シルク由来の独自素材と歩んだ20年 ドクターセラム、会社独立して立ち上げたBtoB企業の歴史
一般的には知られていないが業界内では名の通る企業は少なくない。BtoB(対事業者)で健康食品、化粧品などの企画、開発、卸販売を行うドクターセラム㈱(東京都渋谷区)もそうした企業の1つ。シルク(絹)に由来する独自の機能性食品素材を世に出すために誕生した同社は、来年2月、設立から満20年の節目を迎える。創業者である吉川育矢社長(=写真)に、これまでの歩みを振り返ってもらった。
シルクフィブロイン「やらないと後悔」
──設立20周年ということは、シルクフィブロイン(ドクターセラム独自の機能性食品素材。以下、シルク)も販売開始からちょうど20年になりますね。
吉川 そういうことになりますね。もう20年も経つとは自分でも驚きますよ。20年続く会社は少ないですから。シルクはもともと(健康食品・化粧品の原材料販売およびOEMの)東洋発酵でやろうとしていた。だけど、できなかった。ちょうど、似たような素材の開発を進めていたからです。タイミングがちょっと悪かったですね。
──読者のために説明すると、吉川さんの前職は東洋発酵の執行役員(営業本部長)です。シルクを売り出すために独立し、2005年2月にドクターセラムを設立しました。
吉川 それまで会社を辞めるつもりなんてさらさらなかった。でも、諦めきれなかったんです。これをやらないと後悔すると思った。
我々のシルクがどういう素材かというと、カイコの絹糸を構成するタンパク質からセリシンを除去してフィブロインのみを分離、精製したものです。アミノ酸やペプチドに分解されないようにする製法を取っているため、分子量として約25万の高分子とともに、特有の多孔性の3次元構造が維持されています。そのため、摂取すると、食事などから体内に取り込まれた余分な脂質や糖質などを吸着し、体外に排出する。そういう作用メカニズムを持つと考えられています。開発したのは、カイコやシルクの研究で知られる農学博士の長島孝行先生(元東京農業大学農学部教授、現ヤマザキ動物看護大学生物機能開発学分野教授)です。
私はものすごく興味深い素材だと思ったし、将来性もあると感じた。シルクのイメージの良さも魅力的だった。だから東洋発酵ではやれないことが正式に決まった後、「もう自分でやらんとしゃあない」と覚悟を決め、現在も顧問を務めてもらっている長島先生から製法に関する特許権を譲り受け、起業しました。タイミングの悪いことに、私の決断がその特許の成立後だったから、かなりの額になりました。成立前だったら、もっと安かったのですけどね(笑)。
苦労した協力工場探し「今でも恩に感じる」
──原材料販売は一切せず、シルクを配合したスティック状ゼリーのOEMや卸売販売などに特化しています。
吉川 販売開始からしばらくは、原材料供給の引き合いが沢山ありました。ある化粧品の大手メーカーからも。ですが、全て断ってきました。あくまでも当社のオリジナル素材としてやっていきたかったから。我々が供給しないものだから、自ら作ろうとした先もありました。しかし、我々のシルクは簡単に真似出来るものではないんです。
製法に関する特許を持つ我々だって、実際に作って、販売できるようになるまで本当にしんどかった。特許の製法はラボで実証されたもので、当時、工場の実機では誰も試したことがなかったんです。シルクを500mlのビーカーで作るのと、5tのタンクで作るのとでは、熱伝導にせよ、何にせよ、全く異なる。だから商業的に生産できるようにするために、どれだけ原料を駄目にしてきたことか(笑)。ですから、我々のシルクの製法は、我々と、我々の協力工場が独自に作り上げていった。そのため、特許の更新はあえてしませんでした。シルクは今後も我々だけのオリジナル素材であり続けるはずです。
それに、製造委託先、つまり協力工場ですね、それを国内で見つけ出すのがさらに大変でした。工場が見つかる前に、1トン分の原料を海外で購入して、横浜の倉庫に保管してあった。工場はすぐに見つかると思っていたんですよね。でも、現実は全く違った。なぜ工場探しに苦労したかというと、製造工程に限外ろ過があるのですが、それをシルクでやった実績のある先がなかったんです。ことごとく断られてしまった。やってくれそうなところがあっても、チューブやフィルターなどをダメにしてしまう可能性があるから、試作コストがバカ高くなってしまう。
そんな想定してなかった状況に「どないしよう」と途方に暮れていたのですが、たまたま知り合い、手を差し伸べてくれたのが現在の愛知の協力工場です。偶然にも、現社長の学生時代の卒論テーマがカイコだった。だからシルクに興味をもってくれて、「やってみましょう」と。「コストの負担は折半で構わない」とも言ってくれた。その後も製法の検討や調整を繰り返すことになるのですが、今の協力工場と出会えていなかったらどうなっていたことか。あれから20年が経ちますが、今でもとても恩に感じています。
──私はドクターセラムのことを昔から知っているのですが、外から見ている限り、シルクの販売はずっと好調であったように思えます。大手のチェーンエステティックサロンがすぐに採用していましたし。
吉川 そのエステティックサロンも含め、多くの方々が我々のシルクを長年販売してくれています。有り難いことです。
そのように長く採用し続けてくれている理由の1つには、販路を絞ったことがあると思っています。我々は当初からシルクの販路をエステティックサロンやネットワークビジネスなどのいわゆる「クローズドマーケット」に絞った。そこは今でも原則として変えていない。そもそも、販売価格が1万円を超えるような商品は、ドラッグストアや通信販売などのオープンマーケットには向かないですよね。それに、クローズドマーケットには、商品説明が可能であるという大きな強みがある。そういったマーケットの特性と、我々のシルク独特の特性が上手くはまったからこそ、20年も続けることができているのだと思います。
シルク、「健康増進に必ず貢献できる」
──確かにそうですね。あと、実際に消費者がシルクの良さを実感していることもありそうです。何らか体感できなければ、20年も続きません。
吉川 そうですよね。実際、シルクの販売を始めた当初から、体感があるという評価を沢山いただいていました。実際に数値が改善したという声も。しかし、そういった個人的な体験に頼っているだけではダメだと思い、我々がOEMなどを通じて販売しているシルク配合ゼリー、つまり最終商品としての有効性を科学的に確かめるようになった。体感の声を裏付けるエビデンスを得ようということです。これまでに我々が医療機関と連携して行ったヒト試験の被験者数は、2,000人を優に超えています。
──シルクを機能性表示食品にしようともしました。
吉川 それまでのヒト試験データだったり、シルクが持つ特性だったりを踏まえ、脂質代謝の改善に関する機能を表示できるようにしようと考えました。健常者を対象にしつつ最終製品を使った臨床試験を実施し、最終的に3報の査読付き論文を用意した。そのうち1報は安全性に関するものです。しかし、差し戻しが繰り返されてしまった。その都度、届出資料の内容を修正したり、データを追加したりしながらの届出を続けました。しかし終いには不備指摘の内容が最初の差し戻し時の不備指摘の内容に先祖返りした。指摘に応じて修正し、その後の届出ではそこについて何も言われていなかったにもかかわらず、我々としてはこれでもう大丈夫という段になって、また不備があると言われたのです。数年の時間を掛けたのにこれです。だから、もう続けても仕方ないと。
ですが、機能性表示なんかどうでもいいと考えている訳ではないです。以前から検討しているのですが、まだ誰も実現できていない腎機能に対するヘルスクレームを行えないかと。シルクには腎機能を正常値に戻す働きのあることが、これまでの試験で示唆されています。あとは、病者ではない被験者を対象にした臨床試験を行うこと。そこで有効性を確認できれば、届出の可能性はある。その時が来れば、実行したいと思っています。またお金がかかりますけどね(笑)
──次の10年、設立30周年に向けた展望を聞かせてください。
吉川 今後もクローズドマーケットでやっていきます。オープンマーケットには出ていかない。会社を末永く続けていくために大切なのは、過剰に欲張らないことですよ。それに、我々のシルクは国民の健康増進と医療費削減に貢献できるのだということを強く訴えていきたい。そう訴えることができる根拠は、継続してきた試験から得られています。シルクに限りませんが、我々は引き続き最終製品としてのエビデンスを積み上げていきます。
──ありがとうございました。
【聞き手・文:石川太郎】
(文中の写真:ドクターセラムの主力製品『セラム‐シルクフィブロイン』。同社独自素材のシルクフィブロインを配合したスティックゼリー状の健康食品)
<COMPANY INFORMATION>
所在地:東京都渋谷区道玄坂1-22-8 4F
TEL:03-5728-8825
URL:http://www.dr-serum.com/
事業内容:健康食品、化粧品などの企画製造販売