日大・阿部教授が紅麹問題を総括 第259回「黎明の会」に登壇、現場視点で報告
先週16日、黎明の会(主宰:高橋幸輝)による第259回目の勉強会が都内のフレンチレストラン「ブラッセリー・ヴァトゥ」(港区六本木)で開催された。講師として招かれたのは、日本大学医学部の阿部雅紀主任教授。
同氏は、昨年3月に小林製薬「紅麹サプリ」事件が明らかになる前の2月1日、診察した3人の患者について小林製薬に症例報告を行った医師。これまで、NHKをはじめとした各局の番組にもたびたび登場してきた。
昨年7月23日に小林製薬が公表した調査報告書に記載のある「B医師」こそ、阿部教授その人である。同氏は、糖尿病性腎症と慢性腎臓病、透析分野を専門とする。また今回のように、短期間で急速に悪化する急性腎障害患者の急性期医療も専門としている。
勉強会では、腎臓病を専門とする臨床医の立場から、紅麹サプリが引き起こしたさまざまな問題を総括、報告した。
同氏は、腎障害を引き起こした経緯を詳しく説明した。
診察した患者は、70代の女性1人と50代の女性2人。2023年11月~24年2月にかけて来院した3人は、全身倦怠感、食欲低下、体重減少、尿の泡立ちなどの症状を呈し、ファンコニー症候群の特徴を示していた。
いずれも、腎臓機能を測定するクレアチニンの値が1.0mg/dLを超えており、eGFR(推算糸球体濾過量)が60%より低下していた。筋肉が壊れた時の老廃物であるクレアチニンの値が高いと腎機能障害が疑われ、eGFRが下がるとクレアチニンが上がるとされている。
「腎臓生検検査(腎生検)の結果、急性尿細管間質性腎炎の所見が認められた」とし、尿細管細胞が剥離・消失していた。しかし、通常の急性腎障害とは異なり、カリウム・尿酸が低値を示した。そして3人に共通していたのは、いずれも「紅麹サプリ」の摂取者だった。
その後、さらに5人の患者を同様の症状で受診。治療にはステロイド治療を実施した。急性腎障害は「完全回復」、「慢性腎臓病への移行」、「慢性腎臓病の増悪」、「末期腎不全(透析)」などの4パターンがあるが、紅麹サプリメントの服用者8人のうち健康体で80~100%あるとされるeGFRが60%を超えたのは1人だけで、7人が60%を切っており、慢性腎臓病へ移行し今も入院しているという。
阿部氏は原因物質について説明した。
国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)の調査により、原因物質としてプベルル酸が特定された。また、未知の化合物YとZも発見されたが、これらはモナコリンKに類似した構造式を持ち、コレステロール低下作用に関与していた可能性があると説明。患者が紅麹サプリの摂取を止めることで悪玉コレステロールが160~170mg/dLまで上がったため、60~70 mg/dLくらい下げていたと思われるとし、未知の化合物の影響も示唆されるという。
最後に同氏は、サプリメントを摂取する際の注意点を紹介した。
サプリメントを摂取している人の割合は、男性21.7%、女性28.3%、年齢別では、男性60~69歳が28.1%、女性50~59歳が37.6%という厚生労働省の調査データを紹介。
サプリメントの摂取率が女性で30%に及び、特に女性の摂取率が高い。他方、医師の摂取率は少なく、その多くはサプリメントの摂取を積極的に推奨はしていないという実態を示した。
【田代 宏】
(冒頭の写真:阿部雅紀主任教授)