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通知改正のポイントを聞く(前) 平成14・17年通知改正めぐる新開発食品保健対策室専門官との一問一答

 平成14年通知と平成17年通知はなぜ改正されなければいけないのか。両通知の改正ポイントはどこに置かれているのか。改正によって事業者は何を求められるのか──有識者で構成される薬事・食品衛生審議会をはじめ健康食品業界団体などの意見を聴取しながら改正案の作成を主導した、厚生労働省健康・生活衛生局食品基準審査課新開発食品保健対策室の一色聡志・健康食品安全対策専門官(=写真)に聞いた。前後編の2回に分けて掲載する。
(編集部注:この記事は『ウェルネスマンスリーレポート』2024年3月10日発刊号に掲載したものです。一色専門官の所属は現在、消費者庁食品衛生基準審査課です)

──そもそもなぜ2つの通知をほぼ同時に改正する必要があったのでしょうか。

一色 厚生労働省は平成30年の食品衛生法の改正で指定成分等含有食品の制度を導入しました。特別な注意が必要と厚生労働大臣が指定した指定成分等含有食品については、食品衛生法第8条に基づき、健康被害情報の届出が義務化されたほか、告示や通知で製造・加工の基準が示され、適正製造規範、つまりGMPに基づく製造が義務化されることとなりました。

 そのように、まずは指定成分に関して制度化を行いましたが、それだけで十分とはいえません。指定成分以外のいわゆる「健康食品」の安全性確保も検討していく必要があります。そのため、指定成分制度を導入した後、平成14年通知と平成17年通知の両方の改正に向けた検討を同時に進めてきました。どちらもいわゆる「健康食品」の安全性を確保するために重要な通知です。

──厚生労働省が担当している食品衛生基準行政の業務が4月、消費者庁に全面的に移管されます。両通知の所管はどうなりますか

一色 平成14年通知に関しては、いわゆる「健康食品」との関連が疑われる健康被害情報の収集という監視業務にあたりますから厚生労働省の所管となります。具体的には食品監視安全課です。一方、平成17年通知に関しては、製造基準に相当しますので消費者庁に移管される食品衛生基準審査課(仮称)が所管します。

 ちなみに、指定成分制度の所管についてご説明すると、食品衛生法第8条第1項の成分指定に関しては、監視と基準の両方の観点が必要であることから厚生労働省と消費者庁の共管となります。一方、8条第2項、第3項の健康被害情報の収集は厚生労働省、製造・加工基準については消費者庁がそれぞれ所管することとなります。

──まずは平成14年通知(健康食品・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領)の改正について解説をお願いします。

一色 先ほど申し上げたとおり、指定成分等含有食品については健康被害情報の届出が義務化されています。一方、それ以外のいわゆる「健康食品」については、平成14年通知に基づき、健康被害発生の未然・拡大防止を目的に、住民などから保健所に対し、いわゆる「健康食品」等との関連が疑われる健康被害情報の届出をお願いしています。しかしながら、指定成分以外のいわゆる「健康食品」について、令和2年6月から令和4年12月の間に厚生労働省に報告された健康被害情報は18件のみでした。

──2年半で18件はあまりに少ない、ということ?

一色 そう認識しています。薬事・食品衛生審議会新開発食品調査部会の臨床医の委員からも同様の意見を頂戴しました。そうした背景もあって、審議会からは、より効果的に健康被害の未然・拡大防止を行うために、健康被害情報の収集の強化等を含めたいわゆる「健康食品」のリスク管理の全体像の見直しや対応策を検討する必要があると指摘され、それを踏まえて改正検討を進めてきました。平成14年通知を改正することで、健康被害情報の収集制度の存在がもっと周知され、より多くの健康被害疑い情報が報告されること、そして多くの健康被害疑い情報をもとに評価を行うことで、迅速な対応ができるようになることを期待しています。

──平成14年通知の改正ポイントを解説してください。

一色 大きく6つあります。まず、本要領において健康被害情報を求める食品の明確化です。生鮮食品を除く保健機能食品も含むいわゆる「健康食品」と整理しました。次に、総合的な見地から成分指定を行うことの明確化です。事業者の中には、「危ないという情報があれば、何でもかんでも指定成分にされるのではないか」と心配されている方もいらっしゃるかもしれませんが、我々にそうした考えはありません。それを明確化させるために、生理活性、流通実態、食経験、国内外でのアラート情報などの総合的な見地から成分指定する、ということを明文化しました。

 その他、3点目および4点目として、健康被害情報の収集強化を目的にした「情報の均一化、保健所業務の省力化を可能とする自治体用受付処理票の作成」と「厚生労働省への報告を促す報告要否確認シートの作成」があります。要否確認シートは、厚生労働省に報告すべき健康被害情報なのかどうか保健所の判断が難しい、という意見を受けて作成したものです。あとは5点目として「保健所が摂取者、事業者、医療機関等の関係者へ追加調査を行うことの明文化」。6点目として「健康被害発生時の厚労省の対応についての明文化」。健康被害発生時、保健所や厚生労働省がどう対応するかが見えづらい部分があったため、明確化しました。

──平成14年通知は、あくまでも各地の保健所に向けられたものです。事業者ではありません。その点は改正後も変わらない。ただ、健康被害が疑われる情報が集まりやすいのはむしろ事業者であって、消費者に接している最終製品販売会社なのではありませんか?

一色 確かに、平成14年通知は自治体に向けた通知です。ですが、情報が集まりやすいのは事業者であるということも理解しています。そのため、予期せぬ健康被害の拡大を防ぐためにも、また、食品衛生法第3条の事業者責務である安全性確保を行っていただくためにも、事業者の皆様には健康被害が疑われる情報が消費者などから寄せられた際は、情報の提出にご協力いただきたいと考えています。医薬品のようにはっきりとした生体作用がない健康食品に関しては、因果関係を評価するために、多くの健康被害と疑われる事例を集める必要があります。

──その要請に事業者が応じなければならない法的根拠はありますか。

一色 法律に基づく届出義務があるのは指定成分等含有食品のみですが、実際に、現在も一部の事業者からご協力をいただいているところです。情報提供すると成分指定される可能性があると心配する事業者もいらっしゃるかもしれませんが、健康被害との関連が疑われる情報が専門家に評価されることにより、透明性が高まり、より安全な使用につながっていくというメリットと考えていただきたいと思います。

 指定成分との関係では、14年通知の改正検討に当たっては、業界団体の皆様からいただいたご意見も踏まえ、厚労省に情報を提出した事業者が一律に損をすることがないことが分かるようにしました。その時々の状況に応じた対応となるため、はっきりとした数値基準をお示しすることは難しいのですが、「指定成分等への指定は、行政裁量ではなく科学的見地に基づき行う」という意味で、成分指定をするときは総合的な見地から判断することを明確にしました。今後も業界の皆様とコミュニケーションをとることで、事業者が安心して厚労省に情報提供を行える体制を整えていきたいと考えています。是非ご協力をお願いします。

 もう1つ、平成14年通知に基づき厚生労働省に報告された健康被害事例については、専門家が評価するために必要な情報がより多く集められるよう、都道府県や保健所を通じて、事業者や医療機関などに追加の聴取をさせてもらっています。管轄の保健所からそうした照会があった際は、より総合的な見地から判断できるように、過去の健康被害情報や製造・販売情報、扱っている製品・成分の安全性情報などをご提出いただくことも併せてお願いします。

──昨年(2023年)、指定成分以外にについて厚生労働省に報告された健康被害情報はわずか1件でした。この数字をどう見ますか。

一色 業界の方々の安全性確保への取り組みで被害情報が減っているという側面もあるかもしれませんが、新開発食品調査部会でも、1件というのは少ないとご指摘をいただきました。そういった背景もあり、平成14年通知の改正検討を進めてきましたが、厚労省への報告が少ない原因として、研究事業を通して、①どのような場合に保健所から厚労省への届出を行えば良いかわかりにくいこと、②消費者や医療機関等の関係者から保健所への相談が少ないことの2つの問題があることが分かっています。

 ①に関しては、今回の改正において、情報提供票の更新と報告要否確認シートの作成を行うことで対応します。また通知改正に伴い、全国の保健所に本通知の存在を再周知すると共に、説明会で現在の厚労省が考えている課題感を伝えていきます。②に関しては、消費者に対するリスクコミュニケーションや医療関係者などへの情報提供が重要です。消費者の中には、健康食品は100%安全であると信じている方もいらっしゃいますが、生体作用がある成分に関しては、特定の医薬品との飲み合わせや過剰摂取により健康被害が起こることもあります。「正しく健康食品を利用することが重要であること」、「健康食品は医薬品ではないため、健康食品だけで健康になるわけではないこと」、「健康食品の摂取をきっかけとして生活習慣を見直すこと」などを啓発していきたいと考えています。

 令和6年度4月1日より、われわれ食品基準審査課は、リスクコミュニケーション推進のとりまとめを担う消費者庁へ移管します。この機会も活用し、科学的知見に裏打ちされた消費者啓発を更に推進していきます。

後編に続く)

【聞き手・文:石川 太郎】

プロフィール
一色聡志(いっしき・さとし):2022年4月、厚生労働省健康・生活衛生局食品基準審査課新開発食品保健対策室健康食品安全対策専門官に着任。それ以前は製薬企業で研究業務(創薬・CMC)、研究企画・管理業務、デジタル推進等に従事。

関連記事:【特集 サプリの製造・品質管理を再考する】健康食品「2大通知」、改正でどうなる?

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