2020年はGM食品からゲノム編集食品への分岐点か!?(前)
食生活ジャーナリストの会 代表幹事 小島 正美
遺伝子組み換え食品(作物)が1996年に国内外で流通し始めて25年が経った。当初こそ大きな話題になったが、ここ数年、ニュースの頻度は非常に少ない。論点を日本国内に絞れば、研究開発にせよ、世間の話題にせよ、2020年は遺伝子組み換え(GM)食品からゲノム編集食品に切り替わる分岐点になったのではないか。
<GMでない大豆の奪い合いが激化>
主要6紙(毎日、朝日、読売、産経、東京、日経)で2020年に「遺伝子組み換え」(ゲノム編集は除外)に関して、どんな記事があったか」を検索した結果、44件がヒットした。中身を見ると、コロナに関連する遺伝子ワクチンなど医療関係の記事が大半を占めた。タイから輸入されている「遺伝子組み換えでできた光る熱帯魚」の販売中止を求める環境省の動きもニュースになっているが、いま世界で広く普及している遺伝子組み換え作物(以下GM作物)の動向に関するニュースはほとんどない。
日本国内に目を転じても、GM作物を栽培する動きは全くなく、関心はもっぱら「組み換えではない大豆や菜種などをどうやって海外から調達するか」に移ってきている。メディアの記者は、「だれかがGM作物を栽培した」とか「新種のGM作物が国内で誕生した」とか、何か新しい動きが生じたときに初めてニュースを書くが、そういう新たな動きは全くない。動きがなければ、ニュースが出てこないのも当然である。
最近のニュースで目にとまったのは西日本新聞の「揺らぐ『安心な豆腐、納豆』の足元 “非遺伝子組み換え”作物の取り合い激化」(20年11月4日付)。日本国内では豆腐や納豆などの大豆加工食品は組み換えではない大豆が使われ、「組み換えではありません」との表示で販売されている。海外でGM作物がますます増えていく中で、日本はこれまでのように非GM大豆を調達することが困難になっているというのがこの記事の要旨だ。全くその通りだ。
ご存じのように、日本は米国やカナダなどから、大豆、菜種、トウモロコシ、綿を大量に輸入しており、その約9割は組み換えだ(図参照)。GM作物を栽培する海外の生産農家たちは、これまで「農薬が節約できる」「収量が増える」「労力が大幅に削減できる」「土壌の流失が防げる」などのメリットを実感してきた。いくら日本の消費者(もしくは輸入事業者)が「余分に割増金を払うので、組み換えではない大豆をつくってほしい」とお願いしても、農薬の節約にならない非組み換え大豆の栽培に興味を示さない。GM大豆と非GM大豆が混じらないように手間暇かけた分別管理を強いられるのもゴメンだという気持ちも強いはずだ。
<厳しくなる「組み換えではない」表示の要件>
非GM大豆の調達の困難さに追い打ちをかけるのが、日本の表示制度の一部変更である。これまでは組み換え原料が混じる割合が「5%以下」なら、「組み換えではない」と表示できたが、23年からは、「組み換えでない」と表示するための要件が厳しくなり、「不検出」となる。
つまり、現状では「組み換えではない」と表示されていても、元の組み換えDNA(またはタンパク質)が1%以下の割合で混入していることが実際にある。しかし、今後は「検査で不検出」が表示要件となる。このため、事業者は組み換え原料が非組み換え原料に混じらないよう相当に厳しい流通工程管理が要求される。今後、分別管理の費用が上がることは必至で、非組み換え大豆を調達するコストは間違いなく上がることが予想される。
<GM作物は受難の歴史>
96年からの過去を振り返ってみても、国内のGM作物の歴史は受難の連続だった。同年に愛知県農業総合試験場が旧モンサント社と共同で除草剤をまいても枯れないGMイネを研究開発しようとしたが、市民団体の強い反対に押され、3年後に中止。市民団体の勝利に終わった。
2000年には米国から輸入された飼料用トウモロコシから未承認のGMコーンが見つかり、イメージは一気に悪化。さらに05年以降、北海道を皮切りにGM作物の栽培を実質的に禁止する条例が全国の自治体に広がっていった。GM作物を日本で栽培しようとした生産者団体「バイオ作物懇話会」の農家が茨城県内でGM大豆の試験栽培を試みたが、その畑は反対派によってつぶされた。その後、生産者側の動きはぴたりと消えた。
一方、農水省は「家畜が食べる飼料用のイネなら、受け入れられる」とみて、GMイネの栽培計画をたてていた。ところが、09年に民主党の政権が誕生し、その計画は振り出しにもどった。以来、国によるめぼしい栽培計画はGM花粉症緩和米を除き、復活していない。
(つづく)