えるべきだが、この問題の解説もない。

「健康食品の安全性の問題」大部分は国の責任

 2番目の項目は「健康食品としての安全性のメッセージ」である。そこでは錠剤・カプセル形状(サプリ形状)の問題、医薬品の混入や品質管理などの問題を指摘している。健康食品の安全性を議論する際に最も重要な点は、4種類の健康食品の中で、実際に健康被害を起こしている製品はサプリ形状の「その他のいわゆる健康食品」であり、保健機能食品は、表示の違反はあっても、紅麹サプリ以外には健康被害はないという事実から出発することである。したがって、ここでは健康食品の最大のリスクである「サプリ形状のその他のいわゆる健康食品」問題と、これへの対応について述べるべきである。しかし、現在の記述は全ての健康食品が危険として、消費者が自己責任で対応することを求めるだけである。
 かつてサプリ形状の一般食品は医薬品とみなして規制されていた。そのためトクホは全て「明らか食品」形状であり、サプリ形状の一般食品問題、すなわち現在のいわゆる健康食品問題は存在しなかった。ところが、この規制は25年前に米国の圧力で緩和されてしまった。再度同じ規制をすればこの問題は解決するのだが、そのような動きはない。その意味で、現在の健康食品の安全に関する問題の大部分は国の責任である。消費者の健康を守ろうとするのであれば、問題の解決を消費者に丸投げするのではなく、国がサプリ形状の一般食品を規制する方策を考えるべきであり、そうすれば健康食品の安全性は大きく向上することは間違いない。

健康食品の目的は「軽症者の治療」

 3番目の項目は「健康食品を摂る人と摂る目的についてのメッセージ」である。そしてこれは多くの消費者が最も知りたいことだろう。ところがその中身を見ると、基本的に健康な成人以外は摂取してはいけない、医薬品の代わりに使ってはいけない、医薬品と併用してはいけないなどのリスク情報だけで、消費者が知りたい情報、すなわちどんな人が摂取したらどんな効果があるのかは述べていない。しかし現実を見ると、健康食品の目的は明確で、軽症者の治療である。
 健康食品の臨床試験法として、治療効果の試験法であるプラセボ対象試験が義務化されている。医薬品の場合には被験者は病者であり、そのバイオマーカーは異常値のため、試験薬の治療効果は明確に確認できる。他方、健康食品の被験者は健康な成人であり、そのバイオマーカーは正常値のため、試験薬の治療効果は見られない。そこで境界領域を被験者とすることで小さな治療効果を確認することを求めている。この事実は、健康食品の目的が軽症者の治療であることを示している。さらに、「血圧が高めの方に」などの表示が許容されていることもこれを裏付けている。
 プラセボ対照試験には原理的な問題がある。この試験は薬理効果とプラセボ効果が積み重なっているという相加仮説を採用して、試験薬の効果からプラセボ効果を差し引いた残りを薬理効果と仮定している。しかし薬理学的には相加仮説は成立せず、両者は並列であることが証明されている。ただし、プラセボ効果に比べて薬理効果が大きいときには相加性が擬似的に成立して引き算で薬理効果が得られるので、医薬品分野では多用されている。
 他方、2つの効果の大きさにそれほど差がない時には、引き算では薬理効果は過小評価されてしまう。そのため一部の医薬品と多くの健康食品では誤って「効果が小さい」と判断され、「無効有害」の誤解を招いている。
 このような事実を正確に説明することなく、健康食品は原則として健康な成人を対象にしていると説明することは消費者に誤解と混乱を与えるだけではないだろうか。

 配布資料を見ると、健康食品は自己選択であり、その効果は自己判断であり、それが医薬品と違うという解説があった。しかしこれは処方箋医薬品との比較の話であり、多くの消費者が利用している一般用医薬品(OTC)は健康食品と同様に自己選択、自己判断で摂取する。そして利用者の大部分は健康に不安がある人や境界領域の人であり、これらをセルフメディケーションの重要な手段として使用していると考えられる。
 大きな課題は、OTCの中で医薬品から転用したスイッチOTCだけがセルフメディケーションの手段として医療費控除の対象になっていることだ。一般OTCも健康食品もセルフメディケーションの手段として多くの消費者に利用され、健康増進に役立ち、医療費削減に役立っていると考えられるにもかかわらず、なぜこれらをセルフメディケーションの手段として公認しないのか。これは健康食品を摂取する目的と大きな関係を持つ重要な検討課題である。

宣伝広告の問題「現行の関連法規は無能か?」

 4番目の項目は「健康食品の情報についてのメッセージ」で、「知っていると思っている健康情報は、本当に(科学的に)正しいものですか。情報が確かなものであるかを見極めて、摂るかどうか判断してください」と記載している。しかし食品表示法や景品表示法で厳しく規制されている保健機能食品の広告表示がそれほど信頼できないのだろうか。もしそうであれば、正しい健康情報はどこで入手できるのだろうか。そのような疑問には一切答えず、ここでも全てを消費者の判断に任せている。この記載も、その他のいわゆる健康食品と保健機能食品を分けて説明すべきである。

食安委の自己矛盾「わからない中での選択」

 5番目の項目は、「健康食品の摂取についてのメッセージ」であり、そこでは「健康食品を摂るかどうかの選択は『わからない中での選択』です」として、次のように説明している。「安全性、品質、有効性などいずれの点でもわかっていないまま販売されているものが少なくありません。健康食品を摂るかどうかを決めることは、そういったわからないことが多い中での選択と言えます。効果についての情報だけではなく、健康被害についての情報も得て、自分の状況をよく考えた上で選択することが大切です」
 そしてトクホについては「ある決まった量と摂り方と期間など、限られた条件のなかで効果と安全性が評価されているに過ぎません」と記載している。
 ということは、食品安全委員会自身が安全性を厳しく審査して認可したトクホもまた「わからない中での選択」ということになる。それで食品安全委員会は任務を果たしたと言えるのだろうか。そのような自己矛盾を長年放置したことは、食品安全委員会自身の信頼性にも関わる大きな問題であり、早急に対処すべきである。有効性が「わからない」とされる大きな理由は試験法の問題であることは述べた。

行政間の自己矛盾「健康食品の是非は?」

 メッセージの「まとめ」には、「健康の保持・増進の基本は、健全な食生活、適度な運動、休養・睡眠です。健康食品を摂る選択をする前に、今の自分にとって本当に必要か考えてください。その際に、信頼できる(科学的根拠のある)情報を入手するように努めることが、自身の健康を守るために大切です」と記載されている。これを使って、厚労省の「健康食品の正しい利用法」と題するパンフレットには「飛びつく前に、よく考えよう!」と書かれている。これは健康食品不要論以外の何者でもない。他方、消費者庁の「表示を確認して、保健機能食品を適切に利用しましょう」と題するパンフレットには、高めの血圧の治療のためにトクホの摂取を勧める漫画が掲載され、軽症者の治療のための使用を推奨している。このような行政間の矛盾が健康食品に対する消費者の判断に混乱をもたらしている。

 消費者の半数以上が健康食品を摂取した経験があり、セルフメディケーションの手段として定着しているという現状や、健康食品市場が右肩上がりに成長しているという実態を見ると、健康食品不要論は社会の支持を得ることはないだろう。リスクがあるものは全て排除するような考え方はリスク評価機関である食品安全委員会の趣旨に反するものであり、そのような主張をすれば全ての食品は排除することになりかねない。

新法により食品とサプリを明確に区分

 そうであれば、健康食品の安全性と有効性を確保し、問題を解決することが何より重要になる。その最も有効な手段が、食品と健康食品を明確に区分する新たな法律を作り、健康食品は一般食品より一段厳しい規制を行うことを可能にすること、そしてサプリ形状の一般食品を健康食品とみなして厳しい規制を行うことであると考える。
 食品安全委員会には「19のメッセージ」を廃止すること、そして必要であれば現実に即した消費者の選択に役立つ形で新たに提言することを望みたい。

<プロフィール>
農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本毒科学会理事長、日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長、(公財)食の安全・安心財団理事長などを歴任。現在は食の信頼向上をめざす会代表。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。

<著 書>
「暮らしの中の死に至る毒物・毒虫」(共著)講談社2000、「食の安全と安心を守る」(共著)学術会議叢書2005、「農業技術者倫理」(共著)農文協2006、「食品の安全性評価の考え方」(共著)光生館2006、「原子力ハンドブック」(共著)オーム社2007、「食品安全ハンドブック」(共著)丸善2009、「牛肉安全宣言」PHP出版2010、「不安の構造」エネルギーフォーラム2014、「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」(共著)エネルギーフォーラム2015、「検証BSE問題の真実」さきたま出版会2018、「鉄鋼と電子の塔」(共著)森北出版2020、「みんなで考えるトリチウム水問題」(共著)エネルギーフォーラム2021、「健康食品入門」日本食糧新聞社2023、『フェイクを見抜く「危険」情報の読み解き方』(共著)ウェッジ2024 他多数

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