老舗の検査機関「穀検」が不正 事故米の不正流通の轍を踏むな！
元食品表示Gメン 中村 啓一 氏
国、関係機関を世論が厳しく糾弾
コメ離れが進んでいると言われるが、主食であるコメへの消費者の関心は高い。
2008年に発覚した事故米の不正流通。残留農薬やカビなどにより、食用不適とされた政府保有の輸入米を工業用として買い受けた事業者が食用に転売した事件だ。当時、筆者は事故米の流通ルートを解明するチームの責任者として関わったが、主食であるコメの安全が脅かされたことに対する国民の怒りは大きかった。世論は、当事者とともに不正転売を防げなかった農林水産省も厳しく糾弾した。
コメは国家貿易品目、MA米で不正発覚
コメは、国が輸入を独占する国家貿易品目だ。我が国は、貿易協定でコメの関税を維持する代償として、国内消費量の一定割合のコメを輸入するミニマムアクセス(MA米)を約束している。MA米は、年間70万トン以上が輸入され、うち15万トン（令和３米穀年度）が食用として販売されている。そのMA米の検査で不正が発覚した。
異常米に検査証明書を交付
農林水産省は1月24日、輸入米の品質検査に不正があったとして（一財）日本穀物検定協会（穀検）に対し、外国産農産物の検査業務を3カ月間停止する命令を発出した。
穀検は全国に6支部を配置しているが、関西神戸支部管内で昨年、陸揚げ中に雨で濡れたり、カビが発生しているMA米を確認したにもかかわらず、必要な検査を実施せずに検査要件を満たすとする検査証明書を交付していた。
支部では検査に当たった検査員だけでなく、トップの支部長も不正を把握していたにもかかわらず、本部に報告をしていなかったことが判明している。
2021年にも報告義務怠る
関西神戸支部では、一昨年にも不正が確認されている。輸入されるコメについては、農産物検査法で土砂の混入を調べる検査を定めているが、この検査を同支部では16年から5年間にわたり行っていなかったにも関わらず、検査証明書を発行していたものであり、21年9月、農水省は穀検に対して業務改善命令を発出している。
この時も、同支部から本部への報告を怠っていたと指摘されている。短期間に不正な検査や組織的な隠蔽とも指摘される行為を繰り返したことが、今回の業務停止という厳しい処分に至ったと考えられる。
農水省は、不正検査が確認されたコメは政府が管理しており、市場には流通していないとしているが、市場に流通すれば事故米不正流通の二の舞ともなりかねない。
筆者は1993年、農水省のお客様相談室ともいえる「消費者の部屋」を担当していた。
その年の秋、コメの凶作から平成米騒動といわれた事態となり、連日、対応に追われた。
「スーパーでコメが買えない！」という消費者の必死の訴えが殺到し、私は電話対応で夕方には声が嗄れ、痰に血が混じる状態だったが、日本の消費者にとってコメは特別だということを改めて実感することになった。
穀検は老舗の農産物検査機関
米・麦・大豆などの農産物の検査は、農産物検査法に基づく登録検査機関が実施する。
穀検は1952年に米穀配給制度廃止に伴う第三者検査機関として設立され、70年の歴史と伝統を誇っており、全国をカバーするなど権威ある最大手の登録検査機関だ。毎年、コメの食味ランキングを公表していることでも知られており、農産物、飼料、食品などの幅広い分野で高度な検査・分析技術を有している。
今回の処分を契機に、組織を挙げて再発防止と信頼の回復に取り組むことを期待したい。
＜筆者プロフィール＞
1968年 農林水産省 入省（主に、食品産業・食品流通関係行政を担当）
2001年 近畿農政局 企画調整部 消費生活課長
2003年4月 総合食料局 消費生活課 企画官
2005年4月 消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長
2009年1月 総合食料局 食糧部 消費流通課長
2011年8月 農林水産省 退官
近畿農政局時代にBSE、牛肉偽装問題を担当、以来10年にわたり食品表示の監視業務に携わり、さまざまな食品偽装を摘発。2008年の事故米不正流通ではチーム長として、事故米の流通ルートの解明を担当した。公務員として、東日本大震災被災者への食料支援が最後の業務となった。
退官後は、「元食品表示Gメン」として食品表示に関わるさまざまな情報を発信、メディアにも出演している。
＜著 書＞
『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著（ぎょうせい）2008年
『食品偽装との闘い』（文芸社）2012年
＜参 考＞
〇農産物検査法に基づく登録検査機関の改善命令及び業務停止命令について（令和5年1月24日 農林水産省）
