食品表示制度見直しの全体像示す 消費者庁、個別ルール整理・アレルギー・FOPNLを説明
消費者庁(事務局)は19日、第2回「令和7年度食品表示懇談会」を開催し、食品表示制度見直しの検討状況を示した。会合はオンライン配信を併用して行われ、傍聴者が500人を超えるなど、制度改正への関心の高さが浮き彫りとなった。
事務局は、個別品目ごとの表示ルール整理、食物アレルギー表示の見直し、デジタルツール活用、日本版包装前面栄養表示(FOPNL)を主要論点として説明し、今後の制度設計とスケジュールを明らかにした。
冒頭、2025年度(令和7年度)食品表示懇談会が、23年度(令和5年度)に取りまとめた「今後の食品表示が目指す方向性」を踏まえ、昨年度から継続している分科会での検討を基盤として進められていることを説明した。今年度は、個別品目ごとの表示ルールの見直しと、食品表示へのデジタルツール活用に関する検討を主要な柱として位置付けている。
個別品目表示ルール、横断基準へ整理
個別品目ごとの表示ルール見直し分科会における検討結果を中心に報告した。分科会は、食品表示基準の別表に残る旧JAS法由来および旧食品衛生法由来の個別ルールについて、横断的な表示基準への統合を基本方針として検討を進めてきた。
現行制度には依然として品目ごとのばらつきが存在しているとし、具体的には、原材料表示の特例規定、内容量表示の独自ルール、強調表示に関する規定、表示禁止事項などが一部品目に残存している状況を示した上で、制度全体としての整理が必要であるとの認識を示した。
また、令和6年度に20品目、令和7年度に22品目の見直しを行った結果、2年間で合計8品目について個別表示ルールをすべて廃止し、横断ルールへの統合を完了したと説明した。事務局は、この見直しが単なる削減ではなく、消費者にとって分かりやすく、事業者にとっても運用しやすい表示制度を構築するための整理だと位置付けた。
具体例で示した見直しの考え方
具体的な見直し事例として複数の品目を挙げて説明した。ドレッシング類については、「ノンオイルドレッシング」を定義に明確に位置付け、一括表示での記載を可能とすることで、分類の簡素化を図ったと説明した。
また、食用植物油脂については、包括的な定義に改めることで、えごま油やアマニ油など新たに流通が拡大している油脂にも対応できる制度設計としたと説明した。ソーセージのケーシングについては、従来省略されていた原材料表示を見直し、より実態に即した表示となるよう運用改善を図ったとした。
事務局は、これらの見直しに当たり、各業界団体へのヒアリングを実施し、制定の経緯や消費者要望を踏まえた上で検討を行ってきたことを強調した。
今後のスケジュールについても説明した。今回報告した内容を踏まえ、準備が整い次第、パブリックコメントを実施する。その後、消費者委員会の食品表示部会での審議を経て、食品表示基準内閣府令の改正を行う方針だ。
経過措置期間については、昨年度改正分と統一し、令和12年3月31日までとする考えを示した。事務局は、施行時期や経過措置期間を極力そろえることで、事業者にとっての予見可能性を高めることが重要であると説明した。
説明の後、委員による意見交換が行われた。意見交換では、個別品目ごとの表示ルール見直し、食物アレルギー表示の改正、食品表示へのデジタルツール活用に関する分科会の取りまとめを中心に、多角的な議論が交わされた。
はじめに、旧JAS法由来の個別品目ごとの表示ルール見直しについて意見が出された。委員からは、2年間にわたり各品目ごとに関係団体から丁寧なヒアリングを行った点について評価が示され、今後も横並びの調整などについて、可能な範囲で関係団体の意見を聞きながら検討を継続するよう要望があった。これに対し、事務局は、引き続き検討を進めていく考えを示した。
表示内容に関する具体的な確認も行われた。柑橘類の表示については、品目名として「柑橘類」と記載できる場合であっても、アレルギー表示との関係では、特定原材料に準ずるものとして位置付けられているオレンジについては、別途「オレンジ」と明記する必要があることが確認された。また、ドレッシング類の表示については、従来の表示パターンと見直し後の新たな表示パターンのいずれも選択できる運用であることが説明され、委員の理解が示された。これらを踏まえ、旧JAS法由来の個別品目ごとの表示ルール見直し案は了承された。
続いて、旧食品衛生法由来の個別品目ごとの表示ルール見直しについて意見交換が行われた。事務局は、旧食品衛生法由来の表示事項が、食品表示基準に移行する過程で横断的な義務表示事項と重複してきた経緯を説明した。その上で、食品衛生上の必要性や消費者への情報伝達の観点から、表示事項を分類し、維持すべき事項と廃止可能な事項を整理した考え方を示した。
アレルギー表示とデジタル活用の方向性
次に、食物アレルギー表示の改正について意見が交わされた。事務局は、全国実態調査の結果を踏まえ、カシューナッツを特定原材料(義務表示)に追加し、ピスタチオを特定原材料に準ずるもの(推奨表示)に追加する方針を説明した。カシューナッツについては、症例数の増加傾向が確認されていること、検査法の開発が完了していることから、義務表示化が適当と判断したとした。また、義務表示化にあたっては2年の経過措置を設けることも示された。
これに対し、委員からは、特定原材料等の対象品目数が29品目になることについて、過去に示された「28品目を目安とする」という考え方との関係を問う意見が出された。特に、削除の考慮事項を満たす品目があるのではないかとの指摘や、表示の予見可能性への懸念が示された。一方で、件数だけでなく症状の重篤性や治療方針の観点から判断すべきであるとの意見や、生命に関わる表示である以上、安全側に立って必要な品目を追加すべきであるとの意見も出された。事務局は、28品目はあくまで目安であり、専門家会議での検討結果を踏まえ、安全性を重視した判断であると説明した。最終的に、食物アレルギー表示の改正案は了承された。
後半では、食品表示へのデジタルツール活用検討分科会の取りまとめについて意見交換が行われた。事務局は、デジタルツール活用は容器包装表示を代替するものではなく、補完的な手段として事業者が選択できる制度とする考え方を説明した。データ管理については分散管理方式を採用し、消費者はスマートフォンで二次元コードを読み取って情報にアクセスする方式とする方向性が示された。また、一対一対応の方法として、直接表示に到達する方式と商品ページを経由する方式の双方を許容する考えが示された。
さらに、分科会の取りまとめスライド資料に含まれる「ビジョン図」について、分科会での慎重な議論と異なる印象を与える恐れがあるとの指摘があった。これに対し、事務局および座長から、当該図は最終形ではないことを明記した上で公表する対応を取る考えが示された。
意見交換を通じて、デジタルツール活用については、技術的な方向性の整理とともに、消費者ニーズや日本独自の表示文化を踏まえた基準整理の必要性が共有された。今後、令和8年度以降に向けて、事務局がガイドラインの作成や具体的な制度設計を進めていくことが確認された。
以上の意見交換を経て、当日の議題はいずれも了承され、食品表示制度を巡る今後の検討の方向性が改めて確認された。
FOPNL年度内公表へ、今後も議論継続
消費者庁は、日本版包装前面栄養表示(FOPNL:Front of Pack Nutrition Labelling)に関する検討状況について説明し、これまでの検討経緯、ガイドライン案の内容、パブリックコメントへの対応、ならびに今後の対応方針を示した。
検討の過程では、6月に消費者アンケートを実施し、その結果を踏まえて7月29日の第1回検討会でガイドライン案と表示様式を提示した。さらに、9月22日~10月21日にかけてパブリックコメントを実施し、219項目の意見が寄せられたことを報告した。これらの意見については、12月3日に開催された第2回検討会において考え方を整理し、ガイドライン案を取りまとめたとしている。
委員からは、包装前面栄養表示は単なる表示にとどまらず、消費者教育の媒体としても機能し得るとの指摘があった。食塩相当量の表示や1食分当たり表示を通じて、消費者が自らの食生活を見直すきっかけとなることへの期待が示された。また、事業者や消費者に対する丁寧な周知の必要性についても意見が出された。
これらの議論を踏まえ、日本版包装前面栄養表示ガイドラインを来年3月までに公表する予定だと説明した。今後は、ガイドラインの周知・啓発を進めるとともに、取り組み状況や利活用の実態を注視し、必要に応じて見直しを検討していく方針を示したとしている。
消費者庁は今後、個別品目ごとの表示ルールの見直しに加え、食物アレルギー表示の義務化に向け、本年度内の基準改正に必要な手続きを進める方針を示した。制度改正に向けた具体的な検討と手続きを 着実に進め、食品表示制度の実効性向上を図る考えだ。
また、日本版包装前面栄養表示(FOPNL)ガイドラインについても、本年度中の公表を目指し、所要の手続きを進めるとしている。消費者が栄養成分情報をより分かりやすく理解できる環境整備を進めることが狙いのようだ。
2025年度は、昨年度から設置された2つの分科会、「食品表示に関する分科会」および「食品添加物に関する分科会」について、いずれも年間活動報告書の提出をすでに終えており、これにより、分科会における議論は一区切りを迎えた。
一方、消費者庁は、食品表示懇談会において23年度に取りまとめられた内容を踏まえ、来年度以降も引き続き食品表示懇談会での議論を継続する方針を示した。制度を巡る課題や社会的要請の変化に対応しながら、継続的な検討を行う必要があるとの認識を示している。
【田代 宏】
配布資料はこちら(消費者庁HPより)











