1. HOME
  2. エビデンス入門
  3. エビデンス入門(75) 臨床試験における対照群の設定について

エビデンス入門(75) 臨床試験における対照群の設定について

関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 准教授 竹田 竜嗣

 ヒトにおける有効性評価の一環として実施するヒト臨床試験では、ランダム化比較研究がエビデンスの信頼性が高い手法として知られている。エビデンスを証明したい成分などが含有されている試験品に対して、対照となる群を設定し比較する。試験の性質によって、比較対象は異なる。例えば、既存物質と何らかの加工を行った新物質の有効性の強さ比較であれば、対照群も何らかの有効成分が含有されている。あるいは、何も摂取しないなど食品の摂取などの介入を行わない群を対照とする試験も実施可能だ。

 一方、試験の質を高めるためには、二重盲検などによる介入の種類(どんな試験品を摂取しているか)の盲検化を実施し、有効成分の力価のみを測るような試験であれば、プラセボとして有効成分を含まない食品の摂取をさせて比較する。プラセボは、日本語では偽薬ともいい、有効性成分が入っている食品と見分けがつきにくいが、有効成分は含有していない食品を指す。
 そのため、食品性状の状態を色や味まで似せて作成するなど、摂取している本人が試験品を摂取しているか、プラセボを摂取しているか分からないようにする必要がある。有効成分が含有している食品に似せる必要があるのは、プラセボ効果という比較対照を置く試験で見られる現象のためである。

 プラセボ効果とは、心理的な効果により、有効成分が含有されていない食品を摂取してもアウトカムの改善などが現れる現象を指す。例えば、肥満者を対象とした試験で抗肥満の試験を実施する場合、対象者は肥満を改善したいと思い参加するため、実施開始後すぐは、無意識に食事を控えめにする行動や運動を多めにするなど、わずかな生活習慣の変化が見られる場合がある。
 これらの現象は、一般的に長続きしないため、時間の経過とともに消失するが、試験開始後、日が浅い間は一定数の行動変化が認められ、試験品、プラセボ両群で一時的に改善を示す場合がある。これらの効果も考慮し、無作為化比較試験では、プラセボ群と試験品群でアウトカムの変化の差を統計的に算出する。

 試験の同意説明では、試験品群、対照群、それぞれに介入方法は説明し、被験者に群の選択はさせない。有効成分の入った試験品の効果を最大限に測定するためには、プラセボ品が試験品と同等であり、被験者にとって見分けがつかない方が、プラセボ効果を引き出すことができ、質の高い試験が実施できる。そのため、プラセボの設計は非常に重要である。

(つづく)

「エビデンス入門」全編はこちら

<プロフィール>
2000年、近畿大学農学部農芸化学科卒。
2005年、近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。
2005年、博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科。
専門は、農芸化学分野を中心に分析化学、食品科学、生物統計学と物質の研究から、細胞、動物試験、ヒト臨床試験まで多岐に渡る研究歴がある。特に食品・医薬品の臨床研究は、大学院在籍時より携わった。機能性表示食品制度発足時から、研究レビューの作成およびヒト臨床試験など多くの食品の機能性研究・開発に関わる。
2023年1月、WNGが発信する会員向けメルマガ『ウェルネス・ウィークリー・レポート』やニュースサイト『ウェルネスデイリーニュース』で連載した「エビデンスの基礎知識」が100号に達したのを記念し、内容を改めて編集し直し、「開発担当者のための『機能性表示食品』届出ガイド」を執筆・刊行。

TOPに戻る

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

INFORMATION

お知らせ