連載・美容食品素材の今(5)
機能性表示めぐる動き 広がったヘルスクレーム
届出全体のおよそ1割
美容領域の機能性表示食品の届出件数は累計で約500件(4月12日時点。取り下げ含む)。全体では約5,300件(同)だからおよそ1割を占める。
そのうち、機能性関与成分として最も多く届け出られているのがグルコシルセラミドで累計134件、次いでヒアルロン酸Naが80件、アスタキサンチンが70件と続く。
他にも、GABA、カツオ由来エラスチンペプチド、サケ鼻軟骨由来プロテオグリカン、N-アセチルグルコサミン、植物性乳酸菌K-1、パプリカ由来キサントフィル、ベータカロテン、リコピン──などが届出されていて、美容領域の機能性関与成分は数が多い。
一時期、コラーゲンペプチドを追い落とすかのような盛り上がりを見せたプラセンタも、豚プラセンタ由来ペプチド(グリシン-ロイシン、ロイシン-グリシン)の機能性関与成分名で複数の届出が行われている。
一方、美容食品素材の「横綱」であるコラーゲンペプチドの肌領域における届出件数は現在30件未満とやや寂しい数字。制度施行前から一定の科学的根拠を備えていたにもかかわらず何故だろうか。
保湿一辺倒からの脱却
一口に「美容」といっても、消費者が肌に対して求める機能は1つではない。その中で、美容領域の機能性表示食品のヘルスクレームとして最も多く届け出られているのは「保湿」関連。それに偏っている、とも言える。
肌のうるおいを求める消費者は少なくない。ただ、保湿関連の届出が最も多い背景には、消費者ニーズが反映されている以外にも事情がある。それ以外のヘルスクレームを行う届出が通らない状況が長らく続いたためだ。それがコラーゲンペプチドの届出が少ない理由の1つになっている。
なぜ、保湿以外の届出が通らなかったのか。肌に対する機能性を訴求することは、健康維持・増進の矩を超えていると見なされたからだ。一方、保湿については特定保健用食品のヘルスクレームとして許可されていた(2016年)。そのようにして保湿一辺倒とも言える状況が形成されていった。
しかし、保湿が肌の健康維持・増進の範ちゅうなのであれば、弾力も同様だと言えた。皮膚の弾力性が低下すると、シワの形成など美容的な問題以外にも、皮膚を守るバリア機能などの低下につながるとされる。
また、可能なヘルスクレームが保湿だけに限られてしまうと、弾力の維持などに関する科学的根拠を持つ美容食品の情報を消費者に伝えられない。その結果、根拠の定かでない広告宣伝を行う商品が市場に広がることで、健全な市場形成が損なわれていく。そうした負のスパイラルを危惧する意見が業界からも上がった。
広がった表示可能な領域
現在、美容領域の機能性表示食品のヘルスクレームは大きく3つに大別できるようになっている。
まず、「保湿」関連が1つ。そして、20年2月以降から、「弾力」に関わるヘルスクレームの届出がはじまった。
具体的には、「肌の弾力を維持し、肌の健康に役立つ」といったヘルスクレーム。弾力を維持することで役立つのは、あくまでも肌の健康であることを明示している点がポイントだ。
現時点の届出件数は約80件。そのうちコラーゲンペプチドを機能性関与成分にしたものが12件。まだまだ少ないが、肌の弾力維持を訴求できるようになったことで届出が増加傾向にある。
また、弾力に先んじて19年5月から、「紫外線」をめぐるヘルスクレームの届出もはじまっている。「紫外線刺激から肌を保護するのを助ける」といったもので、届出件数は75件。抗酸化機能のあるアスタキサンチンを機能性関与成分にした届出がめだつ。
届出件数が過去最高に
このように美容領域の機能性表示食品は、可能なヘルスクレームの領域が段階的に広げられてきた。そのためだろう、一時は減少傾向も示した届出件数は19年度以降、右肩上がりに増えている。19年度は76件、20年度は108件、そして21年度は約160件(4月12日時点。同年度分の届出公開は新年度を迎えてもまだ続いている)と過去最高を記録した。美容領域に限らず届出件数は増加傾向にあるが、新型コロナ禍を受けた美容食品市場の減少を懸念する声もある中、21年度は大きな伸びを示したことになる。
コラーゲンペプチドの届出件数が少なかった背景には、その名称から機能性まで高い認知度がある中、ヘルスクレームを行う必要性が疑問視されていたこともあっただろう。
だが、今では販売大手もコラーゲンペプチドを配合した主力の美容食品ブランドで届出を実施。イメージではなく具体的な表示を通じて機能性を訴求する。今後、サプリメント・健康食品で美容機能を訴求するには、機能性表示が必須条件に近い市場環境が形成されるかもしれない。
(了)
【石川太郎】