キユーピー、シリーズ誕生から25周年 『キユーピー やさしい献立』作る手間を省き、その時間を大切な人との会話に
「口から食べる、をあきらめない」をコンセプトに開発、販売している『キユーピー やさしい献立』シリーズ。現在の主な顧客層は噛む力や飲み込む力が衰えたシニアエイジ層だが、ほかにも病中病後や健診検査前の補助食的な用途にも需要の可能性を持っている。シリーズ担当のキユーピー㈱家庭用本部 調理食品部 育児・介護チーム チームリーダーの井口直樹氏(=写真)に、25周年を迎えた現在の取り組みと、その今後について話を聞いた。
「食べやすさ」を分かりやすく、4つの区分でカテゴライズ
キユーピーの健康ケア商品『ジャネフ』ブランドから、日本初の市販の家庭用介護食として開発され、その後1999年に『やさしい献立』シリーズに刷新。今年で25周年を迎える。在宅介護の高齢者向けの介護食品で、食品量販店やドラッグストアのほか、Amazonなどの通販サイトでの売上も増えてきている。
「現況は売上の8割が家庭用で、2割が介護施設など業務用で利用されています。購入の動機として大きいのは、やはり手間をかけずに温めてすぐに召し上がってもらえること。さらに日本介護食品協議会が定めるユニバーサルデザインフード(UDF)の区分に従い、固さや粘度に応じて日常の食事から介護食まで幅広くお使いいただける、食べやすさに配慮した食品であることです。同じシニア世代といっても80代後半で固いせんべいをばりばり食べられる方もいれば、60代後半で多くの歯を失われている方もいます。それぞれの事情は異なるので、『容易にかめる』、『舌でつぶせる』など4つの区分を目安にして購入できるのは大きいと思います。さらにおいしさにもこだわってきていまして、どんなに手軽でコスパ、タイバに優れていても、おいしくなければ継続して購入してもらえません。そのため、そこには常に注力を行っています」
新商品の開発時には、常に今の嗜好に合わせる工夫も
開発段階ではえん下が困難な人にも実食してもらい、その感想を基に商品化を進めている。しかし機能は落ちていても好物であれば食べられるなど、人によって実態はさまざま。その中からいかに最大公約数を探していくか、それが新商品を出すたびに頭を悩ませるポイントとなっているそうだ。
「1食分のカロリーのほか、タンパク質やビタミンなどの表示も行っています。あまり機能的なところに振り過ぎてしまうと、味自体を損なうところもありますので、そのバランスをどのように取るのかが本当に難しいのです」
現在、商品の品目も54種類、その中身も主食のご飯からおかず、デザート系まで幅広くラインアップされている。「世代が移り変わると味覚も微妙に変化するので、常に時代に則したメニューを揃えるようにしている」(井口氏)とのこと。とはいえ、これだけの品数が揃えられるのも、食品大手メーカーならでは。パスタや各種ソースなどはもちろん、育児食まで製造する部門のほか、アヲハタなどグループ企業のシナジーなども活用することで豊富な品揃えが可能となっているようだ。
用途は介護食に留まらず、多様な可能性を秘めている
今後の商品展開について聞くと、「まずは認知をより広めること」とのこと。
「おいしさも含めて、実食してもらって初めて商品価値を感じてもらえるものです。販売チャンネルとしては高齢者主体ということもあり、食品量販店などより通販で自宅まで届けてもらえるサービスを行う事業者の方が、この商品には親和性が高いのかなと感じています。その一方で、コロナ禍においては、自宅療養中の方に自治体からの求めにより『やさしい献立』を納入、また年初の能登半島地震の折にも被災地の支援物資としての需要がありました。そんな機会に実食された方が、引き続き食事用にと購入されています。やはり実食の機会創出がとても大事だということですね」
さらに今後の需要の可能性という点では、例えば歯科で虫歯の抜歯を行った後や、体調がすぐれない時の食事として、などもありそうだ。また、リンゴや桃の「すりおろし」タイプの商品では、朝食にヨーグルトと一緒に取る、あるいは飲酒後の締めとしての『雑炊』なども、認知さえ広がれば、それぞれのライフスタイルによって用途はさまざま膨らんでいきそうだ。
今の時代性に合わせ、労力や心の負担軽減に
「私どもも、やわらかく加工された商品があるという認知啓発は、今後もいろんな機会をとらえて訴求していく予定です。介護のあり方についても、若者人口が減少した現在、一からつくるのではなく、介護する側が労少なく、介護される側も心の負担なく食事を楽しめる、そんな時代性に合ったスタイルになっていくのではと思っています。その中で『やさしい献立』を提供する私たちは、作る手間を省くことで、家族や友人など会合する方々とコミュニケーションを取る時間に、温かい気持ちになれる時間創出のもとして使ってもらえればとの思いがあります。日々の介護は大変ですから、大切な時間を作るために手抜きではなく、手間を省く、そんな意識で利用してもらいたいですね」
幸せな食卓のイメージは人それぞれだろうが、一からご飯を炊く、おかゆをつくるその時間をもっと大切な人とのコミュニケーションに使ってほしい――井口氏やそのチームスタッフはそんな思いを胸に、これからも商品開発を続けていく。
また同社では、「やさしい献立」シリーズを使用したさまざまなアレンジレシピを提案している。正月に家族団らんのシーンを想定した「おせち料理」のアレンジレシピ実例。『海老だんごのかきたま』、『肉じゃが』などはそのまま、黒豆風では『アヲハタ 黒胡麻クリーム』とシリーズの『なめらかおかず 大豆の煮もの』を、また伊達巻は『なめらかおかず 白身魚と野菜』とキユーピーマヨネーズなどを使用して調理。これらのアレンジレシピは同商品サイトで紹介されている。
【堂上 昌幸】
(文中の写真:2022年に消費者庁の特別用途食品 えん下困難者用食品 とろみ調整用食品の許可を取得した『とろみファイン』、下の写真:『やさしい献立』シリーズの現行品と同シリーズを使用したし「おせち料理」のアレンジレシピ実例/いずれも同社提供)