神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(18)
(公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木英明
<厚労省「46通知」の背景>
1971年に厚生省が46通知を出して無承認無許可医薬品の指導取締りを強化したのだが、その効果は薄かった。健康食品などの販売法として悪質なマルチ商法や催眠商法が行われていることが問題になり、76年に通産省は「訪問販売法」(現在の特定商取引法)を制定した。77年に公正取引委員会が「天然、自然等の不当表示」を規制し、その後も同様の措置を繰り返している。
78年に国民生活センターが「健康食品・その問題点を考える」 を刊行し、1984年に経済企画庁が「『健康食品』の販売等に関する総合実態調査」を実施している。当時の健康食品の実態を知るために、この実態調査の一部を紹介する。
<経企庁の健食実態調査>
この調査では、健康食品の特徴と問題点を次のようにまとめている。
①消費者が何らかの効果を期待して飲食する。②錠剤やカプセルのような形態をしている。③満腹感や味覚により摂取量を制御しにくい。④濃縮加工により特定成分の過剰摂取が起こり得る。
表示については、①美容、健康維持、予防・治療効果の表示がある。表現は有効性の説明、医療関係者の話、体験談などの間接的なものが多い。個々の文章には問題がなくても、全体を通じて見ると効果が暗示されているものが多い。②三段論法も多い。例えば「Aが不足するとB病になる」「Aを食べるとB病を予防できる」「この製品にはAが含まれている」という「不安をあおる広告」である。しかし、Aの不足がB病の原因なのか、Aを食べればB病が予防できるのか、科学的根拠を示していない。
製品の表示に効能を記載しているものは少ないが、店頭で配布されるチラシなどの広告物には医薬品のような効果を記載したものが多い。また、医薬品に近い効果が期待できるが、医薬品ではないので副作用がなく安全とする広告、天然素材を使ったり、着色料や保存料を使っていないから安全とする広告も多い。
<今も目にする宣伝文句>
そのほか、「背が思いのまま伸ばせる」、「飲むだけのバストアップ」、「頭髪の自然発生バツグン」、「宿便をとって血液をきれいに」、「ガン予防」、「美容と病気の予防ビタミンC」、「摂ってもまだ足りないカルシウム」など、美容・痩身・疲労回復・強壮・体力増強・老化防止・血液浄化・成人病予防など、現在も目にするような宣伝文句が使われていた。
原材料については、これまでに食用にしたことがないものがあったり、菌や酵素と称する詳細が不明なものがあり、その安全性に懸念があるもの、製造工程については、殺菌が不完全な場合や再汚染の可能性があるもの、特定成分が極めて高濃度になっているものなど多くの問題が指摘されている。現在の「いわゆる健康食品」については、このような問題は解決されているのだろうか。
(つづく)
<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。