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通販業界が抱える課題と今後の展望(前)
コロナ前後で変わる通販市場、各社の動向

(合同)柿尾正之事務所代表 柿尾 正之 氏

コロナ禍におけるEC通販市場の状況
 

 新型コロナウイルス感染症による日本国内のこれまでの経緯を振り返り注目されるのは、日本政府が2020年4月22日に、専門家会議において「人と人との接触を8割減らすための10のポイント」を公表したことである。その中の1つに、「待てる買い物は通販で」が含まれ、とくにEC通販(物販)の市場拡大につながっていくことになる。もともとEC通販は、コロナ以前から市場拡大の途上にあったが、政府の施策による影響は、消費者のマインド、事業会社のEC通販に対する姿勢を後押しする意味でも分岐点となった感がある。 

 EC通販はその特長として物販、サービス、デジタルの3つの種類に分けられ、市場規模の内訳としてはおおむね52:37:11に分けられている。コロナ禍に入った20年のEC通販全体の売上高としては、サービス系に含まれるチケット等の旅行関連の売上が激減したことにより、物販の売上増加と相殺されて、ほぼ横ばいとなっている。その後、家計消費におけるEC通販の支出高は着実に増加しており、総務省統計局の調査によれば、22年1月における個人のEC通販支出額は、前年から15.3%増加して1万9,509円、一世帯当たりの支出額は同様に13.6%増加して3万7,015円となっている。いずれにせよ、全体としては収入が増えない中で、EC通販への支出は増加し続けている。

日本の通販市場の特長
 日本のEC通販の成長の前提として、日本特有の通販の特長があることを忘れてはならない。まず第1に、欧米先進国でしかみられない、カタログ通販、テレビ通販、そしてさまざまなメディアで展開される従来型通販の、いわば通販本流の流れがあったこと。そして、ここでの現在60代以上の利用者が、いわゆる単品型通販の主力顧客となっていることがあげられる。こうした、いわゆる高齢者に属する層は、消費の面でも全体をリードしている層とも言える。

 第2に、単品型通販。いわゆる商品ジャンルを絞り、1回限りでは利益は出ないが、ある程度の回数を購入してもらうことによって顧客との関係性を深く築いていくモデルは、実は欧米にはない日本型通販モデルと言っても良い。第3に、通販1人勝ちのような印象とは異なり、日本では日本チェーンストア協会の調べによる20年の店舗出店数は、対前年1.9%の伸びとなっている。つまり米国、中国のような店舗閉鎖、縮小がドラスティックに行われている状況とはやや異なり、ネット通販は伸びているが、店舗もそれなりに出店数を確保しているのである。これを5~10年ほど米国は先を行っている、または日本と米国の小売の状況がそもそも異なると解釈するか、私個人としては後者を採用したいと思っている。

(つづく)

<柿尾氏プロフィール>
1986年、(公社)日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。主に調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年に退任。同年、(合同)柿尾正之事務所設立。現在、企業顧問、社外取締役の他、コンサルティング、講演、執筆などを行う。日本ダイレクトマーケティング学会理事。

著書:「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数。
大学講師歴:早稲田大学大学院商学研究科客員准教授、関西大学大学院商学研究科、上智大学経済学部、駒澤大学GMC学部、東京国際大学商学部、他多数。

関連記事:通販業界が抱える課題と今後の展望(後)

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