1909年創業の化学素材メーカー 第一工業製薬、ライフサイエンス分野に本格的参入
第一工業製薬㈱(京都市下京区、山路直貴社長)は、京都で115年培った技術と信頼を基に、ユニークで独自性の高い工業用薬剤を提供する。創業以来、「品質第一、原価逓減、研究努力」の社訓にのっとり事業を行ってきた。社是として「産業を通じて、国家・社会に貢献する」を掲げる。蚕の繭から効率的に絹糸を取り出す薬剤に始まる同社。2018年にライフサイエンス事業に本格的に参入するなど、幅広い分野で社会に貢献する。
繭洗浄工業用薬剤で創業、基幹産業を技術力で支える
同社の創業は1909(明治42)年。線香屋を営む負野薫玉堂の納屋の中で、絹糸の原料、繭を洗う工業用薬剤である「蚕繭解舒液(さんけんかいじょえき)」の製造に始まる。後に「シルクリーラー」と改称された同製品は、紡糸の生産性を向上させ、絹産業における量産技術の確立に貢献した。さらに研究開発を重ね、当時の基幹産業である繊維工業分野向けに、精練剤や油剤などの販売を続けた。14(大正3)年に合名会社負野工業製薬所となり、第一工業製薬㈱が設立されたのは18(大正7)年。23(大正12)年には、上海出張所を設立し海外進出を果たす。26(大正15)年に本社と京都工場を移転した際に研究部が誕生した。以後、国内工場の増設、関係会社の設立、さらなる海外進出など事業拡大を続けている。
中期経営計画「FELIZ 115」、2025年3月期が最終年度
同社は2020年4月、24年度(25年3月期)を最終年度とした5年間の中期経営計画「FELIZ 115」(フェリスイチイチゴ)を策定した。FELIZは「幸福」の意味を持つスペイン語。FUTURE(未来)、ENVIRONMENT(環境)、LIFE(生命)、INNOVATION(革新)、Z・FLAG(挑戦)に115周年の意味を込め、全てのステークホルダーに幸福を与える企業でありたいという思いを伝えている。
同計画では、「営業、研究、生産、管理の本部制を敷き、経営資源の最適配分を行う。貢献に報いる業績評価体系により、社員幸福度経営を継続する。企業を取り巻く4つのステークホルダーの期待に応え、企業価値を高める」などの基本方針を掲げた。
また、SDGsの5目標(3・7・9・12・17)、ESG経営目標を設定し、「工業用薬剤の首位」と評され、重点施策の維持、電子・情報、環境・エネルギー分野での収益拡大と、ライフサイエンス分野での事業育成のために経営資源を集中投入してきた。中でも、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に関連して「ライフサイエンス事業の黒字化に目途、社員幸福度の経営の推進」を掲げ、取り組みを強化している。
2018年に本格参入のライフサイエンス事業
同社は18年、創業当時の原点である蚕(冬虫夏草)とつながり、岩手大学発ベンチャー企業の㈱バイオコクーン研究所と、医薬品・医薬部外品・機能性食品・健康食品の製造を行う池田薬草㈱を完全子会社化し、ライフサイエンス事業に本格参入した。
同事業として、100%国産の「カイコハナサナギタケ冬虫夏草(カイコ冬虫夏草)粉末」を展開している。原料となるカイコの蛹の選別から冬虫夏草(キノコ)の培養、粉末化まで完全管理し、安定供給する方法を確立。「カイコ冬虫夏草」の培養はHACCP適合の棚倉工場で行っている。また、バイオコクーン研究所が発見した「カイコ冬虫夏草」に含まれる新規有用成分である「ナトリード」を機能性関与成分として、23年8月に機能性表示食品『快脳冬虫夏草』(届出番号:H950)を新発売した。「ナトリードには、人の顔や物を置いた場所、戸締りをしたことを覚えておくなど、中高年の方の認知機能の一部である視覚的な記憶力を維持するのに役立つ機能が報告されています」などと表示している。
また、池田薬草㈱では、徳島県の名産であるすだちの果皮に含まれるポリフェノール「スダチチン」を抽出・精製した「スダチ果皮エキス末」を展開している。
【藤田 勇一】
<COMPANY INFORMATION>
所在地:京都市南区東九条上殿田町48番地2(本社)
TEL: 075-276-3030
URL:https://www.dks-web.co.jp/
事業内容: 界面活性剤を始めとする各種工業用薬剤や、健康食品などのライフサイエンス関連製品の製造・販売
(冒頭の写真:本社外観/同社提供)