科学的根拠が不十分と判断した理由 【機能性表示食品めぐる景表法違反】消費者庁表示対策課の説明
2017年以来2度目となる、機能性表示食品をめぐる景品表示法違反(優良誤認)事件が起きた(6月30日付け既報)。科学的根拠に基づく届出表示(ヘルスクレーム)から逸脱した広告表示が問題となったのが前回。一方で今回は、そうした逸脱だけでなく、容器包装などに表示したヘルスクレームそのものが違反認定された点で性質が大きく異なる。ヘルスクレームを裏付ける科学的根拠が不十分──さくらフォレスト㈱(福岡市中央区)に措置命令を行った消費者庁はそう判断した。
判断の根拠は何か。記者を集めて違反概要を説明した同庁表示対策課はその一部を明かしている。景表法の不実証広告規制に基づき、表示の合理的根拠を求められた同社は、当該機能性表示食品の届出資料などを提出。提出資料には、研究レビュー(SR)で検証した科学的根拠資料やSRに採択した論文が含まれていた。表示対策課は、有識者の意見も聴きながら提出された根拠資料の内容を調査。その結果、根拠資料は、届け出されたヘルスクレームを裏付ける合理的な根拠にならないと見なした。
今回の措置命令の対象商品となった機能性表示食品『きなり匠』のヘルスクレームは、機能性関与成分として含まれるDHA・EPAによる中性脂肪の低下、モノグルコシルヘスペリジンによる血圧の低下、オリーブ由来ヒドロキシチロソールによる血中LDLコレステロールの酸化抑制の3機能。もう1つの対象商品『きなり極』は、DHA・EPAによる中性脂肪の低下のみをヘルスクレームとしていた。いずれも、機能性関与成分のSRを科学的根拠として届け出ており、どのSRも複数の論文を最終的に採択している。科学的根拠としての確からしさが議論になることがある、いわゆる「1報レビュー」ではなかった。
根拠論文30報以上 一方で問われた配合量とSRの適切性
6月30日をもって表示対策課を離れた田中誠・前ヘルスケア表示指導室長によると、さくらフォレストは、DHA・EPAの中性脂肪低下機能に関する表示を裏付ける合理的根拠として、30報を超える論文を提出。届け出されたSRを見ると、37報の論文を採択している。
DHA・EPAに中性脂肪低下機能があることは疑いようがない。特定保健用食品(トクホ)の関与成分として、中性脂肪を下げる旨の表示を国が許可しているほか、中性脂肪などの脂質低下薬の有効成分として国内外で承認されている。それにもかかわらず、提出された根拠資料の合理性を認めなった理由について田中氏は、対象商品から摂取できるDHA・EPAの「量」を挙げる。
『きなり匠』はDHAおよびEPAを合わせて1日当たり400mg、『きなり極』は500mgをそれぞれ摂取できる商品設計だった。一方で、「提出された根拠資料は、本件商品に含まれるDHA・EPAの1日当たり摂取量の倍近い量で検証されたものがほとんどだった」と田中氏。医薬品の場合は1,680mgあるいは1,800mg、トクホでも860mgもしくは1,050mgが1日当たり摂取目安量になっているとする。
ただ、根拠資料には、1日当たり400mg以下でも効果があるとする論文も含まれていた。この点について田中氏は、「その量では効果が認められないとする論文も同程度あった」。SRは「肯定的な論文と否定的な論文の結果を両側面から適切に評価する必要がある」とし、同社が届け出たSRは、「適切な評価が行われていたとは認められなかった」とする。機能性表示食品の届出ガイドラインでもSRに求めている「トータリティ・オブ・エビデンス」の観点から、1日当たり400mgや500mgを摂取することで中性脂肪低下機能があるとする科学的根拠の脆弱性を指摘したかたちだ。
有意差評価の方法も調査 「データ解析の仕方が不適切」
一方、モノグルコシルヘスペリジンの血圧低下機能に関して提出された根拠資料は、減塩醤油と同成分を併用した場合の血圧低下機能を検証したものだった。届け出されたSRを見ると、モノグルコシルヘスペリジンを含む減塩醤油の摂取が正常高血圧に及ぼす効果を、同成分を含まない減塩醤油を摂取した群と比較した論文3報を採択している。田中氏は、「本来であれば、減塩醤油による減塩効果の部分も加味すべき」だとし、「提出された根拠資料では、当該成分を単独で使用した場合の(血圧低下)効果を裏付けるものとは認められない」(同)と断じる。
さくらフォレストは『きなり匠』について、自社ウェブサイトで「血圧をグーンと下げる」などと表示していた。これを同庁は今回、ヘルスクレームから逸脱した「はみ出し表示」だとして不当表示(優良誤認)を認定している。「当然ながら、血圧を大きく下げる効果に関しても、この根拠資料では、客観的に実証するものとは認められない」(同)。
そしてオリーブ由来ヒドロキシチロソールの血中LDLコレステロール酸化抑制機能に関して提出された根拠資料について田中氏は、有意差の評価方法が「不適切」であったとする。当該SRでは、海外ジャーナルに掲載された論文3報を採択。田中氏は、詳細な説明は避けつつ、「有意差があるか、ないかの検定の仕方、データ解析の仕方で不適切だった」と述べ、各論文の統計解析方法を問題にしたことを示唆した。
【石川太郎】
(冒頭の写真:6月30日に消費者庁内で開かれた、さくらフォレストに対する措置命令に関する記者説明の様子。写真奥が前ヘルスケア表示指導室長の田中誠氏)