経産省の研究開発補助事業に採択 3年間で約1億円、進化版SAC高含有ニンニクエキス末
今年から3年間累計で9,750万円の研究開発補助金が国から交付されることになった機能性食品素材がある。現在、機能性表示食品の機能性関与成分としても届け出されているニンニクに由来するものだ。補助金を活用した研究開発の出口としては、有効成分の高含有化、基礎から臨床までの研究を通じた機能性の検証、そして機能性表示食品から一般加工食品までの幅広な市場開拓──などが想定されている。
備前化成、岡山県内の大学らと連携
「抗炎症食品としてのSAC高含有ニンニク粉末の開発」。中小企業などが大学等と連携して行う研究開発や製品開発などを支援する経済産業省の成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事)の2024年度予算で、申請230件のうち採択された115件に含まれる開発事業の名称だ。
SACとは、ニンニクにごく微量含まれる含硫アミノ酸の一種、S-アリルシステインのこと。さまざまな生理活性を持つと報告されている成分だ。同成分を高含有し、抗炎症機能を持つニンニク抽出物(エキス末)の研究開発事業に3年間で1億円近い補助金が拠出されることになった。
この開発事業を経産省に応募し、事業管理するのは(公財)岡山県産業振興財団。主たる研究実施企業は、岡山県赤磐市に本社と工場を置く、医薬品原薬及びサプリメント・健康食品メーカーの備前化成㈱(清水富江社長)である。同社と連携する大学研究機関には、岡山県立大学、岡山大学、日本大学の3機関が名を連ねる。
備前化成は、サプリメント・健康食品に関して、最終製品の受託製造(OEM)とともに、原材料の開発及び製造販売を手がける。現在製造販売している原材料の中には、SACを高含有させたニンニクエキス末があり、機能性表示食品にも利用されている。訴求されている機能性は、一時的な精神的・身体的疲労感の軽減。また、同社が届出手続きを現在進めている新規のヘルスクレームとして、睡眠の質の改善がある。今回、Go-Tech事業に採択されたのは、そのSAC高含有ニンニクエキス末にイノベーションを起こし、いわば「進化版」を研究開発しようとするものだ。
SAC高含有化と抗炎症機能の追求
どのように進化させようとしているのか。まず、SACのさらなる高含有化である。
現行品のSAC含有量は1gあたり10mg。同社は、「SACLATION」と名付けた酵素・酵母を活用した独自発酵技術を開発し、生のニンニクには1gあたり0.05mg程度しか含まれないとされるSACを200倍以上に高める製法を実用化させた。この技術を活用して現行品は生産されているのだが、進化版では、同技術を改良、変更することで1,000%、つまり1gあたり50mgまでSAC含有量を高めることを目指す。
SAC含有量をさらに高めることで、最終製品化した時の摂取量を大幅に減らせることができ、消費者が摂取しやすい商品を開発できる。さらに製造コストの削減にもつながる。もっとも、原材料の生産コストが大幅に高まってしまうとコスト削減効果は失われるが、同社は大きな設備投資をせずに、現行品比5倍のSAC含有量を実現しようとしている。
次に、SACに報告されている抗炎症機能の追求だ。岡山県立大学らと連携し、脳内から全身までの抗炎症機能を検証する基礎研究を進め、動物試験で示唆されているSACが血液脳関門を透過するメカニズムの解明なども含めて実施する計画。最終的には、認知機能の改善や慢性炎症の抑制に働くかどうか検証するヒト試験を行い、論文発表のうえ、「進化版」SAC高含有エキス末の抗炎症機能、それに伴う脳や全身の健康維持・増進機能、さらには老化抑制に関する科学的な根拠を得たい考えだ。その上で最終的に、機能性表示食品などとして食品市場に展開できるようにすることを目指す。
「新SACLATION技術」実用化がカギに
以上が、本年度の経産省Go-Tech事業に採択された「抗炎症食品としてのSAC高含有ニンニク粉末の開発」事業のあらまし。同事業のプロジェクトリーダーを務めることになった備前化成の丸勇史・研究開発本部長(農学博士)は、「老化にも関わる炎症性疾患の抑制に食品成分で貢献するための研究開発事業になる」と、今年から3年間続く研究開発に向けた意気込みを語る。
この研究開発事業を成功へ導くカギは、SAC含有量をさらに5倍高めるための「新SACLATION技術」の開発に成功し、実用化させられるかどうかにかかっていると言えそうだ。丸氏によれば、同技術はSAC以外にも、植物などの天然物全般を基原材料とする機能性成分の濃縮や粉末化に応用できるという。実用化できれば、同社が保有するサプリメント・健康食品の原材料製造に関する基盤技術の底上げにもつながる。
【石川太郎】
(冒頭の画像:SACの化学構造式/文中の写真:備前化成が本社敷地内に昨年末竣工した新社屋。開発部や品質保証部などの研究開発・品質確認部門を集約した「イノベーションセンター」を1階に置く。同社提供)
関連記事:備前化成、SACを新ステージへ さらなる高含有化と認知機能領域への進出めざす
:医薬品原薬も製造する備前化成 原材料から最終製品まで全6工場でGMP適合
:原材料メーカー兼OEMメーカーの強み 機能性関与成分「SAC」で発揮