東洋新薬副社長が語る業績と展望 業界揺れた24年、個社としてどう乗り越える?
OEM(相手先ブランドによる生産)とODM(相手先ブランドによる設計・生産)を掛け合わせた造語「ODEM(オデム)」を看板に掲げる健康食品・化粧品の総合受託メーカー、㈱東洋新薬(服部利光社長)。売上高の約8割を占めるのが健康食品だ。2015年以降、機能性表示食品で急成長した。健康被害問題で健康食品業界全体が揺れた今年、業績はどう推移したのか。改正された機能性表示食品制度への対応、その中で求められる品質保証に対する考え、事業全体の今後の展望も含めて髙垣欣也副社長(=写真)に聞いた。(聞き手・文:石川太郎)
25年9月期業績、過去最高超える水準めざす
───2024年9月期(23年10月~24年9月)の業績はどうでしたか?
髙垣 売上高はグループ全体で306億9,000万円、前期比は107%。20億7,000万円の増加となりました。前の期(23年9月期)は減少させてしまっていたなかで、過去最高売上高(325億円)となった前々期(22年9月)の水準まで回復させることはできませんでしたが、増収増益で終えることができました。利益は公表していません。
健康食品に関しては、女性や高齢者層に向けたプロテインがとりわけ好調でした。新商品、既存商品ともに、お客様の販路を問わず、よく伸びました。スポーツ選手などではなく、いわゆる「ライト層」へのプロテインの広がりを実感しています。当社は青汁を強みの1つにしていますが、同じ粉末ですから、風味作りを含めた青汁の製品開発技術をプロテインに応用できることが当社の強みになっています。まだまだ伸びそうです。
機能性表示食品に関しては、いわゆる「ダイエット系」を中心に、当社の独自開発素材を配合した新規製品が増えましたし、リピートも堅調でした。また、自社開発素材以外にも、市場には良い素材がいくつもありますから、そうした他社開発素材を活用した製品開発であったり、ヘルスクレームの拡充であったりを進めました。売り上げを本格的につくっていくのは今期(25年9月期)からになりますが、少しずつかたちにすることができています。
──下半期は、健康被害問題の影響で、サプリメントや健康食品の需要が全体的に落ち込んだ時期に当たります。
髙垣 プロテインは該当しないのですが、下半期は上半期に比べて動きが鈍化したのは事実です。予定していた受注の遅れ、お客様で進行中だった新製品開発の一時休止などといったことがあり、業績にも多少、影響しました。健康被害問題の影響を直接的に受けたのかどうか定かではありませんが、下がったのではなく、伸びるはずのものが伸びなかったという感触があります。今期に入ってからもそうした傾向が続いているように感じていますが、今期の業績目標は、過去最高業績の回復は当然のこととして、さらに高い目標を掲げています。
品質保証体制強化、消費者の安全第一を「VALUE」に
──健康被害問題をきっかけに、機能性表示食品をはじめサプリメントや健康食品の消費が鈍化しているようです。健康食品市場全体に逆風が吹いていると感じます。どう乗り越えていきますか?
髙垣 健康被害問題によって機能性表示食品や制度自体が疑問視されてしまい、結果、制度が改正されることになりました。健康被害情報の報告やサプリメントのGMPが義務化され、表示の是正も図られます。そのこと自体は安心安全な制度に変わっていくということですから、問題が起きたのは残念ですが、結果的には良かったのではないかと思います。
当社の企業理念には、MISSION、VISION、VALUEの3項目があって、7つあるVALUEの筆頭には、「いかなる時も、いかなるものよりも、消費者の安全とコンプライアンスを最優先します」とあります。以前から掲げている理念で、ずっと取り組んできたことです。ただ、健康被害問題が起こり、当社は独自開発素材を供給していることもあって、全社的にピリッとしました。今回の問題を良い機会と捉え、引き続き「消費者の安全」を第一にした開発、製造、供給を進めていきます。
──その一環だと思いますが、健康食品の品質保証体制をさらに強化したことを10月下旬に発表しました。ステルス印字機を全ラインに導入したり、近赤外線分析法(NIR)を増強したり、原子吸光光度計を新たに導入したりしたそうですね。
髙垣 制度が改正されたから慌てて強化したわけではありません。先ほど申し上げたとおり、消費者の安全第一を理念に掲げています。ですから当社の健康食品製造工場は、以前からNSF GMP(cGMP)の登録施設になっていますし、健康補助食品GMP適合認定やFSSC22000認証なども取得しています。独自素材の開発も行っていますから、分析機器類もかなり揃えていて、もともと品質保証体制は充実していたと思います。ただ、健康被害問題が起きてすぐ、安全性確保や品質保証の強化に向けて動き出しました。独自開発素材の安全性の評価だったり、原材料の受け入れ検査であったりに関する課題がゼロではなかったからです。ピンチはチャンスではないですが、この機会に健康食品の品質保証体制をもっと強化し、そこを当社のより強みにしていこうということ。特に原材料に関しては、独自開発素材の品質保証はもとより、原材料を工場に受け入れる時の品質確認の方法や体制づくりの研究を、大学と連携して進めています。
投資額は少なくありませんでした。ですがこれで終わりにするのではなく、消費者やお客様に供給する製品の品質を保証するための投資を惜しまず続けていくつもりです。ハード面だけでなくソフト面の品質保証に関しても、「ミス・ゼロ」を掲げ、ヒューマンエラー(人為的ミス)の「ゼロ化」をめざす社員教育などを全社的に進めています。改正でハードルが高くなった機能性表示食品制度にも十分対応していけると考えています。
新しいものを探し、見つけ、開拓する
──中長期の業績目標を、かなり高いレベルに据えているようです。どうやって達成しますか?
髙垣 当社が取り組むべきはやはり、企業理念にも掲げている「HIGH-END VALUE」、つまり高付加価値化なのです。健康食品や化粧品は、どうしてもレッドオーシャンの中で戦わざるを得ない。ですから当社もそこで戦うことはしますが、そうした中でも潜在ニーズを見つけ出し、そこから少しでも抜け出せるような価値を提供していきたいと思っています。そのために必要なのは、我々だけでなく、外部とも連携しながら、独自性であったり、差別化だったりの追求です。それをプロダクトアウトに陥ることなく、消費者やお客様のニーズに合わせながら実現していきたいと考えています。
健康食品でいえば、これまでもずっと取り組んでいることですが、潜在ニーズをくみ取りながら、安全性も含めてエビデンスを揃えている新規素材であったり、新規のヘルスクレームだったりの研究開発を行い、もちろんハードルは高いのですが、かたちにできるようチャレンジしていきます。製剤技術もそうです。技術に関して当社は他社にやや遅れを取っていると思いますが、溶けにくい粉末プロテインを溶けやすくする技術(イージーパウダー)を開発し、特許を取得しました。シェーカーが不要になるということもあって、ご好評いただいています。そのような新しい技術をもっと生み出していきたいと思っています。
──新しいものをより追求していく?
髙垣 健康と美容の領域で、ブルーオーシャンを見つけ出し、開拓していけるのが理想です。そのためにも、新しいことをやっていく必要があると思っています。何か具体的なアイデアが手元にあるわけではないのですが。
当社の歴史を振り返ってみても、もともとは化粧品の受託でした。それが今では健康食品もやっていますし、MG(Machine & Goods)事業も手がけています。MG事業は、健康食品や化粧品とも商材として馴染みやすい健康・美容の器具や雑貨、一般医療機器などを、通信販売などのお客様に提供する事業です。3年ほど前に立ち上げ、最初は本当によちよち歩きでしたが、ここにきて数字をつくり始めています。「事業」と言ってよさそうな業容になってきました。そのように新しい事業なのか、新しい製品なのか、新しいサービスなのか、もしかしたら新しい売り方なのかもしれませんが、新しいものを生み出し、提案していきたいと思っていますし、絶えず探し、調査しているところです。
──ありがとうございました。
【聞き手・文:石川太郎】
<COMPANY INFORMATION>
所在地:佐賀県鳥栖市弥生が丘7-28(本部・鳥栖工場)
TEL: 0942-81-3555(本部)
URL: https://www.toyoshinyaku.co.jp
事業内容:健康食品・化粧品(医薬部外品)・MG(健康・美容器具)・医薬品の受託製造
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