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オートファジー研究成果、社会実装の鍵 実際に人で活性高まるか、評価方法の確立めざす

 オートファジーを活性化させる機能が「ある」と言うためには科学的根拠が必要になる。それを得るための活性評価方法はどの程度確立されているのだろうか。人で確かめることも可能か。世界的なオートファジー研究者である吉森保・大阪大学大学院医学系研究科特任教授(保健学専攻=写真)にオンラインで取材した。(聞き手・文:石川太郎)

──サプリメントに利用されている植物など天然物由来成分の中には、オートファジー活性化機能があると言われているものがあります。吉森さんも著書でいくつか紹介していますが、どのような評価方法で活性を確かめているのでしょうか。

吉森 ヒト由来の培養細胞を使って評価しています。人間はおよそ37兆個もの細胞からできている。1つひとつの細胞が生きていて、その中では、人間の「社会」のような複雑な仕組みが動いています。細胞には、目の細胞、胃の細胞、脳の細胞などとさまざまな細胞があって、細胞それぞれに役割がありますが、人間を作る全ての細胞の中で働いている仕組みがオートファジーです。物質の名前ではありません。ですから、培養細胞の中でオートファジーが実際に働いているかどうかを調べています。

 オートファジーが細胞の中で何をやっているかをひと言で言うと、細胞のメンテンナンスです。細胞に不具合が生じると病気になる。だから人が健康であるということは、細胞が健康であるということです。そのように、細胞が健康な状態を保つために、オートファジーは細胞内のミトコンドリアなどの細胞小器官と呼ばれる構造体やその他のさまざまなタンパク質などを分解しながら細胞の中をいわばリサイクルしています。要するに部品を入れ替えながら新品の状態を保っている。それがオートファジーの重要な役割の1つです。

 もう1つ重要な役割があって、ウイルスや細菌などの病原体が細胞の中に現われると、それを選択的に分解します。つまり防御反応です。免疫細胞も侵入してきた敵をやっつける役割がありますが、細胞の中にまで敵に入り込まれてしまうと手を出せない。しかしオートファジーが正常に働いている細胞は、自分で自分の身を守れるわけです。それだけでなく、細胞の中で壊れてしまった細胞小器官や、有害なタンパク質、例えば神経変性疾患の原因になるような有害なタンパク質だけを狙い撃ちして分解することも出来ます。オートファジーは細胞の中でそのように人間の健康にも直結する重要な役割を果たしています。

 オートファジーの仕組みを簡単に説明すると、オートファゴソームと呼ばれる膜でできた構造が細胞内に現われ、若い人はご存知ないかも知れませんが、「パックマン」のように細胞内のタンパク質などの物質を包み込み、リソソームと呼ばれるいわば分解・リサイクル工場まで運んでいきます。このパックマンが細胞内で少ししか発現(作られること)していないような状態は、オートファジーが低下している。加齢とともにそうなっていくことも分かっています。

──逆に、パックマンの発現量が多いと、オートファジーが活性化されていると言える?

吉森 たくさん発現されたとしても、細胞の中を正常な状態に保つには、分解できていないとダメです。オートファジーが活性化されているかどうかを正しく評価するには、分解のところまで調べる必要がある。専門用語では「オートファジー・フラックス・アッセイ」と言うのですが、私たちが開発したオートファジー活性評価は、オートファゴソームの数だけではなく、分解まで進んだかどうか、つまりオートファジーが進行したかどうかを正確に測定できます。そうです、正確に定量できるということです。オートファジー活性評価は私たちが開発した方法以外にはないということはありませんが、我々の方法が世界的に最も信頼されていると思います。

──オートファジーの活性を調べられるようになったのは、吉森さんの研究チームが「LC3」というタンパク質を発見したのがきっかけだったそうですね。

吉森 哺乳類のオートファゴソームに結合し、オートファジーのために働くタンパク質です。オートファゴソームにくっつくということは、オートファジーの目印になる。タンパク質を光らせる技術を使うことで、オートファジーが進行していく様子を蛍光顕微鏡で観察できるようになりました……

(続きは会員のみお読みいただけます。残り1,767文字。続きは「会員ページ」の「月刊誌閲覧」内「Wellness Monthly Report」2024年9月号(75号)の特集「オートファジー、その将来性を探る」から)

プロフィール
吉森 保(よしもり たもつ):生命科学者、専門は細胞生物学。医学博士。1981年大阪大学理学部生物学科卒。96年オートファジー研究でノーベル生理学・医学賞受賞(2016年)の大隅良典博士が国立基礎生物学研究所に立ち上げたラボに助教授として参加。2010年大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科教授。2017年大阪大学栄誉教授。19年ベンチャー企業Auto Phagy Go創業。24年3月大阪大学を定年退職。同年4月より現職。

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